第22話:初めてのトラブル
謎の男に追われている謎の少年を助けることになった。個人的には追われている理由を突き止めたいが、助けるというのが高松さんの指令だ。あの長身の男の方が悪者であることを祈ろう。
路地裏に入ると、薄暗い街灯に照らされる人影が見えた。10mぐらい先か。壁で行き止まりになっている。道幅は2mないぐらいだ。長身の男が子どもの胸ぐらを掴んでいて、子どもは宙に浮いた足をバタバタさせている。
「このガキァ! ナメたマネしやがって!」
「ふざけてるのはお前らだ! この街から出ていけ!」
「痛い目に合わねぇと分からねぇみてぇだなぁ!」
男が空いている方の手で拳を構える。どうやら遠慮なく助けても良さそうだ。あの男に気付かれないようにメッセージを使う。
<さっさとやるよ>
「え?」
「ん?」
高松さんが声を出したことに男が反応した。もういいや。俺は杖を前に突き出して風を起こし、男の方に向かって走り出した。
「うおっ! 何だテメェ」
「魔法使いだ。この街では子どもを殴るのが流行ってるのか?」
土属性魔法は、地面や壁を崩して材料をもらわなければならない。ただし、標準魔法だけは魔法陣から土や岩が出てくる。茶色の魔法陣を男の頭上に発生させ、
「フォーリンストーン」
ゴン、と鈍い音がした。男は子どもから手を離し、よろける。さらにこの岩を一旦俺の手元に引き寄せ、
「くそテメェ、何のマネ・・・!」
男は絶句したようだ。その目に映っているであろう直径1mほどの岩が原因と思われる。岩だけど、
「グランドブロウ」
「ぐああああぁぁぁぁ!!」
男は両腕を盾にしたようだがダメージは大きく、瓦礫の下で動けなくなっている様子が分かる。俺は大きめの破片を変形させて手足を拘束する枷を2つ作り、両手を両足をそれぞれ縛った。子どもの方は、その場で尻餅をついたままだ。3人が駆け寄ってきた。
「ごめん、1人で終わらせちゃった」
「ううん、ありがと。あたしこそごめん、言いだしっぺなのに何もできなくて」
「別に。決めていいって言ったのは僕だから。それより、どうする?」
「ああ、そうね。・・・ねえ、何でこの人に追いかけられてたの?」
高松さんが少年に話しかけた。ところで、俺の聞き違いでなければこの少年、「ふざけてるのはお前らだ」と言った。今見えてるのはこの男1人だから、仲間がいるとみていいだろう。さて、どんなステキな組織なのかしら。楽しみだ。
「コイツら悪い奴なんだ。最近この街にやってきて、道の真ん中にたむろってタバコ吸うし、ゴミのポイ捨てもするし、ボールが飛んで当たったりしたら大げさに痛がって治療費払えとか言ってくるんだ。街のみんなはコイツらのことが嫌いなんだ」
何人いるのか知らないけど、相手にしたくねえー。
「ああ~ん!? んなもん知らねぇよ! さっさとこれ外しやがれ! つかテメェも変わんねぇだろこのガキ。俺ァさっきただ歩いてただけなのにいきなり殴られたんだぞ。それとっちめたらまた意味分かんねぇ奴出てきて石で殴られるし。
いてて・・・ぜってぇ血ィ出てんだろこれ。頭もガンガンするし。兄ちゃんどうしてくれんだよ。治療費払ってくれんだろうなぁ。こんだけ痛い思いしたんだから慰謝料ももらえるっしょ、これ」
「誰が払うか! お前なんかに!」
「ガキャ黙ってろ! 俺はそこの兄ちゃんと話してんだ」
男が俺を睨む。あんたも十分ガキだよ。ただ歩いてるだけの人を殴ったのはこの少年にも非の打ちどころがあるが、日頃の行いが悪いからこうなるんだよ。くだらん、もう付き合ってられん。
「払ってもいいよ、もし病院に行けたら領収書でも持って来て」
「あん?」
「みんな、行こう。高松さん、この子お願い」
「うん、任せて」
俺たちは手足の自由が利かないままの男に背を向けて歩き出した。
「おいどこ行くんだこの・・・! お、おい待て! これ何とかしやがれ! まだ治療費もらってねえぞ!」
俺は振り返った。
「だから、病院に行けたら払ってあげるって言ったじゃん」
男が目を見開く。その表情が驚愕からやがて絶望に変わる。ようやく事態を理解したらしい。
「おい、待て! これじゃ病院行けねえだろうが! 待て、待ってくれ! 飢え死にする! この人殺し! もし死んだら治療費じゃ済まねえぞ!」
大通りに出ると、20人ほどの人だかりができていた。男とこの少年はほぼ叫んでたし、当然か。「またあの人たちかなぁ」「そうなんじゃない?」「やだねえ、早く出てってくんないかねえ」とか聞こえてくる。あの男とその愉快(笑)な仲間たちが来る前は、こんなことはそうそうなかったようだな。
「えっと・・・、お騒がせしましたぁ」
俺は苦笑いでこめかみ辺りを指でかきながら、小股でてくてくとフェードアウトしていく。みんなも居心地悪そうな表情と仕草でついてくる。やがて人だかりの左端に到達し、もうすぐ輪の外に出られるといったところで、
「テメェ待ちやがれ!」
振り返ると路地から男が顔を出していた。手足を拘束されているはずだが、イモムシのように這って出てきたようだ。俺たちの周囲にいた野次馬が、俺たちから距離を置くように離れた。
俺たちから少し離れた位置でも、野次馬が何かを避けるように道を空けた。1人の男を先頭に、全部で4人の男が出てきた。ああそうか、コイツ仲間がいるんだったな。
「なんだぁ、ロージぃ。みっともねえなぁ」
取り巻きっぽい3人のうちの1人が言った。もう1人も含めて2人で、地面に横たわっているロージと呼ばれた男をバカにするように笑っている。
「ア、アニキ! 助けてくれ! そこの魔法使いにやられたんだ!」
「ほうぅん」
先頭の男がこちらを見る。あまり怒っているようには見えない。
「うちのロージが世話になったようだな」
俺はアニキと呼ばれた男をじっと見る。中野や高松さんが「おいヤバくねえか?」とか「ちょっとどうすんのよこれ」とか小声で言ってくる。助けた少年が俺の1歩前に出た。
「お前たちなんかこの街から出ていけ!」
アニキはフンッと鼻で笑い、ロージの元に歩み寄る。ロージの顔は明るくなったが、アニキの表情は優れない。
「ねえお兄ちゃん、あいつらやっつけてよ。そしたら前の静かな街に戻るんだよ」
アニキがこちらを見る。
「何だ? 俺ともやろうってのか? 兄ちゃん」
俺はただ黙ってアニキの方を見ている。
「ねえお兄ちゃんってば! はやく!」
「おい、そこのガキンチョ」
アニキが少年に話しかける。
「俺たちを追い出してえんなら自分でやりな。人に頼らなきゃ何もできねえのか?」
「う・・・」
少年の目に涙が溜まる。俺は動かない。動く気が起きない。この騒動の発端が、この子がロージを殴ったことにあるからかもしれない。それに、こいつらがこれまで何をしてきたか分からない状態でボコボコにするような真似をすれば俺がお尋ね者になる。この子から聞いた話だと、はっきり言ってただのチンピラだ。
「やるってんなら相手になるが、やる気がねぇなら帰らせてもらうぜ。兵士が来ても面倒なんでな」
「アニキ・・・!」
アニキは、右手を上げて振り下ろし、ロージの顔を思いっきり殴った。
「ぶぉ・・・!」
「この恥さらしが! テメェなんぞもういらねぇ! とっととウォーターランドに帰りやがれ!」
アニキは立ち上がり、3人の取り巻きの元に戻る。無駄に俺につっかかって来ない辺りは、さすがはアニキと言ったところか。少なくとも、ロージほどバカではないらしい。
「行くぞ」
取り巻きは黙ってアニキについて行き、やがて4人はこの場を離れた。ロージはその場でうつ伏せになったまま、隠すそぶりも見せるに泣いている。
「う・・・うっ・・・アニキ・・・!」
手足の枷は外してやった。だがロージは泣き続けているだけで動かない。
「もう行こうか。あいつは放っておいても、もうこの街じゃ自由に動けないよ」
「うん・・・そうね」
高松さんが返事をする。少年が俺のローブをつかんできた。
「何で! 何でだよお兄ちゃん! 何であいつらを逃がしたのさ!」
はあ。俺は分かりやすくため息をついた。
「確かに道の真ん中でたむろったりする奴らはムカつくよね。でも、それだけじゃケガさせたりはできないよ。それに今日は、ロージって人はただ歩いていただけなのに君が突然殴ったんだよね。向こうが先に仕掛けてきた状況じゃないと、後で言い訳ができなくなっちゃう。あと、あのアニキって人も言ってたけど、あいつらを追い払いたいと思うなら、君が自分で強くならなきゃダメだ」
俺を見上げる少年の目に、また涙が溜まる。
「だって、魔法使えないもん・・・」
「あいつらだって使えないよ」
「うぅ・・・っ!」
やがて野次馬たちが離れていき、人がまばらになっていく。俺と同じローブと、それぞれ異なる色の杖を身に着けている3人は、神妙な面持ちで俺と少年の様子を見ている。そこへ1人の兵士が駆け寄ってきた。面倒なことになれなければいいが、と思った瞬間に兵士は面を外して話しかけてきた。
「テツヤ! 大丈夫か!」
「え・・・」
未だに俺のローブをつかんでいる少年、テツヤが顔を上げて振り返った。
「あ、お父さん!」
テツヤは走り出し、父親と思しき兵士と抱き合う。テツヤは、ゴツゴツの鎧もお構いなしで父親にしがみついている。
「何があったんだ、一体」
テツヤはただ泣きっぱなしで答えない。俺たち4人は顔を見合わせる。高松さんは肩をすくめ、花巻さんは苦笑い。中野はあさっての方向を向いて頭をポリポリ掻いている。しばらく経ち、テツヤも落ち着いてきたところで俺は事の顛末を説明し始めた。
次回:チンピラ追い出し大作戦




