第19話:大村 対 リスと狼
高松さんと中野はもう見えない位置まで遠ざかった。もう大丈夫だろう。杖の先から火を出して長めの剣のようにして構えた。狼2匹はこちらへの警戒を続けている。リスは・・・何を考えているのかよく分からない。
俺は右手を大きく横に振り、水の波紋が広がるように炎を前に飛ばした。狼はジャンプするも完全には避けられず、声を上げてその場に落ちた。低めにしていたが当たってよかった。低めにした理由、ターゲットにしたリスにも直撃し、リスの姿はなくなった。でも奴らはまた湧いてくる。早いとこ狼を片付けよう。
また火を放って狼を中心に囲み、一気に円を縮めて2匹まとめて攻撃。今度はクリーンヒット。このまま畳みかけよう。残りMPは55、接近戦がいい。2匹いるけど火にビビる相手ならいけるはずだ。
「きゃあ!」
花巻さんの声だ。リスか。振り返ると花巻さんが背中に手を当ててうずくまっている。
「このっ」
リスに火を飛ばして倒した。前を向き直すと、もう狼が目の前まで来ていた。片方に火の玉を飛ばしたが、もう片方が飛びかかって来た。
「うぉっ!」
片方にしか攻撃しなくてもビビってくれると思ったのだが、アテが外れた。あまり甘く見ない方がいいな。狼に押されて足が浮く。だけどここは受け身を取るよりも攻撃だ。杖を狼の喉元に突きつけて、狼の全身を覆うように火を出した。
「ギャウゥン!」
狼はその場でのけ反り、火だるまになって地面に落ちていく。俺はその様子を眺めながら尻餅をついた。よし、火を当てるだけなら無理だったが、思いっ切りやれば火だるまにできる。あいつはしばらく放っておいていいだろう。
もう1匹の方が、火だるまになっている仲間を避けてこっちに来た。この体制ではきつい。狼を蹴ろうと右足を出したが空振り、その足を噛まれた。
「がああぁぁぁ!」
かなり痛いが、振り払うよりも火の魔法がいい。杖を狼の腹に当て、火を出そうとしたが、
ゴオン、
と、後頭部に大きな衝撃を受けた。リス、か・・・?
意識が、遠のいていく・・・。
「大村君!!」
俺の名を呼ぶ声でハッとした。倒れかけていた体を手で止め、回復魔法も来て何とか意識を持ち直した。後ろにいたリスを倒し、未だに足に食らいついている狼を今度こそ火あぶりにした。残りMPは29。狼は2匹とも火だるまのまま転げ回っている。消えそうにはないから狼はそのうち死ぬだろう。また、ポンと目の前にリスが出てきた。・・・もう付き合ってられん。リスを倒し、
「花巻さん、逃げよう」
「え・・・? うん」
最悪、狼は死ななくてもこれじゃ追いかけては来れないだろう。俺は立ち上がり、花巻さんと目を合わせて頷き合い、グリンタウンに向かって走り出した。
10秒ほど走って振り返ったが、狼はまだ炎に包まれている。もういいだろう。あとはたまにリスが1匹2匹出てきても何とかなる。一旦足を緩めて歩き出すと、花巻さんも合わせて走るのを止めた。そのまま2~3分ほど歩いたところで、遠くから
「ワオォーーーーーーン!」
と雄叫びが聞こえてきた。まさか・・・。後ろを振り返る。さっきの狼はまだ燃えているような、いないような。右の方の森から別の狼が走って来ているような、いないような。
<レベルが13になりました>
火だるまになった狼は力尽きたらしい。しばらく後ろを見ていたが、狼が来る気配はない。
「ぐあ!」
リスうっぜぇ。うつ伏せに倒れた体をひねり、後ろにいたリスを片付けた。油断も隙もない。早いとこグリンタウンに戻ろう。
しばらく歩いていると、後ろから物音がしてきた。これはもう、気のせいではないな。振り返るとグリーンウルフが走って来ていた。グリンタウンまではあと500mほど、ここで食い止めないと。だけどMPは残り20、リスは頻度は減ってるがたまに出る。さすがにきついからメッセージ。
<狼1匹連れて来ちゃった。もう割と近くまで来てるから手伝って>
全員見れるようにメッセージを送ったら、高松さんから即返信。
<待ってて。すぐ行く>
頼もしい。MP20あればこいつを火あぶりにできるのだが、また仲間を呼ばれても面倒だし、高松さんの救援もあるし無理せず時間稼ぎしよう。俺と狼を間を火で遮った。たまに出てくるリスを始末しつつ高松さんを待つ。
「お待たせ。無事だったのね」
「なんとかね。でもこいつ連れて来ちゃった。今から火あぶりにするからひたすら光魔法ぶつけ続けて。雄叫びで仲間呼べるっぽいから休みなく」
「うん、わかった」
中野からは未だに返事がないが、まあいいや。狼との間に出していた火の横に回り込むと、狼が走って来た。狼のターゲットが女性陣にならないよう前に出た。狼が飛びかかって来る。左腕を盾にすると案の定噛まれた。痛い。
「ちょっ何してんの!?」
これから火あぶりにするの。残りMPは12。その全てを使い切って狼を炎で包んでやった。狼は叫びながら転げ回る。
「高松さん」
「あ、うん!」
俺は後ろに下がり、高松さんが前に出てひたすら光魔法を放ち続ける。噛まれた腕は花巻さんが回復してくれた。やがて、
「あ、レベル上がったっぽい」
高松さんがそう言って攻撃をやめた。狼の姿はもうない。
「戻ろっか」
「そうね」
地面の火は高松さんに風魔法で消してもらって、3人で歩き始めた。その後はリスも出ることなくグリンタウンに戻って来れた。門番との挨拶を適当に済ませると、
<悪ぃ寝てた! 今からでも大丈夫か!?>
今更かよ。
<ごめん、もう終わっちゃった。宿屋のロビーで待ってて>
<マジすまねぇ、じゃあ待ってるぜ>
「返事がないと思ったら寝てたのね。高松さんの護衛をしてるもんだと思ってたんだけど」
「あー、本人はそのつもりだったみたいだけど、一旦回復のために部屋に戻っちゃったのよね。すぐにロビーに来ようって決めてたんだけど、中野君来ないしメッセージも返事ないしで」
「あー・・・そっか」
奴にとっては高松さんと2人で過ごすチャンスだったはずだが、何で寝たんだ・・・? まあいいや、とにかく回復してくれてて助かった。
宿屋に戻ると中野がいた。
「いや~わりぃ! メッセージ気付かなくて」
「いいよ別に、何とかなったから。それよりちょっと寝かせて。MP使い切っちゃったし疲れた」
「お? だよな! MPは全部使ってナンボだよな!」
うわー、こいつの仲間入りとか嫌だー。
「何言ってんのよアンタ・・・」
高松さんから冷静なツッコミが入る。
「そうだね。使い切らないに越したことはないよね」
「おいおい。そこは乗ることだろ、大村?」
「乗らないよそんなの」
「ちぇっ」
中野以外は疲れてるのでみんな休憩することにした。俺は寝る。中野はちょっと散歩してくるらしい。高松さんに昼飯の場所を決めるように頼まれていた。あいつのセンス、どうなんだろう。
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30分後に設定したアラームで目が覚める。ロビーに下りると既に3人がいた。
「あ、来たわね」
「昼飯、ハンバーガーでいいか?」
「うん、別に」
という訳で中野が見つけたハンバーガー屋に行った。味はそこそこだった。
「で、大村君。昼からはどうするの? お買い物?」
そういえば今日はみんなが俺について来る日だったな。結局いつもと変わらない感じになってる気がしなくもない。それ自体は構わないことなんだが、決めたことに対して実態が伴ってないのは気に入らないので、これからは思うがままに行こう。
「そうだね。部屋に地図もあったし、これ見ながらウロチョロしようかな」
「そっか。楽しみにしてるね」
何を? 俺のセンスを? そんなの期待しないでね? この人たちが俺の素っ気無さにどこまで耐えられるか、試させていただこう。俺はそっちが楽しみだ。ハンバーガーを食べ終えて外に出た。やはりまずは装備だろう。今のパラメータは、
Lv:大村13、高松11、中野11、花巻9
HP:大村136、高松130、中野130、花巻124
MP:大村160、高松150、中野150、花巻140
魔攻:大村96、高松135、中野135、花巻140
装備ランク(近接):全員F
装備ランク(射撃):全員F
装備ランク(魔法):全員D
うーん、レベル10になって標準魔法(下級)は入ったのだが装備ランクは変わらずか。でもこの街ならDランクでも違うの売ってるかもしれないし見てみよう。他の3人には特に何も言わず、装備屋に向かって歩き出した。
次回:午後はみんなでお買い物♪