第27話:騒がしい朝
今日は朝から騒がしく、騒ぎの元である西門に辿り着いたら、2人の兵士が20人ほどの集団に捕えられていた。おそらく、ウォーターランドから来たチンピラだ。馬車をやたらデカくしたような木造の車みたいなのが門の前で鎮座している。エンジンはありそうだ。
「おい、お前」
「ん?」
集団のうちの1人、デカい車の先端に乗っている男が話しかけてきた。リーダーだろうか。
「ユレヒトどもが魔法使い4人にやられたって話だが、お前か?」
ユレヒト・・・アニキの本名だったな。まさか復讐か? とりあえず答えよう、少しだけ嘘を入れて。
「アニキ、と呼ばれてた名前が分からない人が1人いましたが、他のメンバーはハウギールやソーレンと言っていましたね」
「ああ、ハウギールってのがいたな。そいつらだ。どうやら4人のうち1人はお前のようだな。こんなガキにやられるとはな。ウォーターランドで生き残れずに逃げて、こんな平和ボケした街でも捕まるようなザコは消えて当然だな」
復讐のつもりはないらしい。アニキたちがやられたという街を見に来たのだろうか。一昨日の件を知っているのは、ロージから聞いたのだろう。
<大村いまどこだ? なんか騒がしくねぇか?>
中野からメッセージが届いた。当然のことだが、この面倒なタイミングに。
<何が起きてるか街をうろついてるとこ。宿屋で待ってて。あと女性陣にも言っといて>
<おう。あんまり待たせんなよ>
とりあえず動かないよう指示して、招かれざる客との話を進める。
「あなた方は、そのユレヒトさんたちの親分とかですか?」
2~3秒ほどの沈黙の後、男たちは吹き出して大笑いした。
「あーーはっはつはっは! あんなの子分じゃねぇよ。確かに俺ぁウォーターランドで裏社会をシメてるし、裏には裏のつながりがあるが、1つ1つは独立してんよ」
ウォーターランドの裏社会のボス。早いとこお引き取り願いたいが、既に兵士が2人捕まってるし、どうすれば・・・。というか他の兵士は? ギンジさんは? まだ騒ぎに気付かないのか?
「裏社会の人間が表に出てきたのにはワケがあってだな、ユレヒト共もそうだが、真っ当に稼げなくなったってだけでニワカ者がどんどんこっち側に来やがる。おかげでもうパンク状態でよ、あいつらは勝手に逃げ出したが、少しぐらいこっちの街でも面倒見てもらおうと思ってな」
「く・・・」
つまりは、ウォーターランドに収まり切らなくなった奴らをこっちに寄越すということか。すぐに帰ってくれそうにもないな。
「ふざけるな!」
住民の1人が叫んだ。気持ちは分かるけど、やめてくれ。
「ま、おめぇらに選ぶ権利はねぇけどな」
「くそ・・・!」
叫んだ住民も黙り込んだ。襲われでもしたら堪らないからな。今は兵士を待つしかない。中野にメッセージだ。
<西の門で兵士が捕まってる。他の兵士とかギンジさんも呼んで>
しばらくして、返事があった。既に女性陣とは合流してるだろうか。
<おう、任せろ! お前は大丈夫なのか?>
<うん、動かずに様子を見てる>
まあ、もう対峙しちゃっててこの場を離れられないんだけども。
<相手は20人ぐらい。この間のやつで4人の魔法使いが目を付けられてるから姿を見られないようにして>
あ、俺が姿を見られたのが中野にバレたな。まあいいや、それよりも皆が見つからないことの方が重要だ。まして、同じパーティであることは知られたくない。
<20人ってマジかよ! 千尋ちゃんたちと一緒に兵士とギンジさん連れて来るわ>
女性陣とは合流済みのようだ。念のため、女性陣にも<姿を見られないように>と伝えた。すぐに了解の旨の返事が来た。
「そこの魔法使い、お前はこっちに来い。何をしでかすか分からないからな。兵士さんたちと仲良く縛られてな」
くそ。俺は黙って前に進み、杖を奪われて縛られた。
「さて、道案内してもらいましょうかね。こういう話は偉い人にするのが手っ取り早い」
黙って路地裏に棲みつくと兵士がつっかかってくるのだろうか。先にお偉いさんに話を通して黙認してもらう気か。
「そこまでだ!!」
声のした方を見ると、兵士が5~6人いた。先頭の兵士は胸にバッジ、細い刀、おそらくギンジさんだ。
「お? ようやく兵士様のお出ましか」
ギンジさんは刀を抜いて前に向けた。
「捕えた者を解放し、すぐにこの街から立ち去れ! すぐに従えば不問にしてやる」
チンピラどもは怯む様子を見せない。
「そういう訳にはいかねぇな。こっちにはこっちの事情があるもんで。あんた偉いんだろ、市庁舎まで案内してくれよ」
「そうか、従わぬというのなら」
ギンジさんは刀に手を添え、抜刀の構えを見せる。
「お? やろうってのか?」
5秒ほどの沈黙の後、
「カグラ・真一文字!!」
ギンジさんが刀を振ったと思ったら、淡い黄緑の一筋の光が飛んできて、もの凄い風が吹いた。これが魔法の刀か。これにはチンピラどもは「うおっ!」などの声を上げ、尻餅をつく者もいた。デカい木造の車も型崩れしたようだ。
「やりやがったな!」
「ボス、どうします」
「やっちまえ。確かにあの刀は厄介だが、魔法には生命力を使う。あの兵士がそう何度も今のができるとは思えんからな」
風が直撃したはずのボスもピンピンしている。飛ぶ斬撃であることも期待したのだが、やはり風は風、ダメージはあまり与えられていない。頻発できないことを知られていると、威嚇の意味もなかったことになる。こいつらに攻め込む理由を与える結果になってしまった。
「やっちまえ!!」
「「「うおーーっ!!」」」
手下たちが次々と車を降り、兵士たちの元へ向かっていく。あの鎧には攻撃できないと踏んだのか、縄を持っているから縛る気だろう。住民たちは悲鳴を上げて逃げていく。
「よぉ久しぶりだなぁ?」
振り向くと、手下のチンピラがすぐそばにいた。顔が近い。
「こないだはよくもやってくれたなぁ、え?」
右肩を2回ゲシゲシと蹴られた。こいつ、ロージか。
「ま、おかげさまでバーボンさんの下に入れたけどな。一度は逃げた俺だが、てめぇらがユレヒトどもを捕まえたことを伝えて土下座で頼みこんだら一味に入れてくれてよぉ」
ボスはバーボンというのか。あっさりボスの名前を出す辺り、バカは治ってないようだ。
「おいロージ、無駄口を叩くな。黙ってそいつらを見張ってろ」
「へーい」
ロージが元々立っていたであろう場所に戻った。正面の様子を見ている。チンピラどもは兵士の攻撃を避けて後ろに回り込み、着実に兵士を縛っていく。1人、2人、3人。鎧があるから攻撃しないだけで、全員が兵士よりも強いとみた方がいい。
このままではまずい。俺が縛られてるのは二の腕と胴体だけ。幸いにして兵士とセットではなく俺1人だ。杖は2~3mほどの場所で、ただカゴに入ってるだけ。俺は立ち上がり、ロージを横から蹴った。
「ぐはっ!」
「どうしたロージ! 貴様っ!」
2人が動き出す頃には、杖を手に取ることができた。火を起こして縄を切る。ついでに一緒に捕まっていた兵士の分も切って、剣を転がして渡した。俺は逃げよう。MPは満タン。装備屋のお兄さんが風魔法で空を飛べると言っていた。体を反らし、ローブをできるだけ広げ、思いっきり追い風を起こした。
ぶおおおおおぉぉっ、
という衝撃とともに俺の体は風に運ばれていく。ある程度の高さまできたところで緩めた。下を見ると、残っているのはギンジさんだけだった。俺が助けた2人も既に捕まっている。住民は1人も捕まっておらず、うまく逃げたようだ。ギンジさんに加勢しても捕まるだけだから、このまま逃げよう。あの建物の屋上に着地だ。
「カグラ・真一文字!!」
「ぬわああぁぁっ!」
至近距離で受けた手下どもが風で飛ばされている。しかし、ギンジさんは膝をついた。息使いも荒い。生命力を使うというのは、こういうことか。あれはもう、無理だ。
そうだ、カグラは回収しなければ。建物の屋上に行くのはやめて、慎重に風を起こしながら地面に着地した。残りMP 105。元が190だったから、装備屋の言った通りかなり消費した。手下どもがギンジさんに近づく前にカグラを回収しよう。それが伝わったのか、ギンジさんがカグラをこちらに投げた。
「これを頼む・・・。私はもう、動けない」
「はい」
残念ながら、俺には鎧を着た成人男性を抱えて走る力はない。カグラを手に取り、向かってくる手下どもに横一線の雷を飛ばして走り去った。時折振り返ったが、誰も追いかけてこないから放置という判断だろう。ギンジさんはもう、バーボンたちの手に墜ちた。
<ごめん、もう探さなくていい。ギンジさんと兵士10人ぐらいが捕まった。今から宿屋に戻る>
5秒ほどして、メッセージが返ってきた。
<マジかよ・・・くそ・・・。宿屋だな、分かった>
起床直後とは裏腹に、今度は東に行くにつれて人が増えてきた。西側に住んでる人たちが行き場をなくして外にいるのだろう。宿屋に戻ると、ロビーに仲間の3人がいた。3人が探して来たと思しき兵士も2人いる。同じ宿を使っているプレイヤーたちも集まっているようだ。俺たちが使っていた初期装備の魔法使いの姿もあり、今年の新人プレイヤーもいるようだ。初心者狩りを倒したのは4日前、不思議ではない。
みんなに断って一旦部屋で回復した後、ロビーに戻った。
「何が起こってるんだ?」
プレイヤーと思われる人が聞いてきた。いっそのこと、この場の全員に聞こえるように言おう。
「ウォーターランドから裏社会の人たちがやって来て、小隊長1人を含む兵士10人ほどが捕まりました」
どよめきが起こる。あとのことはもう知らん。気になる人は自分の目で確かめてくれ。俺はバイキング形式になっている朝食を取って来て仲間たちがいるテーブルに着いた。あまり食欲はないのだが、腹が減っては何とやらだ。
「その刀、もしかしてギンジ小隊長の・・・?」
兵士が話しかけてきた。
「ええ、ギンジさんが捕まる前に、これだけはと思って渡してもらいました。本人を助けられなかったのは、すみません」
「あ、いや・・・いいんだ。カグラが敵に渡らなかっただけでも、十分だ・・・」
それでも小隊長が捕まったショックは隠せないようだ。
「で、これからどうするんだよ? ヤバいんじゃないのか?」
「しばらく様子を見るしかないね。敵の目的はウォーターランドで増えてきた裏社会の人間をグリンタウンにも棲みつかせることで、これから市庁舎に行くって言ってたよ。もしかしたらウォーターランドと同じように普通に過ごす分には影響ないかもしれないけど」
バン! と兵士が机を叩いて立ち上がる。
「この平和な街でそんなことは・・・!」
「おい落ち着け、ハンス」
「す、すまない」
机を叩いたハンスという兵士は再び椅子に座った。
「ところで、隊長や副隊長に、他の小隊長はどこに?」
「普段はこの時間ならもう市庁舎にいる。だが、ギンジ小隊長と他の兵士も10人捕まる相手となると、おそらく手に負えない。判断力やマネジメント能力で上官に選ばれているから、戦闘能力の方は我々一般兵と大して変わらない」
「そうですか。では本当に、市庁舎でどんな話になるか次第ですね」
平和な街なのはいいことなのだが、それが仇となって強い兵士がいないようだ。プレイヤーの方も、まだ序盤の街だからあまり期待できない。お高い方の宿屋に偶然強い人が来てたりしてればラッキーだが、それも期待しないでおこう。
朝食を食べ終え、食器を返却すると共に6人分のお茶を用意してテーブルに戻った。重苦しい雰囲気が漂う。多分今の話は、周りにいる人たちも聞いていたであろう。外にいる住民たちも、まだその場を動けないでいる。
「しばらくは皆まとまってた方がいいね、ここにいようか」
「うん・・・そうね」
高松さんだけが返事をした。他の人は声を出す気もしないのだろう。
完全な沈黙でもなく、賑やかという訳でもなく30分ほどが過ぎた頃、玄関が開いて兵士が現れた。
「プレイヤーの皆さんに頼みたいことがある! 市庁舎までお越し頂きたい!」
次回:グリンタウンを救え




