第26話:一歩ずつ、確かに
次の日も同じようにテツヤと落ち合った。場所が東から西の噴水に変わっただけだ。いや、今日は昨日とは違って何の変哲もない日になるかもしれない。昨日もそのはずだった所で色々起きたからどうなるか分からないけど。
とにかく全員レベル20になるまでやることは決まっている。MPがある程度減るまで戦って、近くに戻って花巻さんの経験値稼ぎ。地道な作業だが、これしかない。もっと効率がいい手段もあるかもしれないが、俺は頭が悪いから、非効率でも単純で分かりやすい道を選ぶタイプだ。とあるプロ野球選手が言っていた、「確かな一歩の積み重ねでしか、遠くへは行けない」と。
とは言え、全く変貌がないのは飽きるので昨日よりは奥に進んだ。リスの突進をくらうこともあったが、バッファローブのおかげで初めて来た日のようなピンチにはならなかった。このままウォーターランドに行けちゃうかも、なんてことも頭をよぎる。みんなもそうだろう。
だけど誰も何も言わないのは、グリンタウンの居心地がいいからかもしれない。レベル20になればテツヤともグリンタウンともお別れだ。その気になればまた来れるが、しばらくは来ない。20まで、20まで、20まで。その言葉に縛られているようで、この街に残る言い訳にしているようでもある。でも、Cランクの装備があれば楽になるのは事実なので、手に入るまではこの街にいよう。
夕方5時が迫ってきたところで今日は終わりにした。途中花巻さんが”フィジカルアップ”と”バリアコート”なる魔法を覚えた。前者は身体能力アップ、後者は防御力アップ的なものだった。時間制限があるし、花巻さんのMPは回復に温存したいからあまり出番はないだろう。
テツヤから「今日もウチにおいでよ!」と誘われたのを丁重にお断りし、一旦宿屋に戻って回復した。そう言えば昨日はMPすっからかんのままテツヤの家に行ってたな。危険だ、こまめな回復を心掛けないと。
夕食は7時にロビー集合で、それまでは自由時間になった。部屋を出ようとすると、
「お? 大村が寝ないなんて珍しいな。どっか行くのか?」
やっぱ話しかけてきたか。これだから相部屋は・・・とも思ったが、せっかくだ。
「うん。装備屋のお兄さんとお話しにね。中野くんも来る?」
「お、マジで? 行く行く。マジで珍しいじゃん、どうしたんだよ、大村?」
「さあ? 今日の気分だよ。気が変わらないうちに行くよ」
「おう」
中野の2人で、というのは初めてだな。いつも部屋では2人だが、外に出てみると何か違う感じがした。たまには男同士仲良くしましょうかね。女性陣のどっちかと2人で出掛けたこともないけどね・・・。
装備屋に着いた。
「へい、らっしゃい! お? 魔法使いの兄ちゃんじゃねえか。もしかしてもうレベル20になったのか?」
「いえ、まだです。でももうちょっとですよ。今日はちょっと聞きたいことがあって」
「お、何だい? もう閉店近くてお客さんもいねぇから構わねぇぞ。話し中に来ても面倒臭ぇし、もう閉めちまうか」
そう言うと、ドアの取っ手に ”CLOSE” と書かれた札を掛け、ドアを閉めた。それから、奥に引っ込んだと思ったら缶ジュースを2本投げてきた。中野がキャッチし、1本を俺に渡してくる。オレンジジュースだ。昨日のごちそうも美味しかったが、正直、接待はこれぐらいがちょうどいい。
「で? 聞きたいことってのは何だい?」
「小隊長のギンジさんが使ってる、カグラという武器についてです」
「ああ~~~、風を起こせる魔法の刀か。あれがどうかしたのかい」
「まずはあの刀の装備ランク、それから、同じレベルの武器がどれくらい流通してるかですね」
「なるほど、確かにこれから旅本番を迎える兄ちゃんたちは気になるかもしれねぇな。まず、あのカグラの装備ランクはBだ。ギンジ小隊長にゃ悪いが、そこまで珍しい訳じゃねえ。150万する代物だしウチじゃ扱ってねぇが、ウォーターランドほどの大きな街なら売ってるし、世界に1本しかないってモンじゃねえ」
「なるほど。それじゃあこれから先、あれくらいの武器を使う人は結構出てくるってことですね」
「ほえ~。ゲームの世界ってすげぇんだな」
「あれ、風を起こすのにMPとか、この世界の住人なら生命力とか使うんですか?」
「あぁ、使うぜ。だからあの小隊長も迂闊に魔法には頼らねぇはずだ。生命力は先天的な要素が大きいから、剣を見つけたってだけで小隊長に上げられたあの人は、大変だろうよ。元から魔法が得意な奴は兵士じゃなくて魔導士になるはずだからな。無理してなきゃいいが」
ほおう。兵士とは別に魔導士なんてのもいるのか。全然見かけないが、普段は外に出ないのだろうか。聞いたら、やっぱりそうだった。普段はお役所―――グリンタウンの場合は市庁舎―――の中で勉強や修行の日々で、遠征や敵襲の時だけ戦いに出るらしい。さて次の質問だ。
「この間、弓矢使いを見て、何本もの矢を降らしてくる技を使ってたんですが、あれって武器の機能なんですか? それとも標準魔法みたいに標準技みたいなのが設定されてるんですか?」
中野が「おい、それ・・・」と口を挟んできたが、「まあまあ」と制した。
「そりゃきっとアローズレインだな」
そう、そんな技の名前を言ってたな、あの弓使い。
「上に矢をたくさん撃って降らせてくるやつだろ? ありゃ武器の機能だ。いくつかの弓はその技を扱えるようになってる。ウチにもあるぜ。それと、近接や射撃には標準魔法みたいなのは無い。武器の機能として設定されてる技以外は、自分で開発するしかねぇんだ」
意外だ。そうだったんだな。
「その代わり、1つの武器にいくつも技が付いてたりすることもあるがね。それに杖と比べれば種類が豊富だ。近接は剣、槍、斧、ハンマー、ナックル、射撃は弓、銃、大砲。それでして、ランクが高いのはカグラみたいに魔法が使えたりするからな。ただでさえ強い武器を手にするほどの実力者が、その武器の機能で魔法が使えたりするんだから、まさしく鬼に金棒よ」
「ちなみに、AランクやSランクの武器はどんなのが?」
「魔法陣さえ見つければ最上級魔法が使える剣、念じた方向に曲がったり伸びたりする槍、矢を同時に1000本飛ばす弓、色々あるさ」
「そ、そうなんですね・・・」
「おいおい、マジかよ。ヤバすぎんだろ」
最強への道は遠いな。むしろ、今こんな武器を持つ人を敵に回したらお終いだ。
「今日はこれで失礼します。ありがとうございました」
「あいよ! 何かあったらまたいつでも来いよ」
「次に来る時は、Cランクの装備を買いに来ますよ」
「はははっ! 待ってるぜ」
6時半ぐらいになっていたので、そのまま宿屋のロビーで過ごすことにした。新聞が置いてある。”ナチュレ新聞”。政治や経済のことが色々書いてある。この世界で旅をする上では知っておいた方がいいのだろうが、イマイチ気が進まずパラパラめくるに留まった。1つ分かったのは、この世界も、元いた世界と同じような文明があることだ。政治家の失言、大手企業同士の提携、凶悪な殺人事件など、テレビで見たことがあるようなネタがこの新聞でも記事になっていた。
「あら、先に下りてたのね。待たせちゃった?」
女性陣が来た。そう言えば今まで、女性陣が後だったことはないな。2人とも俺や中野よりもマメだろうからな。
「いや、そんなことないぜ」
中野が答える。むしろいつも待たせちゃってごめんなさい。でも遅刻はしてないからなあ。今だって6時50分だし、女性陣が早いんだよ。
夕食を終えて、就寝を迎える。中野にはいつも「早ぇんだよ」と言われるが、特にやることもないし、まだ9時だけど寝る。レベルも結構上がってきた。このペースなら明日には20だ。それからは花巻さんに集中できるから、明後日には目標の全員20だな。
プライマリからグリンタウン、ウォーターランドとさらにその先へ。今日は特に何も起こらず小さな一歩になったけど、確かに前に進んでいる。改めてそう自分に言い聞かせていると、意識が眠りへと落ちて行った。
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翌日、もの騒がしさで目が覚めた。実際、外が騒がしいようだ。なんか、やたら人がいる。今は朝の7時。何かあるのか? 窓を開けて左右を見てもよく分からない。みんな「何があったんだ?」みたいな様子だけど、外に出て聞いてみよう。
「騒がしいですけど、何かあったのでしょうか」
宿屋の受付係が聞いてきた。どうやらこの人も知らないようだ。
「いえ、分からないのでちょっと見て来ようかと」
「すみません、どうかお気を付けて」
受付係との挨拶もそこそこに外に出て、早速近くにいた人に聞いてみた。
「何かあったんですか?」
「う~ん。それがよく分からんのだよ、西の方に向かってる人が多いみたいだけど」
「そうですか、ありがとうございます」
この辺にいる人に聞いても無駄なようだ。西の方に行ってみよう。西に進むにつれて人が増えていく。何があったのかたまに聞いてみたが「西の方で騒ぎ」ぐらいの答えしか返ってこない。
西側の噴水を辺りで、走って進めなくなるほどの人だかりになった。聞くと、
「西門で誰かが兵士と揉めてるみたいだよ」
とのこと。それだけで朝っぱらからこんなに人が集まるとは、4人のチンピラが目立ってただけあって平和な街だ。どんな揉め事が自分の目で確認したいので人だかりの間を縫って進むと、やがて門が見える位置に出た。
門番をしていたと思われる2人の兵士が、20人ほどの集団に捕えられていた。
昨日とは打って変わって、騒がしい1日になりそうだ。今日は、大きな一歩になるだろうか。
次回:騒がしい朝




