第29話:決戦の準備
昼食まで1時間ほどあるのでテツヤを呼ぶことにした。捕らわれた小隊長の息子というだけあって、あっさり連絡がついた。スズさんも来たが、簡単な挨拶を済ませた後に兵士に連れられてどこかに行った。こちらとしても、いない方が都合がいい。
テツヤは話の途中からずっと泣いている。
「うっ・・・うぅ・・・・・・、お父さんが捕まるなんて・・・」
「ごめんね。これを取り戻すだけで精一杯だった」
カグラを渡した。さらに、しゃがんで目線をテツヤに合わせて小声で話を続けた。
「よく聞いて。明日の朝、西門にいる奴らに街の外から総攻撃を仕掛けるよ。そこにテツヤを連れて行くことはできないけど、ゴチャゴチャになるだろうから混乱に乗って戦いに混ざることはできる」
「ちょっと大村君」
「おい、いくら何でもそりゃ無理だろ」
仲間に止められるのは想定内だ。だけど、
「もちろん責任は取れない。何があっても、それはテツヤが自分で戦いに行ったことによるものだ。それでもいいなら来るといいよ。お母さんや兵士に捕まったりしないようにね。街を守りたいのなら、お父さんが捕まった悔しさを晴らしたいのなら、今だ。子供だって1人の人格者、本人の意志が強ければ僕は止めない」
最後の言葉は仲間たちに向けた。みんな黙ったままテツヤを見ている。テツヤはまだ目に涙を浮かべている状態で答えた。
「う・・・ぐ・・・。僕は、この街のために戦いたい。・・・っ。ケガするかもしれないけど、凶暴な人たちも怖いけど、街のみんなはもっと怖いはずだから、守らなきゃ、ダメなんだ」
テツヤは右手に持った剣を見つめる。まだ涙は止まっていないようだ。
「うん、そうこなくっちゃね。お昼ご飯のあと、一緒に外で修業しよっか」
テツヤは左腕で涙をゴシゴシ拭いて顔を上げた。
「うん・・・!」
他の3人も温かい目でテツヤを見ている。もう止める気はなさそうだ。さすがに午後の修業はスズさんに一声掛けてから行こう。スズさんは柔らかい表情で「そう、気を付けてね」とだけ答えた。おそらく明日戦わせる気だということもバレた。
一旦テツヤと別れ最初の会議室で昼食をとった。他のプレイヤーとも話をした。中級プレイヤーは去年からやってるそうだ。若い男たちだが、ニートかフリーターだろうか。新人たちは全員レベル12,3だが、剣や弓もいるし多少は戦力になるだろう。
テツヤと合流して東門から出て北の森に向かった。カグラを持ったテツヤが門番の兵士の目に留まったようだが、「レベル上げに近接戦闘が欲しくて」と言ってごまかした。森に向かう前にテツヤにカグラを使わせてみた。
「うわっ。・・・これが、カグラ」
自分が出した風に驚きながらも感心している様子。さらに3回振って風が出る感覚を確かめると、
「はぁ、これちょっと疲れるかも。あんまり頼らないようにするよ」
「うん、それがいいよ」
生命力を使うらしいから、これまで魔法をつかったことがないテツヤが乱用するのは危険だ。実際、ギンジさんもそれで動けなくなって捕まった。
北の森に向かった。東側だからか出てくるのは緑のスライムと狼だけだった。足場や視界は悪いが敵に囲まれるなんてことはなかった。グリンタウンの真北や西側に行くとリスが出るかもしれないが、レベル20は近いので深入りは無用だ。
レベル20一番乗りは俺。まだ2時前、全員いくのも余裕だろう。
<レベルが20になりました>
<火属性魔法(中級):フレイムアローが使用可能になりました>
<水属性魔法(中級):フライングリバーが使用可能になりました>
<風属性魔法(中級):スパイラルショットが使用可能になりました>
<土属性魔法(中級):ザ・ボックスが使用可能になりました>
<雷属性魔法(中級):オールディスチャージが使用可能になりました>
<装備ランク(魔法)がCになりました>
「お、中級魔法使えるようになったっぽい」
「おいマジか! なあ使ってみてくれよ」
「そうだね。明日使えるかどうかも知っておきたいし」
メニュー画面で確認すると消費MPは全部25、とりあえず今は1つだけ、残りは花巻さんの経験値稼ぎの時に。緑の狼が出てきたので、さっそく杖を前に向けて魔法陣を出した。
「フレイムアロー」
火の矢が一直線に飛んで行った。一撃では倒せなかったのでテツヤに倒してもらった。威力のほどは分からなかったが、あの矢のスピードは良かった。さすがに中級ともなると使い勝手が上がるようだ。
「ほぇ~~、凄かったな今の! 俺も中級魔法使いてぇ~!」
ほどなくして使えるようになった。光はプリズムネット、軽く虹がかかった白い光の網が飛んでいく。敵の動きを封じることはできない。闇はダークトライアングル、暗めの紫に光る三角が飛んでいく。
高松さんもレベル20になったのでスパイラルショットを使ってもらった。3つの空気砲が螺旋を描きながら飛んでいく。ウィンドショット強化版といったところか。
あとは花巻さんのレベル上げ、魔法ぶっ放してMP回復の繰り返すだけの作業だ。ついでに残りの中級魔法を試した。フライングリバーは名の通り、空中に川を作るように水が飛んでいく。ザ・ボックスも名の通り、2mぐらいの土の箱が飛んでいく。オールディスチャージはフライングリバーの電気版。飛んでいく系が多いので長距離攻撃に便利だ。MP割増しで使っても大きさが変わったりはしなかったが、きっと威力が上がってるはず。
4時半頃に花巻さんもレベル20になった。ヒーリングサークルを覚えたらしい。範囲回復キターー。直径5mほどの輪の内側にいると回復する。最低消費MPは30、コスパはヒールと同等。4人同時回復もできて便利だが、輪の中に敵を入れてはいけない。
「ねえ、僕も試したいことがあるんだけど、いい?」
テツヤが言った。
「なんだ? 技でも思いついたのか?」
「ううん、お父さんの技」
ということは、今朝のか。出てきた緑スライムに対して、
「カグラ・真一文字!!」
テツヤは刀を思いっきり振って横一線の風を起こした。緑スライムに対して風の相性が悪いのか、テツヤ自身の能力―――確か魔攻に相当するのは精神力―――が足りないのか、スライムは生きている。俺がフレイムアローで倒した。
テツヤは全身の力が抜け落ちたように膝をついた。高松さんと中野が駆け寄る。
「おい大丈夫かテツヤ!」
「しっかりして、テツヤ君」
「はぁ・・・はぁ・・・、ごめんね、・・・お兄ちゃん、お姉ちゃん」
「その技は使わない方がいいね。今朝、君のお父さんも使ったけど、乗り物がちょっと壊れたぐらいで人間にはあんまり効いてなかったよ。普通の風起こしぐらいにしといた方がいい」
「・・・うん、そうするね」
「絶対無理しちゃダメだよ。危ないと思ったら逃げて。お姉ちゃんとの約束」
高松さんが小指を出し、テツヤがそれに応える。この世界にも指切りの文化はあるようだ。
「うん。約束するね、お姉ちゃん」
「うん、偉い」
高松さんが微笑み返す。テツヤは中野がおぶって帰ることになった。
--------------------------------
帰ると装備が用意されていた。念願のCランク装備だ。杖は、打撃に火や雷が帯びるもの、ヒールが使えるものなどあったが、単純に全属性魔攻5%アップにした。名前は”グレートスタッフ”。・・・ねえ、ネーミング。”C”がついてないからBランクで変わりそうだけど。
「俺はこいつにすっかな。なんか雷って便利っぽいし」
中野は”サンダースタッフ”、雷を帯びるやつだ。高松さんは”グリーンスタッフC”、あくまで風魔法の強化にこだわるらしい。花巻さんは”ハートスタッフC”、回復のコスパ向上、助かります。
「ローブはやっぱり衝撃緩和がいいかな?」
“バッファローブC”を手に取りながらそう言うと、
「兄ちゃん、Cランク以上になるとみんな”バッファローブD”と同レベルの衝撃緩和がつくぜ。今のでも満足なら他の装備にするといい」
「そうですか、ありがとうございます」
あまり衝撃緩和にこだわってもな。他のやつの機能は、耐熱、撥水、風緩和、遮光、防弾・・・これだ。相手はヤクザ、銃で打たれて即死なんて勘弁だ。ウォーターランドに行けばもっといいのがあるだろうし、ひとまずはこれでいい。
ちなみに名前は”プロテクトローブ”、名前だけじゃ何から守るか分からんな。ナイフからも守ってくれるといいが、自力でも気を付けよう。ローブは結局またみんな同じになった。怖いもんね、銃。
さすがに夕食後は外出禁止になった。風呂は男女別の浴場があるらしい。ゲームの世界というだけあって、施設が現実世界の市庁舎を軽く超える。スズさんとテツヤにも宿直室が与えられた。明日は4時起床、雑談もそこそこに寝ることにした。
--------------------------------
起床、朝食を済ませ、装備を準備後、5時の出発まで待機となった。既に外は明るい。
「いよいよね」
「そうだね」
「く~~~っ、緊張してきたぜ」
「私も」
「葵ちゃん頼むぜ? 大事な回復役なんだから」
「ちょっと、余計プレッシャーになること言わないでよ」
「大、丈夫・・・」
ホントに大丈夫か? かなり固くなってるように見えるが。大事な回復役なのは確かだ、このままでは困る。う~~ん、いいのが思いつかなかったけど、これでいこう。
「花巻さん、ジャンケンをしよう」
「「は?」」
「・・・え?」
「最初はグー、」
俺が手を動かすと花巻さんはワタワタしだした。
「じゃん、けん、ポン」
ポンのタイミングには間に合った。花巻さんの手はグーだ。対する俺はパー。
「んふふ、僕の勝ちだね」
「はあ・・・」
花巻さんはきょとんとしている。当然だ。
「いや今の何だったんだ大村?」
「ん? 別に。ただ単に花巻さんとジャンケンしたくなっただけ」
「なんじゃそりゃ」
当の花巻さんの緊張がほぐれたかは分からないが、まあ俺の行動の意図は何となく分かるだろう。もちろん高松さんにも。「残念だったわね」と花巻さんに声を掛けている。俺が負けたらジュースでも買って来ようと思ったのだが、本当に残念だ。花巻さんは相変わらず何が起こったのか分からないような表情を浮かべている。
出発の5時を迎えた。外は静かだ。馬車がいくつも用意されている。俺たち4人は同じ馬車に乗り込んだ。結局、花巻さんの緊張はあまりほぐれなかったようだ。仕方ない。かくいう俺も緊張感が高まって来た。これくらいなら、ほどよいかな。
馬車は森の中を駆けて行く。ガタガタ揺れるが、思ってたほど酷くない。だけど右に曲がったり左に曲がったりして方向感覚がつかめない。やがて、開けた場所に出た。目の前には、また森。
「ここからはヴェルデュール森林だ。馬は歩かせ、ある程度モンスターを集めたら一気に西門に向かう」
プレイヤーたちを馬車に残し、兵士が外で動物たちをおびき寄せるようだ。カーテンの隙間から外を見ると、早くも兵士たちが応戦していた。
厄介なリスは網に向かって突進させているようだ。狼に対しては応戦しつつ森の外に誘導していく。グレーに軽く緑を混ぜたような色のコウモリ―――多分グリーンバット―――も同様。クレイゴーレムっぽい奴はタイヤ付きの檻に入れている。馬車で運ぶ気だろうか。3つの網と2つの檻が満杯に近づいたところで森から出ることになった。リスは網ごと宙吊りにされており、無駄な抵抗をする様子はない。
森から出ると、狼とコウモリが入り乱れていた。ざっと30匹ずつぐらいいる。剣を持った兵士が10人と、魔導士と思われるローブを着た兵士が5~6人で応戦していた。魔導士が剣の兵士の半分で済む辺り、やはり魔法は強い。と思っているのは俺だけだろうか。
「これより、西門にいる暴力団員に総攻撃を仕掛ける! 心して掛かれ!!」
「「「おおーーっ!!」」」
隊長の掛け声に兵士たちと一部のプレイヤーが応える。外にいた兵士や魔導士も馬車に乗り込む。馬車が走り出すと狼とコウモリが追いかけて来た。
グリンタウンの街の姿が大きくなってきた。西門。例の車っぽいものが置いてある。見張りと思われるヤクザが上に乗っている。まだ街の中の方を向いている。他のヤクザどもの姿は見えない。
今は7時、昨日俺が騒ぎに気付いて起きてから24時間。見張りがこちらを向く。2秒ほどして車を駆け下りる。手に何かを持って叩いている。ヤクザどもがわらわらと出てくる。その手にはナイフや角材、鉄パイプ。馬車は速度を緩めない。
もうちょっと、、、あとちょっと、、あと一歩、目の前。
馬車はそのまま西門に突入した。
次回:百獣の力




