第32話:自分にできることを
バーボンを取り逃がした。西門に向かわせてしまった。俺は左足を撃たれて立ち上がれず、花巻さんは戦闘不能、テツヤはカグラを折られて戦意喪失。
だけど、まだだ。まだ戦いは終わってない。ここでみすみす敗北を待ってたまるか。俺はただ、1つ残された木造車を見ていた。
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西門に戻って来た。未だに気持ちを落ち着かせることができない。胸の中は大嵐だ。でも、戦わなきゃ。
一瞬の出来事だった。丸いものが飛んで来たと思ったら、ドカン。痛みと言うよりは燃えるような熱さが全身に走り、すぐにその感覚はなくなった。そして、自分の戦闘不能を示すメッセージが淡々と表示された。あっけなかった。
呆然として、何もできないでいると、煙が晴れて中野君の姿が見えた。それでもまともに応対できず、肩を揺さぶられたりしてからようやく歩き出し、宿屋に向かった。中野君と、大村君からもメッセージが届いていた。大村君には中野君が返事をしたみたい。どれくらいの時間が経ったかは分からないけど、復活して戻って来た。
そうだ、戦わなきゃ。いつまでも、心ここにあらずではいられない。
私は両手で自分の頬を2回叩き、フーーーッと大きく息を吐いた。
「ごめん、もう大丈夫だから」
「おっ? でもあんまり無茶しちゃダメだぜ。俺は2回目だから平気なのかもな。そういう意味では大村の奴に感謝だな」
「あはは・・・、そうね」
多分、中野君は今のが1回目でも平気だったと思う。ノリが軽い人だけど、こういう時でも平気でいられるのは彼の長所ね。私は無駄にプライドが高い分、ヘコみやすい。
目の前では暴力団との闘いが続いている。正面は火の海だけど、左側に木でできた大きな車みたいなのが2台あって、さっきより敵も増えてて押され気味。30人は居る。味方は狼が10匹ぐらいと、中野君と他のプレイヤーが4人と兵士が6~7人。右の敵は12~3人、味方の数は左側よりちょっと少ないぐらいだけど、押されることもなく落ち着いてる。
「左に行こ。右はちょっと余裕がありそう」
「よっしゃ、俺らも戦うぞ!」
狼や兵士、他のプレイヤーに当たらないようにしながら光属性で援護射撃をする。中野君は、大村君の代わりにと言わんばかりに前に出て、自身の持つ光・闇属性魔法と、杖の機能にある電気で暴力団員を攻撃していく。私は、・・・これ以上は近づけない。情けないけど、今は、自分にできる範囲のことをしよう。
<花巻葵さんが戦闘不能になりました。>
うそ・・・。大村君のHPもかなり減ってる。向こうはどうなってるの・・・? 気になるけど、それどころじゃない。自分の方に集中しなきゃ。
<ごめん、敵のボスを逃がした。門から見て右の方から来るよ>
え・・・うそでしょ・・・。左は私と中野君が加勢しても押され気味、右は落ち着いてはいるけど、今の左側と同じくらいの敵が来るとまずい。挟み撃ちになったら、もう勝ち目はない。
<分かった。気を付けるね>
戦闘不能になってから、初めて大村君に返信した。これまで反応がなかったことをどう思ってるのかは分からない。今度は中野君だけにメッセージ。
<あたしは門まで戻るね>
<おう! 右頼むわ!>
"頼む"の言葉が、プレッシャーになる。門の前に戻って全体の様子を見ていると、火の海の中から葵が走って出て来た。
「葵っ!」
声に気付いた葵が私の方に寄って来る。
「あ、千尋ちゃん・・・大丈夫?」
「うん、あたしは大丈夫。もう回復してきたし。それより何があったの? 大村君たちは?」
「敵のボスが出てきて、私は部下にやられちゃったんだけど、大村君は足を銃で撃たれて・・・」
「えっ」
「大村君はもう歩けなくって、テツヤ君は刀を折られちゃって落ち込んでる。私が回復すれば大村君がまた戦えるようになって、テツヤ君はきっと大村君が立ち直らせてくれるから、行ってくるね」
「うん。お願いね、葵」
「うん」
葵と別れて戦場の方に目を向けた。左が押され気味だからか、何人かが左に向かい出した。右にも敵が来るから止めた方がいいのか、このまま左に加勢してもらった方がいいのか分からなくて、何もできなかった。
「そろそろ佳境だな。総力戦だ」
ずっとテントのそばにいた隊長が出て来た。2人の副隊長も一緒。実力は普通の兵士あんまり変わらないらしいから指揮に集中すると思ってたけど、1人でも多い方がいいという判断だと思う。これと言った作戦もないみたい。
「仲間から連絡があって、右から敵のボスが来るそうです」
自分ではどうすればいいか分からないから、指揮官に伝えた。兵士たちは、この人が動かしてくれるはず。私は、私にできることをしよう。
「そうか・・・厳しいな。情報、感謝する」
「いえ・・・。では私は、これで」
「うむ」
右側に加勢することにした。ボスが来る前に今いる分だけでも倒してしまおう。と思った矢先、火の海の向こうから木でできた大きな車が出てきた。それも2台、横並びで。左側の方が内側にあるせいか少し前に出ている。敵がぞろぞろと降りてこっちに向かって来る。15人ぐらいだから、頑張れば抑えられるはず。
パン!・・・・・・パン!
銃声のような音が2回聞こえた。狼が2頭、血を流して倒れた。姿が消えないからHPは残ってると思うけど、あれじゃもう戦えない。右側の車の上に、銃を持った男がいた。あれが、ボスね。まだ距離があるけど、
「スパイラルショット!」
これなら届くことを祈って、風の中級魔法を使った。だけど、届くころには弱まっていたのか、ボスは風にあおられて1歩後ずさる程度だった。
パン!
今度は私が、胸のあたりに衝撃を受けて2~3歩後ずさった。足元に銃弾が落ちる。ローブのおかげで助かった。足と顔だけは、絶対に撃たれちゃいけない。次を警戒していると、ボスは銃をまた下に向けて狼を撃った。それは、無理に私を仕留める必要がないということだ。・・・悔しいけど、その通りだと思った。
「隊長!! 敵がひとり門に!!」
振り返ると、戦いの場をすり抜けた敵が1人、門に向かって走っていた。門はガラガラ、このままじゃ街の中に入られてしまう。私が止めないと、と思って走り出した直後、
パン!
背中を撃たれ、体が傾く。体をひねったけど左肩から地面に倒れた。ここでちゃっかり狙いを切り替えるなんて・・・。でも、まだ動ける。立ち上がり、
「プリズムネット!」
MPを3倍消費して光属性の中級魔法を使った。
「ぬあっ!」
魔法は届いて、敵はその場で倒れ込んだ。
「はああああぁぁぁぁぁ」
私は声を上げながら全力で駆け寄り、
「やあぁっ!!」
大村君がいつもしているように、杖の先端に魔法の光を集めて、敵を思いっきり杖で殴った。
「ぐあああああぁぁぁぁぁ!!」
敵は仰向けに倒れたまま気を失った。
「はあ・・・・・・、はあ・・・」
やっぱり、私はここにいよう。この門だけは、絶対に通しちゃいけない。左にいたプレイヤーが1人駆け寄ってきた。
「ごめん、やられちゃった」
そう言って、私の返事も待たずに街の中に走って行った。プレイヤーは復活できるけど、今は、一時的でも、1人でも欠けると影響が大きい。さっきみたいに1人だけならいいけど、一気に来られるともう抑えられない。
敵もそのつもりなのか、チャンスはいくらでもあるのに誰もこっちには来ず、私たちの数を減らそうとしている。じゃあ私も戦いに行った方が・・・? でも抜け駆けする人が現れればここは突破される。
どうすれば、どうすれば、どうすれば・・・。
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「テツヤ、気をしっかり持つんだ」
「う・・・っ、・・・ぐすっ・・・っ」
ダメだ、泣いたままだ。風を起こしても、氷を頬に当てても、テツヤは俺の方を見ようとしない。後ろから誰かが近づいて来る気配がした。
「よぉ・・・、魔法使いの兄ちゃん」
ロージだった。狼に噛まれたのか、右横腹に血が付いている。手にはナイフを持っている。
「いいザマだなぁ。ようやくテメェに借りを返せるぜ」
杖を手に取った瞬間、
「やめろ!」
後ろを見ると、テツヤが立ち上がっていた。目からは涙を流したまま、折れた刀を両手で持って正面に構えている。
「はははっ! おいガキ、そんな折れた剣で何ができるってんだよ?
・・・ん? テメェこないだのガキじゃねぇか! そういやテメェにも借りがあったなぁ? コイツの後で返してやんよ」
車の方で何かが動くのが見えた。狼だ。全身傷だらけだが、車を降りてこちらに向かって来ている。よし、もう少し時間を稼ごう。
「もう戦えない俺たちにトドメを刺すより、門の方に行った方がいいんじゃないのか?」
「けっ、バカかテメェ。バーボンさんもいてあの人数が行ったんだ。負けるわきゃねぇだろ」
実際そうなのだが、こっちの陣営の数を知らないお前がよく言えるな。
「兵士だけじゃない、俺の仲間もいるから大丈夫だ」
「だからバーボンさんもいるっつってんだろ。
テメェの仲間が何人いようとギャアアアアアアァァァアアアアア!!」
狼がロージの足に噛みついた。ロージはナイフを落とし、地面に横になって悶え出した。俺はナイフを拾って腹に突きつけた。
「死にたくなかったら言う通りにしろ」
「お、おい、ふざけ・・・があっ!」
少しだけ刺した。
「まず、あの車をここまで運んで来い」
「誰がてめぇの言うことなんざ・・・」
「ガウッ」
「ぎゃああああああぁぁぁぁぁ!」
狼が噛む力を強めたらしい。ナイス。
「ちっ、・・・くそ」
ロージは渋々車に戻り、運転席についた。狼は、今度はロージの首を咥えた。よし、いいぞ。これなら俺らを轢くなんて事はできないだろう。車が進んで来て、俺の前で止まった。
「テツヤ、さっきはありがとう。乗るよ」
俺はナイフを咥え、両手を右足を使って車に寄り、何とかよじ登った。
「僕には・・・もう無理だよ・・・カグラも折れちゃったし、お兄ちゃんみたいに強くないもん」
「僕だって強くない。見ての通り、足を撃たれてこの有り様だ」
「撃たれても諦めないから、お兄ちゃんは強いんだよ・・・。僕は、無理だもん」
諭すように行っても無理か。逆効果かもしれないけど、厳しく言ってみよう。それで完全にやる気を無くすようなら、テツヤはそれまでだ。
「街を守るんじゃなかったのか?」
「守りたいけど、・・・もう無理だよ・・・」
「お前の夢だったんだろ。武器が折れたぐらいのことで諦める程度のものだったのか? 体が動くなら、やり方はいくらでもある。最後まで、頑張ってみたらどうだ。ここで諦めたら、お前は一生弱いままだぞ」
「僕は・・・弱いもん」
「・・・そうか。ならお父さんと一緒だな」
「え・・・?」
「だってそうだろう。お前のお父さんは、昨日カグラを使っても勝てなかった。どれくらいのケガをしたかは知らないけど、今日は戦ってない。カグラは無くても普通の剣はある。本気でこの街を守りたいなら、無理してでも来るはずだろう?
それが、姿さえ見せない。小隊長ともあろう者が、呆れるね。もし体が動かないにしても、自分の小隊の指揮は取るべきだというのに。そもそも…」
「お父さんをバカにするなああああああぁぁぁっ!!!」
"厳しく言う"というよりは、"怒らせる"のが正解だったようだ。テツヤは涙を浮かべたまま、憎い敵を睨むような目つきをしてきた。
「昨日捕まっちゃったし、今日もここに来てないけど、僕の自慢のお父さんなんだ! いくら佑人お兄ちゃんでも、お父さんの悪口は許さないぞ!」
もう少し畳み掛けてみよう。
「悔しいなら、証明してみろ。もし、お前がここで諦めずに立ち向かったら認めてやる。何と言っても親子だからな。息子が強ければ、そのお父さんもきっと強いんだろうな。お父さんは大怪我で動けないみたいだから、お父さんの名誉は、お前が代わりに守るんだ」
「う・・・」
「結果が全てだからね。見せてくれないと、さっきの言葉を撤回することはできないよ」
「う・・・っ・・・」
テツヤがまた、大粒の涙を流す。
「佑人お兄ちゃんは、・・・ずるい」
「え?」
「僕がお父さんの悪口言われるのが嫌いなの、知ってたの?」
「は? いや・・・?」
「小隊長に上がったばっかりの時も、あったんだ。他の兵士の人が色々言ってるのを聞いたり、友達からも、武器のおかげで偉くなったんじゃんって言われたり。もちろん何人かだけだけど、お父さんは強いんだって、自分に言い聞かせてきたんだ。だから、お父さんが捕まったのを聞いて、ショックだったんだ・・・」
「テツヤのお父さんを捕まえたのは、さっきカグラを折った奴だよ」
実際に捕まえたのは部下かも知れないが、テツヤに火をつけるためだ。嘘でも何でも言おう。
「う・・・!」
「このままじゃ、嫌だよね」
テツヤはちょっと溜めて、首を大きく縦に振った。
「うん」
俺は表情を緩めた。
「僕も手伝うからさ、一緒に戦おう」
「うん!」
テツヤが車に乗った。
「手伝うって言った後で悪いんだけど、肩貸して。一番上まで登りたいんだ」
「うん、いいよ」
テツヤの肩を借りて、一番上に登った。狼に首を加えられたまま運転席に座っているロージに指示を出そう。
「もう進めていいぞ」
「茶番は終わったかよ?」
「これからがクライマックスだ」
「ちっ、くっそ。バーボンさんを裏切るような真似して、俺ぁどうなっちまうんだ・・・殺されるに決まってる・・・」
「バーボンは俺たちが倒すから安心しろ」
「はぁ? んなことできるわきゃねぇだろ。この死にぞこないが」
「信じないのは勝手だが、早く門の前に連れて行け。それとも今ここで死ぬか?」
「ちっ、くそ・・・覚えてやがれ」
車が進み出した。こいつが小心者で助かった。チャンスは一度。親玉であるバーボンさえ倒せば、敵がワタワタしてる間に何とかできるかも知れない。というのは希望的観測も含んでいるが、とにかく、バーボンは倒す。
「テツヤ、頑張れるね?」
「う、ん。・・・まだ、ちょっと怖いけど」
「それと、さっきはお父さんの名誉のためって言ったけど、街を守りたいっていうのも、まだ大丈夫だよね?」
「うん。やっぱり、守りたい。昨日お父さんが守れなかったこの街を、今日、僕が守りたい」
「よし、それならいい。僕の魔法で、君の願いを叶えるよ」
「え・・・う、うん! ・・・でも、ケガは大丈夫なの?」
「いや、かなり痛いよ。だから、僕にできるのは力を貸すことだけ。願いはね、人に頼るだけで叶うものじゃないんだよ。テツヤも、自分にできることは頑張って」
「うん!」
もうすぐで火の海の前に出て曲がり角だ。確実に、一撃でバーボンを仕留めよう。足は痛いけど、そうも言ってられない。俺も、自分にできることはするべきだ。健気な少年1人の願いも叶えられずに、何が魔法使いか。
次回:願いを叶える魔法




