第24話:4人の魔法使い 対 4人のチンピラ
ジレットが走って向かってきた。無傷での対処には十分な距離だが、どうしようか。ロージのように即で仕留めると、倒れたジレットを持って帰るか見捨てるだけになるだろう。ここは混戦にするために時間を掛けてみよう。アニキやハウギールの実力が読めないが、兵士はこっちの味方につくはずだ。
「よせ、ジレット!」
ハウギールが呼びかけるもジレットは応じない。戦うつもりで話しかけた訳じゃなかったからMPが30しかないが、策はある。火と風を合わせて熱風を起こした。
「うおっ! くそ、魔法うぜぇな」
「花巻さん、回復の準備してて」
「う、うん」
狼やリスからほとんどダメージを受けず、テツヤは外傷なければ回復いらないしで花巻さんの経験値が稼げなかった。だけど、あとちょっとでレベル10。
「まずはテメェからだ!」
ジレットが懐に飛び込んできた。腰の辺りに右手で拳を構えている。顔面にくらうのは痛そうだから避けたら右の横腹を蹴られた。やっぱり痛い。杖を前に向けて軽く雷を発生させた。
「があっ」
ジレットがひるんだ隙に距離を置いた。
「大村君大丈夫? ・・・あっ」
今の回復でレベルが上がったかな?
「メンタルヒールっていうのがある! もしかしたら・・・!」
「使ってみて」
「うん。 メンタルヒール!」
淡い黄緑の光に包まれた。メニューで確認。ビンゴ、MPが回復した。回復量は10、花巻さんの消費も10。回復というよりは分け与えるイメージだな。さすが愛の魔法。
「もう1回、今度は20回復でお願い。あと他のみんなにも」
「うん」
ジレットが距離を詰めてきた。俺も前に出よう。杖の先に火をつけて振り下ろしたが横に避けられた。だが想定内だ。むしろこうなることを狙った。俺はジレットの後ろに回り込んで突風を起こした。
「うおっ!」
ジレットは皆がいる方に向かって飛び、地面で転がって止まった。
「そいつお願い」
「え? ええ」
「お? おう」
高松さんと中野が同時に答えた。俺はアニキ+他2人を見据える。
「部下のしつけ、やっぱり足りないんじゃないの」
「テメェ調子乗ってんじゃ・・・!」
「よせ、ソーレン」
再びアニキがソーレンを止める。後ろをチラ見すると高松さんが俺とジレットの間に来ていた。ナイス、これじゃ俺の方には来れないだろう。前を向き直したがアニキたちに動く気配はない。ジレットはもうこっちのものだけど、アニキたちに退散されるとまた同じような事をしないといけなくなる。ああもう面倒だ。最初に殴りかかってきたのはそっちなんだし、いいだろう。
「サンダーランス」
「ぬおっ!」
クリーンヒット、アニキは膝をついた。こっちからは仕掛けないと思っていただろうからな。
「貴様っ!」
「よくもアニキを!」
ハウギールが動きだし、ソーレンも続いた。2人がナイフを手に走って向かってくる。いきなり凶器かよ。そんなにアニキが大事なのか?
「中野君、あたしあっち行くね」
「おう、こいつは任せろ。 おおりゃあぁ!」
「う、うわあぁぁ!」
ジレットの悲鳴が響く。おい中野、あんまり大ケガ負わすなよ。
「ちっ、ジレットの野郎」
「それよりもアニキの分だ!」
MPが万全じゃないし、中野のように短期決戦がいいかもしれない。向かってくる2人の足元に10cmほどの突起を出した。その代わりに周囲が窪む。あまり街の地面をいじりたくなかったけど、仕方ない。
「ぬわっ」
ソーレンが転倒、ナイフは手に持ったままだ。ソーレン自身に刺さりそうになったが、惨事にならなくて良かった。結構危ないことをしたんだな。
ハウギールもつまづいたが、2~3歩ほどよろめいて踏みとどまった。先にソーレンだ。地面を変形させ手足を縛った。昨日のロージとは違って地面に固定したからほとんど動けないだろう。「くそ、離せ!」などと叫んでいる。
「ふんっ」
「うわっ!」
左手に痛みが走るとともに、カン、カン、と金属音が聞こえた。ナイフだ。ナイフが飛んできた。とっさの反応で左手を盾にしたらしい。手の甲で血が流れている。気が付くとハウギールが目の前まで来ていた。
「ごぉっ!」
腹を殴られた。さらに蹴りが来たのでまた左腕を盾にしたが、耐えられず地面に倒れてしまった。
「大村君!」
「回復は待って! 目に見えてケガしてる方が有利にな…」
言い切る前に水色の光が飛んできた。もったいないけど避けた。兵士を味方につけるには、このケガが役に立つ。回復の光は空振りになった。ハウギールがゆっくりと詰め寄ってくる。
「フォーリンストーン」
左肘を地面について、うつ伏せのまま身を起こし、右手に持つ杖を前に突き出して土属性の標準魔法を唱えた。ハウギールは避けようと身を構えたが、何も飛んでこないせいか怪訝な表情を浮かべる。
「ぐっ!」
ゴン、という鈍い音とともにアニキが声を上げた。そして全身の力が抜けたように手足を地面についた。
「しまった、アニキ・・・!」
ハウギールがアニキに駆け寄ろうとしたが、アニキが手を出して制止した。あわよくば2人まとめるつもりだったけど厳しいな。俺は石の破片で輪を作り、アニキを縛り上げた。思いのほか諦めが早く、観念したように軽く目を閉じた。距離があったせいでMPをほぼ使い切ったが、収穫は大きい。距離を問わず消費MP固定の標準魔法にも活躍する時が増えるかもしれない。
「くそ、貴様・・・」
ハウギールがこちらを睨む。高松さんが俺の横に並んだ。ケガを心配しているようで声を掛けてくれたが、俺の返事は適当なものになった。後ろを見ると、中野がジレットの背中に馬乗りになっていた。やるじゃん、あいつ。
「何をしている!」
やっと来たか。結構な騒ぎになったと思うのだが、遅かったな。この街の住人と思われる男の人の案内で兵士が5~6人駆け寄ってきた。
「武器を下ろせ!」
アニキとソーレンが兵士に囲まれたのを確認後、なけなしのMPを使い縛っていたのを解き、地面の突起と窪みも戻した。フォーリンストーンの破片は消せない。
杖を地面に置いて立ち上がろうと思ったら兵士が肩を貸してくれた。被害者と認定してくれたかな。中野とチンピラ4人は完全に取り押さえられている。中野、馬乗りになってたからな。「おい、離せって!」などと言っている。花巻さんとテツヤは離れた位置にいるためか自由だ。
「お前たちを拘束する。市庁舎まで来てもらうぞ」
「おい、ふざけんな!」
中野も連れて行かれる。すぐに釈放してくれるだろうが、一応助け舟を出そう。
「あの、あれは僕らの連れなのですが」
「申し訳ないが、あなたにもお越しいただく」
「え?」
俺もかよ! 高松さんも唖然としている。その高松さんは免除のようだ。
「花巻さん!」
俺は血が流れる左手を花巻さんに見せた。
「回復、お願い」
「うん!」
青白い光に包まれる。左手と腹の痛みが引いた。花巻さんはMP全部使ったらしい。意外と思い切ったこともするんだな、覚えておこう。
それにしても、突然だったとは言え魔法で対処せずに手でガードするとは、魔法使いとしてまだまだのようだ。その後も殴られるわ蹴られるわで散々だったな。仲間や兵士がいなければどうなっていたことか。
おっと、高松さんが心配そうにこちらを見ている。
「先に宿屋に戻ってて。多分すぐに戻れるから」
「うん・・・気を付けてね」
もう気を付けるも何もないのだが・・・いや、相手は兵士だからな。ついカッとなって水を掛けたりしないように気を付けよう。水、出してくれるかな。喉乾いてるんだけど。
そのまま、俺と中野とチンピラ4人は街の中心の大樹から北に進んだ突き当たりの大きな建物に連行された。
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結果として、自由の身になるのに1時間ぐらいかかった。俺と中野はチンピラとは別室に通され、あれやこれや聞かれ、ゴミのポイ捨てを注意したら殴りかかってきたとか色々伝えたが、向こうの言い分と合わないとかで似たような話を何度も繰り返し、最終的に向こうが悪いみたいな形で落ち着いた。
ジレットだけ押さえれば済んだものをアニキに手を出したのは俺だからな。向こうがそれを言ったかは知らないが、もちろん俺は自分に都合の悪いことは言わない。向こうは元から悩みの種になってたみたいだし、日頃の行いの差が出たのだろう。とか言ってる俺もそんなに褒められたもんじゃないけどね。
女性陣2人に<今から戻る>とメッセージを送った。<そっか! じゃあロビーで待ってるね>だそうだ。
「あーくっそ、ウザかったなー。何で俺らがあんな取調べみたいなの受けなきゃいけねえんだよ」
「ま、しょうがないよ。兵士から見れば住民と旅人のケンカだからね。一応、両方捕まえとかないと示しがつかないんじゃない?」
「でもなーー」
「兵士が手を出せずにいた問題を突ついてあげたのに、この扱いは釈然としないよね」
「だよな? やっぱそうだよな?」
ホント、住民が困っているのを知ってたくせに、規則やら何やらに縛られて動かなかった奴らが偉そうにしやがって。誰のおかげで悩みの種が減ったのか、今一度冷静に考えていただきたいところだ。せめてカツ丼よこせ。元の世界じゃ犯罪者にも出るのに。あと、水も出なかった。
後になって知ることなのだが、この一件後、路上喫煙とゴミのポイ捨てが兵士による取り締まりの対象になったらしい。我ながら天晴れな踏み台っぷり。
次回:魔法の刀・カグラ




