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4人の魔法使いの冒険  作者: 藤見倫
第1章:グリンタウンを救え
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第33話:願いを叶える魔法

 どうすればいいのか、最善策が分からずに門の前に立ったまま時間だけが過ぎていく。いつまでも迷っていてはダメ。ここにいよう。ここだけは絶対に通さない、これを最優先にしよう。

 相手は、銃やナイフを持っているとは言え生身の人間。私には、魔法がある。プリズムネットは範囲も広いし尻餅をつかせるぐらいならできる。


 右も左も状況は悪い。特に右は、狼が銃で着実に減らされていってる。元々、狼に戦わせて隙を見て攻撃するような形だったから、その狼が減って攻撃できなくなってきてる。

 プレイヤーがまた1人、やられた。全身鎧の兵士よりも狙われているように思える。それでも、鎧を外されナイフで刺された兵士が何人も、座り込んだり門から街に入ったりしている。中には手遅れになっている人も・・・。


 ブンブンッ、と私は頭を振った。今は悲しんでいる場合じゃない。左を見ると、もう5mもないぐらいの場所まで押し下げられていた。もう門から街に入ることも余裕でできるだろうに、誰もその素振りを見せない。やっぱり、私たちを全滅させるつもりだ。


「お、おい! 嘘だろ!」


「まさかみんな・・・!」


 左右からそれぞれ声がした。左に2人、右に1人、白く光ながら自分の手や体を確かめている人がいる。まさか。


「う、うわあああぁぁぁ!!」


 やがて、その3人の姿が消えた。もう1人はきっと、さっき宿屋に向かった人。これを境に左側はみるみるうちに詰められ、目の前まで来た。誰も何もすることができず、狼が全滅するのを見届けた。


「こりゃ、もうお終いだ・・・」


 中野君が呟く。この状況じゃ無理もないけど、


「まだよ!」


 私は杖を、敵陣の一番奥、左サイドの指揮官に向けた。


「スパイラルショット!」


「ぬっ」


 左の指揮官は2~3mほど飛んで地面に倒れた。通り道にいた敵たちもバランスを崩している。


「このアマ!」


 風の影響を受けなった位置にいた敵が走ってくる。


「くっ、ぉぉぉおおおお!! 俺だって! ダークトライアングル!」


 中野君も魔法を出した。


「ぬおっ! くそ、ネズミが最後の悪あがきか」


 相手が体勢を崩した隙に兵士たちが前に出た。でもプレイヤーたちは動かない。さっき全滅したチームが出たから消極的になっている。私たちは、兵士を魔法に巻き込む訳にもいかず単発攻撃による援護をしたが、全員が捕まるまでにそう時間は掛からなかった。


 そして、右側も同様に全員が捕まり、1人1人ロープで縛られた。

 ここまで、か・・・。これが、私の限界。特に何か失敗した訳じゃなくて、単純に能力の限界。


<葵、戻ってきちゃダメ。みんな門の前で捕まっちゃった>


<え・・・。そう・・・分かった>


 これで、葵が大村君の回復に行くこともできなくなった。テツヤ君1人でどうにかできるものでもない。



 私たちの、負け。



 敵のボスが車を降りて近づいてきた。


「随分な真似をしてくれたなぁ、え? 昨日の話じゃ裏に棲みつかせてもらうだけのつもりだったんだが、先に約束を破ったのはそっちだ。何しても文句は言わえねぇよなぁ?」


「くっ・・・!」


 隊長がどんな表情をしているかは見えない。あとはもう暴力団の好き勝手にされるしかない。大村君にも状況を知らせないと。


<ごめん、みんな捕まっちゃった>


 返事はすぐに返ってきた。


<そっか、分かった。あとは何とかする>


 思わず目を見張った。何とかするって、どうやって・・・。 「お願い」とも「もう無理だよ」とも言うことができず、何も返事をしなかった。本当に、何とかできるの・・・?


 --------------------------------


 テツヤには、うつ伏せになって刀を横にして顔の前に出すように指示をした。刀は折れてはいるが、長さは十分だ。俺はテツヤの足の後ろ辺りに座っている。


「何があっても、その手は離しちゃダメだ」


「うん」


 俺が何をしようとしているかは、もうテツヤにも分かっているだろう。全員捕まったと高松さんから連絡があった。俺は左足が使い物にならないし、ただ1人無傷でいるテツヤだけが頼みの綱だ。

 火の海の端に着いて曲がると、2台の木造車が横並びに停まっていた。その間の隙間から、奥で兵士やプレイヤーたちが捕まっているのが見えた。高松さんと中野もいる。花巻さんの姿が見えないが、戻って来るのを高松さんが止めたのだろう。敵は30~40人ぐらいか。かなり減らせたんだが、ここまでだったか。


「おい、どうすんだよ」


 ロージが指示を待っている。


「あの車の左を通れ」


「くそ、こんな奴に指図されるなんて。バーボンさん、どうかお許しを・・・」


「バーボンは倒すと言ったはずだ」


「テメェらにゃ無理に決まってんだろ。それにバーボンさんがやられたらそれこそ俺ぁどうなっちまうんだよ」


「真っ当に生きたらどうだ。ヤクザなんか辞めて」


「それができりゃ苦労しねぇよっ。ったく」


 人は、苦労しなければ真っ当に生きていけないものだ。真っ当に生きようとすればするほど苦労すると言ってもいい。


 2台の車の左から回り込み、前に進む。次第に、車の陰から見える人の数が多くなってきた。バーボンは、ほぼド真ん中にいる。


「テツヤ、行くよ」


「うん」


 テツヤに少し前進してもらって、車の筐体に合わせて体を少し斜めに傾けさせた。俺は杖の先端をうつ伏せになっているテツヤの靴の底に当て、風魔法を溜め始めた。周囲に妙な気流ができる。杖を持つ右手に、少しずつ力を込めていく。


「バーボンさん逃げてください!! 俺、こいつらに脅されちまって、だから・・・!」


 バーボンが振り向く。異変に気付いたのか、銃をこちらに向けた。


 パン!


 空振り。でも時間の問題だ。


「テツヤ、行くぞ!」


「うん!」


 俺は魔法を放つべく全ての神経を右手に集中させ、大きく息を吸った。周囲に発生していた気流が一瞬にして止む。


 これで、決める。



「テツヤ・真一文字!!」



 ボオォン!


 轟音と共に杖から放たれた風によって、テツヤが前に飛んで行った。


「があああああああああぁぁぁ!!!」


 テツヤが顔の前に構えていた刀がバーボンの胴体の左側1/3ほどを斬った。テツヤ自身はバーボンの横を通り過ぎて地面にヘッドスライディング。その手には、折れた刀がまだしっかりと握られている。バーボンは仰向けに倒れた。


 辺りは静まり返った。突然の事にみんな何が起こったのか認識できないでいるようだ。ロープで縛られている仲間たちも驚きの表情を見せている。

 当のテツヤも、横になったまま後ろを確認し、今度は手に持っている、血が付いているであろう刀を眺め、また後ろを見た。


 バーボンは左横腹から血を流したまま仰向けで倒れている。死んではいないと思うが、気絶しているようだ。


「ボ、ボス・・・?」


「ボスが、やられた・・・?」


 ヤクザたちがザワつき出した。


「お前たちしっかりしろ! 近くにいる者はボスの救護、他の者はそのガキとあの魔法使いを捕えろ!」


 ナンバーツーであろう男が叫んで指示を出した。


「ぬおっ、・・・がああああああぁぁぁぁ!! この、クソ狼がああぁぁぁ!」


 ナンバーツーに狼が体当たりし、さらに肩に噛みついた。そして、反撃でナイフが刺されたのか、狼が地面に落ちて、消えた。

 すぐ下を見ると、ロージと狼の姿がなくなっていた。ロージの首を咥えていた狼が、いつの間にかナンバーツーがいる方に行ってたんだ。ロージは逃げ出したものと思われる。一応後ろも確認したが、既にいなくなっていた。まあいい。あいつ1人では何もできないだろう。それよりも前だ。まだ敵は残っている。


「テツヤ、まだだぞ!! まだ戦いは終わってないぞ!!」


 テツヤが動く様子はない。ダメだ。完全に集中が切れている。俺1人だけでも戦おうと杖を前に向けると、


「俺たちも戦うぞぉ!!」


「「「おおーーーーっ!!」」」


 門の方から大勢の声が聞こえてきた。そこには、桑や鉄パイプ、フライパンなどを持ったグリンタウンの住人たちがいた。叫び声を皮切りに一気を押し寄せてきた。敵の残りは30~40人。対する住人たちは、ざっと100人はいる。

 2人の指揮官を失い、短いナイフしか持っていないヤクザたちに為す術はなかった。次から次へと倒れていき、やがて立っているのは住人たちだけになった。


「は、ははは・・・」


 最後に街を救ったのは、他でもない街の住人たちだった。この人たち、兵士より強いんじゃ・・・。



<大村君、ただいま>


 門の方を見ると、花巻さんがこちらに手を振っていた。


<もう終わっちゃったよ。と言いたいところだけど、もしかして花巻さんが連れて来たの?>


 あーしまった。こういう言い方、花巻さんに通じるだろうか。気が抜けて思わず回りくどい言い方をしてしまった。


<うん。結構たくさんの人が外に出てたから、暴力団と戦っててこのままじゃ負けちゃうって伝えたら、みんな、俺たちも戦おうって言い出して。最後はちょっと、門の所で待っててもらったけど>


 どうやら通じたようだ。あと、花巻さんがこんなにしゃべるのも新鮮だ。メッセージだと声がいらないから話しやすいのだろうか。


<ありがとう、おかげで助かったよ。それともう1つだけ言いたいことがあるんだけど、いい?>


<うん、大丈夫だよ。何?>


<足、痛い>


 3秒ほどのタイムラグがあって、


<ごめんね! 今すぐ行くね!>


 走って来てくれた。これに登るのは時間がかかりそうだから風魔法を使って降りた。花巻さんの杖から出た青白い光が、俺の左足を包み込む。ズキズキ痛んでいたものが、すうっと消えた。


「ありがとう。それじゃ、みんなの所に行こうか」


「うん」


 仲間たちのロープをほどいた。ヤクザたちを縛ろうとも思ったが、ボッコボコに殴られていてほとんど動けないでいる。ケガの軽い兵士や魔導士、住民たちで市庁舎まで運ぶことになった。門の前の火の海は、ウォーターランドから応援が来て鎮火してくれるらしい。さすがに、隣町との間の道で大火事ともなれば動いてくれるようだ。


 テツヤは、未だに地面に横になっていた。まだ自分がやってのけたことを理解できていないのだろうか。


「テツヤ」


 テツヤが俺を見上げる。


「やったね」


 しゃがんで手のひらをテツヤに向けたが、反応が薄い。


「僕が・・・やったの・・・?」


「まあ、最後は街のみんなでやっつけたけど、敵のボスを倒したのは、君だよ。テツヤ」


「僕が・・・本当に・・・・・・」


 テツヤはしばらく血が付いている折れた刀を眺めた後、体を回して仰向けになり、両手で握り拳を作って、


「いやっったあああああああああ!!」


 その両腕を思いっきり伸ばした。ようやく、自分がしたことを実感できたようだ。ちなみに俺のハイタッチ要求はスルーされた。俺が自分からハイタッチをしようだなんて滅多にあるもんじゃなかったんだよ? 出会って数日のテツヤは知らないだろうけど。


「ホントに、良かった・・・」


 高松さんが全身の力が抜けたように腰を下ろす。女の子が地面に座っていいんですか、お嬢さん。


「マジでどうなるかと思ったぜ」


「ていうかもうダメかと思ったわ、みんなして捕まっちゃったし。絶望的だったトコにまた車が来たと思ったら大村君が乗ってるんだもん、ビックリしちゃった」


「え? でも何とかするって言ったじゃん」


「いや、そうだけど・・・ホントに何とかしちゃうなんて・・・。もしかして街の人たちも大村君が呼んだの?」


「ん? いや街の人たちは花巻さんが連れて来た。僕が頼んだ訳でもないよ。バーボン倒すとこまでしか考えてなかったから」


「え・・・? じゃあ葵が街の人連れて来なかったらどうするつもりだったの・・・?」


「さあ? 考えても無駄だよ。街の人が来なかった展開はもう実現できないからね」


「あ、ずるいっ」


「うまくいった後なら何とでも言えるんだよ♪ 結果が全てだからね。確かに嬉しい誤算もあったけど、無かったら無かったで何とかなったんじゃない?」


「う~~~~。でもそれで”何とかする”だなんて・・・信じるしかない人の気持ちも考えてよね。あの時のあたしの気持ちを返して」


 どんな気持ちだったかは知らないけど、返事がなかったことからすると色々と頭を巡ったのだろう。だがそんなものは知らん。1つ気になるのは、


「じゃあ”もう諦めよう”って言えば良かったの?」


「そ、それは・・・ダメ」


 ダメなんじゃーーーん。今まで頬を膨らませ気味で俺を見ていた高松さんが目を逸らした。


「どっちにしてもそんなことまで気にしてる余裕なんてないよ。あの状況を打破することしか考えてなかったから、人の気持ちなんて知らないよ」


「もう」


 あ、拗ねた。


「あははは、お兄ちゃんたち面白ーい」


 いつの間にかテツヤは落ち着いていた。


「ん? 楽しめたなら良かったよ。それよりテツヤ、よくやったね」


 俺はテツヤの頭をガシガシ掻きむしった。他の3人も、微笑ましいものを見るような温かい表情だ。あと、わざと、”楽しめたなら”とか、”それより”とか入れたけど高松さんから反応はなかった。一瞬にらまれたような気もしたけど。


「うん! お兄ちゃんのおかげだよ、ありがとう!」


「どういたしまして。素直でいいね。このお姉ちゃんみたいに過ぎたことをグチグチ言っちゃダメだよ?」


 あ、やべ。俺の本性が出ちまった。どうも気が抜けて口が止まらなくなるな。


「大村くぅん?」


 どうやら許してくれたようだ。


「あ、やばい。テツヤ、行こう」


「うん!」


「こら待ちなさい!」


 こうして俺たちは、走って街に入った。勝利の後だからか、みんな浮き足立っているようだ。状況確認のために市庁舎に戻ったが、着く頃にはゼェハァ言っていた。高松さん追いかけてき過ぎ。まあ本当に、森の動物たちや街の住人の助けがあったり、色んなことが重なって手にした勝利だ。”何とかする”なんて言ったものの、どうなっていたことか。

 だけど勝ちは勝ち。みんなも、なんかゼェハァ言ってるけど晴れやかな表情だ。街を守るための戦いだったが、この素晴らしい気分を得ることができただけでも、この勝利は大きいと思う。


 腹減った、眠い。何か食って寝よう。



次回:戦いを終えて

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