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4人の魔法使いの冒険  作者: 藤見倫
第2章:スターリー神殿の謎
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第35話:王国首都、水の都ウォーターランド

 翌朝、朝食後すぐに出発した。時間は伝えてなったのにテツヤとスズさんが見送りに来た。


「バイバイ、お兄ちゃん、お姉ちゃん」


「またいつでも来てくださいね、今度はハンバーグをごちそうしますから」


「バイバイ、元気でね」


「またな、テツヤ」


「ぜひ、デミグラスソースでお願いします」


「まあ♪」


 花巻さんはコメントが浮かばなかったのか無言だったが、笑顔で手を振っていた。テツヤたちと完全に別れ、歩き出す。門番の兵士には、深々と頭を下げられた。照れ臭いからやめて。


 門の前には、焼け焦げた跡が広がっている。昨日の出来事は”グリンタウン西門前大火災”と名付けられ、ヤクザたちはその放火犯としてウォーターランドに収監された。ただの放火事件でないのを知るのは、当のヤクザたちと、4人の魔法使いを含む一部のプレイヤーと、お役所と、グリンタウンの人々。結構いるな。


「ホントに昨日、ここで戦ったのよね・・・」


「そうだな。俺も今でも信じられねぇ」


「でも、事実だよ。この焼け跡は、戦いの証だね」


「もう、こんなことが無いといいね」


 1人一言ずつ放って、4人揃って前に進み出した。昨日出払ったせいなのか、しばらくはモンスターが一切出てこなかった。彼らは隠れた功労者だ。”功労”どころか、彼らがいなければ負けていた。


 ある程度進むとグリーンウルフとコットンリッスが出てくるようになったが、もはや俺たちの敵ではない。この他に新たなモンスターが出ることもなく、ウォーターランドの姿が大きくなってきた。

 一言で言うと、水のテーマパークだ。まず、街自体が川の上にある。北から南に向かって大きな川が一本と、その脇に小さな川がいくつも流れており、その上にウォーターランドの街がある。

 街の内側も、至る所に噴水とかちょっとした滝みたいなオブジェが見える。木造の物が多いが、ガラスかアクリルっぽい透明な水路が宙を走ったりもしている。一番目立つのはやや南寄りにある観覧車で、鉄筋で作られているが一番高いの滝の下にあり、半周過ぎた辺りでゴンドラに水がかかる洒落た仕様なっている。


「すごい・・・」


 高松さんが感嘆を漏らす。グリンタウンの緑も壮観だったが、街がデカくなってるのもあってこっちの方が見た目が凄い。一部の人工的要素から”ナチュレ”王国はどうしたとも言いたくなるが、それを差し引いても”ウォーターランド”の名に恥じない。


「なあ早く行こうぜ」


「そうだね」


 思わず立ち止まっていた。中野の声を合図にまた進み出す。街の入り口にはあっさり着いた。


「わあぁ」


「近くで見ると、またすげぇな」


「”ウォーターランド”とはよく言ったものだね」


「ここのヤクザたちを全滅させたんだよな、俺たち」


「そうだね。でも元がどうだったか分からないし、夜中に人の少ない場所とか行かないから実感は湧かないと思うよ。ここの住人でもヤンキーの兄ちゃんぐらいしか気付かないんじゃないかな」


「ちぇっ、なんだそんなもんかぁ」


 パッと見は閑静な住宅街だ。端の方とは言え門の近くだし、ヤクザも出歩いたりはしないだろう。でもちょっと歩いて路地裏に行くとヤクザの巣窟(だった場所)があるはずだ。この門とは別に街の外に出る抜け道もあるだろう、あのデカい木造車が30台もあったんだから。既にこの街の軍隊が押さえたりしてればいいが。


 治安維持を強化するなら、今このタイミングしかない。現役のヤクザは一掃されたが、ヤンキーの兄ちゃんとか行き場の無い若者は居るだろう。放っておけば裏社会を仕切っていた連中がいなくなった事に気付いて態度がデカくなっていき、その中から次のボスが生まれる。

 今後この街がどうなるか、全ては奴らが捕まったことを知るお役所次第だ。元からヤクザがウジャウジャいた街のためには、俺は頑張れないからな。


 4人とも立ち止まったまま辺りを見回していると兵士が近寄ってきた。


「お前たち、この街は初めてか」


「え、あ、はい、そうです。近くに宿屋ってありますか?」


「すぐそこに水上バスがあるから、それに乗って1つ目のバス停で降りるといい。この街で一番安い宿屋はそこだ」


「ありがとうございます」


 兵士が指差した方向にはそれっぽい感じの船着き場とボートがあった。ボートは30人乗れるかどうかといったところだが、既に前を走っているもの、反対側からこっちにやって来ているものがあり、便数は多いようだ。行列も大したことはない。次の便には乗れるだろう。


 船着き場―――さっき兵士は”バス停”と呼んでたが―――に着いた。


「へぇ~~。何かテレビでよく見る外国みてぇだな」


「外国どころかゲームの世界だけどね」


「大村君ってそういうのは口がよく回るのね」


「・・・いやーそれほどでも」


「褒めてないわよ」


「・・・・・・」


「・・・”バレたか”は無いのね」


「うん、読まれてると思って」


「はあ・・・何でこんな子になっちゃったの・・・?」


 高松さんの教育を受けなかったからだね。最後の言葉は独り言と受け止めて路線図を眺めることにした。路線は十字に縦横1本ずつ、停留所は全部で9つ。十字の中心に1つと、東西南北に2つずつ。ここは東の端、”イーストゲート”だ。宿屋がある次の停留所は”ウォータースタジアム”、競技場でもあるのだろうか。その次、十字の中心は”クロスポイント”、分かりやすいネーミングで何よりだ。


 西に行くと”キングダムホテル”と”ウェステストパーク”、高級ホテルに、西の端の公園といったところか。北は”ザ・パレス”と”ノースブリッジ”、王宮と、橋? 南は”フェリス・ホイール”と”アクアリウム”、"フェリス"の意味は分からないが"ホイール"の名前と地理的に多分あの観覧車、アクアリウムは水族館だろう。こういった路線図を眺めるのは、割と好きだ。電車のホームや車内でも気が付くと見入っている。


 路線図を眺めている間に次のボートがやって来た。列が進むのに合わせて乗り込む。


「うっひょ~~、すげぇ! 街ん中で船に乗ってるぜ俺ら」


 あんた東京に住んでんだよね? 似たような商売があった気もするけど、まあ乗らないか。


「水がキレイで風も気持ちいいわね~」


 高松さんが思いっきり背伸びをする。


「バス停1つ分ってどれくらいなんだろ、この街かなり広そうだけど」


「ん~~どうかしらね。自転車乗ってる人多いし結構時間かかるかも」


「いいじゃねぇか、せっかくの船がすぐ終わったらつまんねぇし。てかこれチャリとあんま変わんなくね?」


「まあ船だしそんなもんなんじゃないの? 車みたいなスピード出されたらそれこそ怖いよ」


「あー、それもそうだな」


 会話に切りがついたところで俺は離れた位置にあるベンチに腰を下ろした。首を向ける方向次第で、水路の左右両方の景色が見える。中野はデッキをウロチョロしており、女性陣は1箇所に留まって世間話をしている。


 目的地が近づいてきたことは、競技場のような建物が見えたことで分かった。俺も中野も女性陣の元に戻った。


「これがウォータースタジアムっぽいね」


「サッカー場かな? 野球とか体育館じゃなさそうね」


「宿屋行く前にちょっと見てみようぜ」


「そうね、それからお昼食べて宿屋行こっか」


「はーい」


 最後の「はーい」は俺だ。高松さんがオカンみたいな振る舞いをするから子供っぽい振る舞いをすることが増えた。そろそろわざとやってると気付かれそうだし、ほどほどにしよう。



 結論から言うと、ウォータースタジアムはサッカー場じゃなかった。競艇場だった。門を通ろうとしたら止められ、入場料を求められた。100円だったので気にせず払ったが、中には水が張ってある競艇コースがあって、10台ぐらいのボートがレースを繰り広げていた。

 この世界の住人は20歳未満はギャンブル不可だが、プレイヤーは年齢関係なく(というか年齢確認の手段がなく)レースの予想に参加できる。せっかくだからと次のレースで俺と中野が1,000円ずつ賭けたが、見事に外れた。ビギナーズラックに期待したが、そんなに甘くないな。のめり込んでしまう前に引き上げるのが得策。まあ、俺や中野の意志が弱くてもオカンたる高松さんがいれば大丈夫だ。


 昼飯は”水上レストラン”なる名前のレストランでいただいた。その名の通り、水上にある。水上バスの水路を横断する橋で1つだけやたら高いのがあったので行ってみたらレストランだった。高い位置にある上にガラス張りなので眺めがいい。強いて文句をつけるなら、これもこのレストランの特色なのだろうが、床もガラス張りなことだ。結構高さあるし、水上と言うよりは空中レストランだな。


「すっげぇな、ここ」


「あたしも、来てみてビックリ」


 なお、スカートでの来店は拒否しているらしい。この真下、頻繁に水上バスが通るもんね・・・。それでも見上げてくる乗客とかカメラ向けてくる奴もいるけど。低俗な・・・とも思ったが、人間っぽくて少し安心した。手を振ってくる子どもの姿も微笑ましい。


 大抵のメニューが2,000円前後と割高だったが、かなり美味かった。真下を水上バスが通るのを女性陣がどう思ってるかは知らないが、俺は当然そんなこと気にしないので良いランチだった。どちらかと言うと、水路の上のガラス張りということ自体が気になる。あ、でも落ちるなら地面より水の方がマシか。

 お洒落なメニューが多いのもあって、女性客は割と多い。ガラスの床も下を通る水上バスも慣れてしまえば何ともないのかも知れないし、この辺の住人なら承知の上で来てるだろう。一部、水上バスの乗客に見上げられてテンション上がってる人もいるが・・・見なかったことにしよう。世の中いろんな人がいるね☆ お店側がスカート禁止してて本当に良かった。


 食事を終えて宿屋に向かった。一泊3,000円。首都だけあって、一番安い所でもグリンタウンと比べて文字通り桁違い。でも現実世界の相場からすれば安い。部屋もかなり広く、男女で二手に別れたが4人でも余裕で入れる。トイレと風呂も2つずつって凄えな。洋風の内装で高級感もある。こうなると”キングダムホテル”が気になってくる。いつか、泊まりたいね。


 午後は4人で適当に練り歩いた。高松さんの発案で、ここと、東門辺りだけにしようということになった。他のエリアは明日かな? 個人的には装備屋にも行きたいのだが、今日は諦めよう。滝やら謎のオブジェやらを見て回った。


 7時頃に東門付近で夕食にした。今度は地上の、定食屋っぽい所だ。クオリティは昼の店には劣るけど割と美味い。お値段は1,000円ちょっとと普通ラインだ。


「ねえ」


 高松さんが何かを切り出すように話しかけてきた。


「ん?」


「明日はさ、男女のペアで行動しない? 午前と午後で交替してさ」


「お? いいねぇいいねぇ。やろうぜそれ」


「別にいいけど」


 花巻さんも首を縦に振った。多分、花巻さんには事前に伝えていたはずだ。


「やった。2人だけの方がそれぞれと色んな話ができると思うんだよね」


 俺は特に話したいことはないなー。特に高松さんと2人になったら何を言われることやら。まあ、俺が悪いんだけど。


「普通にやると午前の方が短くなっちゃうから2時ぐらいに交替でいい? お昼は午前のペア、晩ご飯は午後のペアでね」


「うん、いいんじゃない?」


 考えてみれば、これまで食事はずっと4人揃っていた。それ以外も含めて、長時間2人で行動するのは初の試みだな。同性同士は毎晩同じ部屋だから、もうそれなりに分かってきている。仲良くなってるかどうかは別として(特に俺と中野が)。

 グリンタウンでの一件を終えたこのタイミングで、女性陣とも2人で過ごしてみるのは良いことだな。これからの旅のことを考えると、メンバー同士のことを知っておく必要がある。女子だからと言って遠慮している場合ではない。


「どっちが先かは、ジャンケンね」


 結果、前半は高松さん、後半は花巻さんと過ごすことになった。良かった。花巻さんからすれば、ランチはともかくディナーを中野と過ごすのは苦だろう。中野にとっても後半に高松さんの方がいいはずだ。俺としても、前半に怖い方を済ませておきたい。なんてこと考えてるのがバレたら怒られちゃう☆ね。


「それじゃ、明日はよろしくね」



 2人で過ごしてお互いのことを知る、必要なことだ。高松さんから切り出してもらったのはありがたい。だけどどうやって乗り切ろうか・・・。宿屋に戻ってからも上機嫌な中野とは裏腹に、憂鬱な気分だ。デートとは、いかにして楽しく過ごしてもらうかじゃない。いかにしてその場を乗り切るかだ。俺はもうそれしか考えてない。


 でも考えても仕方がない。眠いし、寝よう。明日は明日の俺が何とかしてくれるさ、きっと。


次回:水の都デート(前編)


※フェリス・ホイール:英語で観覧車(Ferris wheel)

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