第3話:最初の目的地、始まりの街プライマリ
外に出ると平原が広がっていた。そう遠くない場所に街が見える。突然、白い光とともに女の人が現れた。
「リアルアドベンチャーへようこそ」
さっきの案内人だった。”次に会うときはゲームクリア後”と言って別れたばかりなんだが。
それを覚えているのか、ニコニコしながらこちらを見ている。こぬぉ・・・何が”楽しみにしていますね”だ。初めてですよ、ここまでコケされたのは。
「こう見ると中々凄いですね。魔法使いが4人揃うのは」
それも知ってるのは当然か。順番は分からないが、俺たち4人どころか全プレイヤーがこの人の案内を受けるからな。人を仮想世界に飛ばすなんて設備、1ヶ所にしか作らないだろうから花巻さん含む地方の人たちはこのゲームのために上京してきたわけだ。そしてカプセルの中で何日に及ぶかも分からない眠りにつく・・・。
「いよいよここからゲームスタートです。以後、皆様のHPが揃ってゼロになりますとゲームオーバー、強制送還となります。まずはあちらに見える街をめざしてください。始まりの街、プライマリです。リアルアドベンチャーを始めた方々が冒険の準備をするための街です。トラブルが起こらないようプログラムされており、プレイヤーによるトラブルもないように厳しく警備されております」
やっぱりゲームの世界なんだね、ここは。初心者用の街があるならそこをスタート地点にして欲しかったのだが。そうしなかったのは街の手前に見えてるものが原因か・・・聞いてみよう。
「その”始まりの街”までの間にスライムとか見えるんですけど」
案内人は淡々と答える。
「はい、倒していってください。全滅させなければプライマリの門は開きません」
Oh・・・やっぱりか。魔法使いばかり4人で? いきなり平原に放り出された状態から?
「ちなみにプライマリまで行けずに脱落するのはどれくらいの割合でいるんですか?」
「2~3%ぐらいですね。剣や弓を使う人がいてもダメだったパーティーもあります」
「これまで全員魔法使いだったパーティーは?」
「私が案内した限りではいないです。初めてみました。本当に凄いですね」
すっごい嬉しそう。この人俺たちの惨状を楽しんでるんじゃないだろうな。
「じゃあここで突破すれば魔法使い4人のパーティーがプライマリに辿り着けるのは100%、文句なしのナンバーワンですね」
「ふふふ。頑張ってくださいね。応援してます」
「ついでにゲームクリアしても100%、魔法使い4人が最強ということになりますね」
勝ち誇ったように言うと案内人は目を見開いて驚いたようなリアクションをする。でも俺は本気だ。魔法使い4人でもクリアしてみせる。
「それまで他に魔法使い4人のパーティーが誕生して全滅しなければ、ですけどね」
案内人は微妙に口元を緩ませてコメントを返し、俺から目をそらし他の3人に顔を向ける。
3人はただ茫然と立ち尽くしている。ごめん勝手にクリア宣言しちゃった。もちろんみなさんにも頑張っていただきます。3人が特にリアクションをとらなさそうなので俺が口を開こう。
「じゃあできるだけ早くクリアしないといけないですね。頑張ります。他に何か言いに来た事とかあるんですか?」
何しに来たんですかというニュアンスを含めつつ話を終わらせる方向に持って行った。
「いえ、伝えるべきことは全てお伝えしました。私はこれで失礼しますので、リアルアドベンチャーの世界をお楽しみください。クリア認定されますと私がまた皆様の元に伺いますので、次にお会いするときはゲームクリア後となるよう頑張ってくださいね」
あからさまに俺の方をみてニッコリした。こぬぉ・・・。握り拳を作りたくなるのを抑えて、白い光とともに消える案内人を見送った。さて、
「あー・・・なんかすみません。僕1人で案内人としゃべっちゃってて」
平原だけど、“始まりの街”までの道は険しい。3人の協力は必要だから謝っておこう。
「ううん、大丈夫。結構強気なこと言っててビックリしたけど、色々と聞けたような気がするし」
期待通り、高松さんがお許しの言葉をくれる。
「とにかくあの街に行けばいいんだな。スライムなんてザコ余裕だろ」
中野も乗る。こういうときノリの軽い奴がいると助かる。大事にしなきゃね、使える奴は。
「私も、回復魔法しかないけど、頑張ります」
花巻さんからもコメントがでる。プレッシャーになるだろうから言わないけど、回復魔法、すっごい頼りにしてます。MP尽きたらしょぼい杖とこの身だけで肉弾戦だから回復がないと辛い。というか無理。
「ということは、花巻さんは愛属性だけ?」
「うん、戦うのは無理かなって思って」
正直あんまり戦力にならないと思ってたから、それで良かった。
「そういえば属性を言ってなかったね。僕は火・水・風・土・雷の5つ。魔攻低いけどその分は弱点突いたりとかでカバーしようと思ってる」
「5個も選んだのかよ! 意外と欲張りだなお前。俺は光と闇の2つだ。火とか水よりも強そうじゃん。カッコいいし」
確かに普通のゲームでも光と闇は強いイメージがある。でもこのゲームは戦闘以外でも魔法が使えるから、火や水が役に立つ時が来るだろう。弱点を突きやすいなんてオマケに過ぎない。
「やっぱり魔攻下がるのが気になったから私は2つ。風と光よ。でもどっちもかぶっちゃったね。音属性にすれば良かったかな」
高松さんは少しはにかみながら言う。まあ4人とも魔法使いだしかぶるのは仕方ない。誰も選ばなかったのは音だけ、9属性のうち8つあるからいいだろう。
「属性ぐらいかぶってもいいさ、攻撃は2人分あるんだし損はないだろ。それよりさっさと行こうぜ! 早く魔法使ってみてえな」
話してばかりに痺れを切らしたのか、中野が先陣を切って前に進み出した。確かにここで話してても仕方ない。俺たち3人も後に続く。
見えていたスライムの姿が大きくなってきた。3匹いる。奥の方にもまた見えてきたからこれで終わりじゃないらしいが、まずはこの3匹に集中しよう。花巻さんは攻撃できないから1人1匹ずつ相手にすればいいや。スライムだし距離置いて魔法打ってるだけでいいだろう。問題はどれくらいMPを消費するかだ。頭で念じればホログラムでメニュー画面が出てパーティー全員分のステータスが確認できるらしい。開いてみるかと思った瞬間、
「モノクロマシンガン! おりゃああああああ!」
と、中野が杖を前に向けて左右に振りながら白と黒の小さな光の玉を連射しだした。
「ちょっと中野君?」
高松さんが声を掛けるが中野は止まらない。聞こえてないようだ。10秒ほどして中野は攻撃をやめて杖を縦向きに戻した。砂埃が消えた先には、スライムはいなかった。
「いよっしゃあ!」
中野が声を上げてガッツポーズする。本当に魔法が使えるんだな。高松さんと花巻さんも感心しているようだ。俺はメニュー画面が出るよう念じてみた。こっちも本当に出た。カーソルとかはなく、全部念じるだけで操作できるらしい。便利だ。中野のステータスを確認してみた。うっわーお。消えたのはスライムだけじゃなかった。
「中野くん、MPあと残り3だけど」
3/100と表示されているから初期値は100だろう。中野は今のでそのほとんどを使い切ったようだ。このバカは・・・。事実上、ここから先は俺と高松さんの2人で戦わなければならない。
「は? ・・・マジかよ・・・」
中野もメニュー画面を出し、自分のMPのゲージがほとんどなくなってるのを見たのか落胆する。
「ちょっと! いきなり使い切ってどうすんのよ!? 魔法使いしかいないのよ!?」
「いや・・・ご・・・ごめん・・・」
高松さんの悲痛な叫びに中野は素直に謝る。謝ってMPが回復するんなら警察はいりません。警察いてもどうにもなんないけど。
「あとどれくらい敵がいるか分かんないし、慎重にいった方がよさそうだね」
「「うん・・・」」
俺のコメントに女性陣が同意する。いきなり幸先の悪いスタートになってしまったが大丈夫なんだろうか。“始まりの街”が遠い・・・。
次回:"始まりの街"への道のり