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4人の魔法使いの冒険  作者: 藤見倫
第1章:グリンタウンを救え
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第28話:グリンタウンを救え

 宿屋にいたプレイヤーは全員、兵士に連れられて市庁舎に向かっている。俺たちと一緒にいた2人の兵士は、しれっと兵士側に入っている。


「なあ、俺らどうなるんだ?」


「さあね。もしかしたら”みんなで戦うぞ!”とか言うのかもね」


「おいおいマジかよ。兵士でも敵わなかったんだろ? あ、でも20人なら何とかなんのか?」


「本当に20人なら何とかなるかもしれないけど、ウォーターランドにはまだまだいるだろうから、援軍が来たらお終いだよ」


「だったら兵士もウォーターランドから来てもらえば良くね? 首都ならたくさんいんだろ?」


「ただでさえウォーターランドの端の方が野放しにされてるのに、わざわざ他の街まで来てくれるとは思えないけど」


「はあ? 何でだよ? おんなじ国なんだろ?」


「ウォーターランドの端の方は、おんなじ街でも放置されてるけど」


「でもよぉ・・・」


「ま、市庁舎に着けば分かるよ」


 市庁舎が近づいてきた。ここに来るのは2回目、またしても兵士に連れられて。


 広い部屋に通された。会議室だろうか。既に、他の宿屋を使っていると思われるプレイヤーたちの姿もあり、多くの人はこちらを見ている。装備・顔・表情を見た限りでは達人級の人はいなさそうだ。

 前に立っている兵士が口を開いた。ギンジさんよりも立派なバッジを付けているから、隊長か副隊長だ。


「集まって頂いたのは他でもない。既に知っている者もいると思うが、今朝、ウォーターランドに潜む暴力団の襲撃に遭い、西門は通行不可となっている。彼らの代表がこの市庁舎まで来て、ある要求を述べた。この街にも暴力団員の棲み家を用意することだ。我々はこの要求を呑み、」


 ここでざわめきが起こる。


「まだ話は終わっていないぞ! 最後まで聞くように!」


 脇にいた同じバッジの兵士が静粛を促した。どうやらこの兵士と、前にいる兵士は副隊長のようだ。さらに立派なバッジが1人と、ギンジさんと同じバッジも2人いる。スーツのおじさんは市長だろうか。

 前にいる副隊長の話が続く。


「我々は一旦はこの要求を呑むことにしたが、到底受け入れ難いものであるため、皆様には我々に協力頂き、共に奴らの掃討に当たって頂きたい」


 副隊長の話が終わる。しばらくの沈黙の後、プレイヤーの1人―――初心者ではなさそうだ―――が口を開いた。


「それって、私たちがすることなんですか? 私たちに頼む前にウォーターランドの兵士を呼ぶのが先じゃないんですか?」


 同意する声がいくつか上がる。ザ・今どきの若者だな。まあ、気持ちは分かるけど。


「ウォーターランドには既に要請したが、こちらに回す兵士は用意できないそうだ」


「だからって私たちに? ちょっと強引過ぎるんじゃないですかね?」


「強引なのは認める。情けない事だというのも百も承知だが、我々だけではどうしようもない。もし、あなたたちが暴力団との共存ができないのであれば、出て行って頂く他ない。幸いにも街の東側には影響が出ていないので、プライマリには問題なく行くことができる」


「はあ!? 何だよそれ?」


 他にも数人のプレイヤーが声を荒げる。協力しろ、嫌なら出て行け、反発が出るのも当然だ。既に「暴力団との共存」とか言っちゃってるし。住民に示しをつけるため最大限のことはすると言ったところか。負けるにしても犠牲はプレイヤーだけ。

 とは言え、これはゲームだ。何らかのトラブルが起こるようになっている。俺から言わせれば「嫌ならこのゲームやめろ」だ。お前たちは何のためにこのゲームをしているんだ? それ以前に、ここまで非協力な態度を取られたら「出て行け」という気持ちも分かる。街を守っている兵士からすれば、俺たちなんて遊んでるように見えるだろう。実際、ゲームだから遊びだ。


 今度は別のプレイヤーが口を開いた。


「じゃあもうそれでいいっすよ。ヤクザの連中が落ち着けば西門も通れるようになるだろうし、通れなくても北か南の森から西の方に出れますし」


「なっ・・・!」


 これには副隊長殿も絶句のようだ。プレイヤー4人が会議室を後にする。それに便乗するようにいくつかのパーティも続く。


「ちょっと待ってくれ! あなたたちには困っている人を助けようという良心がないのか!」


 誰からも返事はなかった。良心がある人がさっきのような台詞を吐くわけがない。今度は俺が口を開く番だ。


「まあいいんじゃないですか? やる気がない人たちは放っておいて」


 出て行った人たちにも聞こえるように言ったが、反応はなかった。


「その刀・・・、あなたはギンジ小隊長の知り合いか。その刀は自由に使って構わないので、手伝って頂けないだろうか」


 副隊長と目を合わせたまま黙っていると、一般兵士が横から寄って来た。


「あなたは先日、ここしばらく住民を困らせていた暴力団の捕獲にご協力頂いた方ですね」


 いや”ご協力”って・・・イラッときたが、落ち着こう。呼吸を整えていると、


「それ、俺らも見てましたよ。確かにこんな感じの魔法使いでした。というか、今のやつって、この人たちがそのヤクザ捕まえたから起きたんじゃないんですか? ホント超メイワクなんですけど」


 ほほーう。言ってくれますな。


「確かにそれが引き金になったかもしれませんが、ウォーターランドのヤクザが増えてきたというのが根本的なものですから、早かれ遅かれ起きていたことです」


「いやその”早かれ遅かれ”が今起きてることがメイワクだって言ってんじゃん。俺らグリンタウンに来たばっかで、ちょっとしたらウォーターランド行くつもりだったんだぞ。責任取れよな」


「僕たちは最終日の7月31日にこのゲームを始めて8月3日にグリンタウンに辿り着きました。今日は8月7日です。あなたたちがいつ始めたのかは知りませんが、あなたたち次第では既にウォーターランドにいることもできたはずです。何も、僕たちだけの責任ではありません」


「何だよそれ? 責任逃れかよ?」


 もう付き合ってられん。てめぇらが俺らよりも早く来てれば良かったんだろうが。初心者狩りがいた中で、それができていればの話だが。こいつと話してても何も進まないし、適当に流そう。仲間の3人に<みんなごめん>とメッセージを送った。


「もちろん僕たちはこの街に協力するつもりです。あなたたちは何もしないでいいですよ。宿屋でじっとしていれば街は元通りになるし、装備屋も他の施設も使えて、西側でのレベル上げもウォーターランドに行くこともできるようになりますよ」


 だから、子どもや育ちのいいお坊ちゃまのように甘えててください。と、心の中で付け加えた。


「すぐにできんのかよ?」


「明日には」


「今日を失った分はどう責任取ってくれんだよ? 戻って来ねぇんだぞ」


「すみませんが、そこまでは」


「チッ、んだよそれ」


 そう言い放って4人揃って出て行った。最終的に残ったのは20人ほどだ。うち12人は初心者と思われる。残りの8人は中級者ぐらいか? 手伝ってくれるだけでも助かる。


「さ、邪魔者がいなくなったところで話を進めましょうか。ところで、兵士さんの方では何か考えがあるんですか?」


「いや、ない。むしろ、あなたの方こそ、明日解決すると言っていたが、良案があるのだろうか」


 俺は指を顎に当て、視線を横に反らしながら答えた。


「さっき話しながら思いついたのが、森の動物たちの力を借りることです」


「・・・と言うと・・・?」


 周りのプレイヤーからも「は?」とか聞こえてくる。


「相手は20人、さらにウォーターランドから何十人くるかも分からない。失礼ながら兵士の皆さんより強い敵もいる。どう考えても不利ですから、森の動物たち、つまりモンスターにも戦ってもらおうということです。人海戦術ならぬ、獣海戦術ですね」


「な・・・っ」


「森に住んでるお友だちに助けてもらうなんて、”グリンタウン”らしくないですか?」


「そ、それは・・・」


「ちょっと大村君、それ本気でやるの?」


「え? でも他に手段なくない? まあ別に、最悪は裏にヤクザが潜むことになっても、そんな街いくらでもあるからいいけどね。でも僕は、この街が結構気に入ってるんだよ。こないだの4人のチンピラが有名人になってたんだよ? “緑の街”だけじゃなくて”平和の街”、裏表のない社会があってもいいんじゃない? 裏社会があるのが当たり前の街もあるけど、グリンタウンにとっての当たり前は、そんなものがないこと。これは誇れることだし、できることなら僕は、この誇りを守りたい」


 高松さんは安心したかのような溜め息をついた。


「・・・そっか。そうよね。あたしも、このままなんてイヤ」


「私も。裏表があるのが当たり前なんて、やだよ」


「もちろん俺もだぜ?」


 みんな乗ってくれた。パーティメンバーには本当に恵まれた。さっきのような奴らが仲間だったら、初心者狩りにやられてた。

 他のプレイヤーたちも「そうだよな」とか「俺らだけでもやろうぜ」とか言ってくれている。困った人を前にして当たり前のように手を貸す人もいれば、自分のすることじゃないと見捨てたり、巻き込まれたことに不満を言う人もいる。人それぞれで考えても、”当たり前”の基準が違う。世界は広い。

 残ったプレイヤーたちの総意がまとまったところで、ついに隊長が口を開いた。


「皆様、ご協力感謝する。現状、思いつく中で最も良い案は、その者がいった森のモンスターを街に連れて来ることだが、異論はないだろうか」


 異論は出なかった。


「決行は明日の早朝、東門から出て森に入り、モンスターを使って外側から西門に向かう。それまではこの市庁舎にて過ごして頂きたい」


 全員が頷く。解散前にいくつか確認させてもらおう。


「3つほど、いいですか?」


「うむ、聞こう」


「まず1つ、外出の許可をください。僕たちはもうすぐでワンランク上の装備が使えるようになるので、今日中にそうなっておきます。2つ目がこの装備についてで、この状況で装備屋がどうなってるか分からないですけど、何とかして装備を買えるようにならないでしょうか」


 3つ目は後回しにして話を止めると、それを感じ取ったのか隊長が返事をした。


「外出については問題ない。こちらとしても、少しでも力をつけておいて頂けると助かる。装備についても手配しよう」


「その必要はないぜ」


 振り向くと、装備屋のお兄さんがいた。


「大体の話は分かった。いいねぇ、平和の街グリンタウン。装備はここに集めるから兄ちゃんたちは早くレベル20になってきな」


「ふふ、ありがとうございます」


「ただ、装備運ぶのに人手はいるからちょっくら兵士借りるぜ」


「うむ、いいだろう。すぐに用意する」


 隊長は視線を俺に戻した。


「それで、3つ目は何だろうか」


「連れて来るモンスター、どうせなら強い方がいいですよね。北の森に何がいるかも分かってないんですが、北西にあるヴェルデュール森林からも連れて来るのはいかがでしょう」


 隊長はひと呼吸おいて答えた。


「なるほど、確かにあそこならクレイゴーレムにグリーンバットもいる。戦力の補強になるだろう。ただ、」


 そう、この作戦には最大の欠点がある。モンスターを街に連れて来るという作戦そのものが欠点だ。


「まあ、街の方はヤクザを追い出してから復旧するしかないですね」


「・・・そうだな。暴力団から街を守るため、モンスターに街を荒らされるのは妥協するしかない」


 その後、町内放送で、暴力団来襲による夜間の外出禁止と当面の西門通行不可が住民に周知され、この場は解散となった。食事は出してもらえるらしい。寝床は、男衆はこの会議室で雑魚寝、全部で4人いる女性プレイヤーには兵士の宿直室が与えられた。ひとまず俺たちは適当な廊下に集まった。昼食後にレベル上げに行く予定だ。今日中に花巻さんもレベル20まで上げよう。


「なあ、何で大村あの時”みんなごめん”なんてメッセージ送ったんだ?」


 あ、それ聞く? 女性陣も微妙な表情、分かっててくれてるはずだ。


「勝手に協力することに決めちゃったからだよ」


「は? 何だそれ? そんなの当たり前じゃんか。逆ならまだしも、協力するんだろ? 誰が反対するんだよ」


「何人のプレイヤーがあの会議室から出てったと思う?」


「あ~・・・」


「そういうこと。ま、腑に落ちないなら、”協力することに決めたこと” じゃなくて、”勝手に決めたこと” に対して謝ったと思ってて」


「あ~~~、なるほど。お前、結構気ぃ使ったりするんだな」


「君は結構失礼なことを言うんだね」


 女性陣もクスクス笑っちゃってるし。まあ言い返せない部分もあるからいいけど。



 そんなこんなで、明日の朝に森の動物たちを引き連れて総攻撃を仕掛けることになった。果たして、上手くいくだろうか。



次回:決戦の準備

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