第15話:"初心者狩り"狩り
「てめえら、魔法使いが剣士に勝てると思うなよ!」
剣の男の片方が俺に向かって走ってくる。俺は<援護射撃お願い>とメニュー画面でメッセージを送った。秋津さんが教えてくれたものだ。パーティメンバー内では、念じるだけでメッセージでのやり取りができる。メッセージはチャットアプリのように並び、誰を会話に入れるかも念じるだけで選べる。今は一応、花巻さんも含めて全員が見れるようにした。
<オッケー>
<任せろ!>
返事が入る。メッセージが届いたら通知が入り、これも念じれば確認できる。後ろから光と闇の魔法が飛び、走ってくる男に向かう。が、あっさり避けられる。
「んなもん当たるかよ! これから打ちます~って見てりゃ分かるんだよ!」
じゃあ予備動作が少なければいいんだな。
「サンダーランス」
「ぐあっ!」
剣士の男の動きが止まる。
「おい和人! 大丈夫か!」
「てめえ、やりやがったな!」
他の2人も動き出すが、それぞれに光と闇の魔法が直撃する。後ろの2人が予備動作を減らしたのか、敵の反応が悪かっただけなのかは分からない。俺は最初の奴に集中だ。まだ5mほどあるが、
「アイスソード」
杖を前に向けて氷の剣を出したが、避けられた上に折られた。もう少し近づかないと無理か。
「サンダーランス」
「ぐあぁっ!」
さらに火の玉を飛ばしたが、これは避けられた。
「くっそ、雷ウゼぇな!」
今度は走ってくる男の前に土の壁を出した。
「うわっ!」
男は大きな音を立てて壁に激突する。壁は砕けたが、その間に俺は近づき、破片を集めた上で、
「グランドブロウ」
「ぐああぁぁぁ!」
これは顔面にクリーンヒット、男は仰向けに倒れる。そして今度こそ、と、氷の剣を出すと、
「させるかぁ!」
「それはこっちのセリフよ!」
高松さんが強めの風を起こして他の2人の足を止める。俺が殴った男はまだ顔を手で押さえながら苦しんでいる。指の隙間から氷の剣が見えたのか、手を離して怯えた表情を見せる。
「もう避けないのか?」
「や、やめろおおぉぉぉ!!」
鎧を貫けるか分からなかったので喉元に刺した。
「うっ!!・・・くそ・・・・・・があっ!」
HPがゼロになったようだ。よし、あと2人。高松さんと中野が魔法を飛ばすことで一定の距離を保てている。
「ちょっとあんたたち、何やってんの! 魔法使い、それも初心者なんてさっさとブッ殺しなさいよ!」
「分かってるよ! くそっ、魔法がウザくて近寄れねえ!」
初心者狩りなんてするような奴らは、こんなものだろう。それと、これがお前たちがバカにしていた魔法だ。いかがだろうか。
<高松さん、もう1回強い風お願い>
<オッケー>
メッセージを使えば相手に知られることなく指示が出せる。便利だ。
「やっ!」
「「うおっ!」」
高松さんが出した強風で男2人が体勢を崩す。まずは1人動けなくしよう。さすがに2人同時は辛い。手前にいた斧の男を目がけて火の玉を飛ばした。
「うおっ! 熱っ! ぐっ、ぐわあああぁぁぁぁ!」
直撃した上に、斧の男は火だるまになって転がり始めた。これは嬉しい誤算だ。正直そこまでは狙っていなかった。これなら放っておいていいだろう。もう1人の剣の男を潰そう。
「俺も行くぜ! 久々の、モノクロマシンガン! おりゃああああ!」
剣の男を目がけて、中野が最初のスライムでMPを使い切った技を出した。
「ぐっ、くそっ!」
男は顔を守るように腕を盾にする。中野の技は、今度は3秒ほどで止まる。
「大村!」
「任せて」
俺は一度サンダーランスをした上で男に近づき、氷の剣を出して正面に立って構える。
「ま、待て!」
「嫌だ、待たない」
「ぐあっ! ・・・くっ、くそっ・・・!」
男は膝をついてうな垂れる。あとはさっきから転がり回ってる斧の男だけだ。俺は魔法で水を出して火を消した。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・水・・・?」
斧の男は息を切らしながら自分の状況を確かめている。
「おい雄大! 早く立て! あとはお前だけなんだぞ!」
「は・・・? 嘘、だろ・・・?」
斧の男はピンピンしている仲間3人と、やはりピンピンしている俺たち4人を見比べる。味方のHPは分かるはずだ。その表情からは絶望の色が見える。
「何でだよ・・・何で俺たちがこんな奴らにやられるんだよ!」
「お前たちが弱いからだ」
「違う! 初心者なんかに負けるか! ・・・そうだ、魔法だ! 魔法使うなんて卑怯だぞ!」
呆れた。
「魔法使いなら余裕だと言って残したのはお前たちだろう。それに、魔法使いになることもできたのに近接や射撃を選んだのも、お前たちだ」
今度は既にHPがゼロの男が声を出した。
「なあ待ってくれ、見逃してくれ! もう二度と初心者狩りなんてしないから、な? せめてこのゲームは続けさせてくれよ!」
俺は黙って氷の剣を出した。
「おい何でだよ、こんなに頼んでるだろ! あんたらが強いのは分かったから、もうバカにしないから、頼むよ!」
「お前たちは、そうやって泣いて頼んでくる人たちを逃がさずゲームオーバーにしてきたんじゃないのか?」
「ち、違・・・! だからこうやって反省してるだろ!?」
「反省してるなら、元の世界では弱い物イジメはしないことだな」
「なあ待ってくれ!」
俺は前に進み続ける。
「ひっ!」
「逃げろ雄大!」
斧の男は立ち上がることができないのか、尻もちをついたまま手足を使って後ずさる。その後ろに土の壁を作った。ぶつかって止まったところで、さらに土の輪っかを出して手足を地面に固定した。
「ひいっ!! ま、待ってくれ!」
「じゃあ最後は弓矢にするよ」
氷の剣を弓矢に変えて、斧の男に矢を向けて弦を引いた。男は「ひっ」と声を上げて恐怖に満ちた目で矢を見ている。
「これまで自分がどんなことをしてきたか、自分の身で経験してみろ!!」
そして俺は弦を引いていた手を離した。
「ぐぁ・・・! ・・・・・・嘘だろ・・・? これで終わりなんて・・・」
他の3人も、その場で立ち尽くしたまま泣いている。何組の初心者を潰してきたか知らないが、勝手なものだ。やがて4人は光り出し、さっきの秋津さんたちと同じように消えた。
俺たちはほぼ無傷で残ったわけだが、重い空気が漂う。元々グリンタウンに着いたら別れるつもりだったが、こんな形で別れることになるとは。戦力にならないとは思っていたが、グリンタウンまでは一緒だと約束していた。それを守れなかったのは、俺たちの力不足だ。
それに、初心者狩りが先に魔法使いを潰すことにしていれば、確実に俺たちの内の2~3人は弓矢でやられていた。そのままゲームオーバーになっていただろう。結果として俺たちが残っていて直接対決でも圧勝だったが、そんなものは紙一重だ。負けることだってあり得た。敵が油断していたこと、弓矢を不意打ちで潰せたのが大きい。今日のことは深く反省しなければならない。
<レベルが10になりました>
<火属性魔法(下級):ファイアボールが使用可能になりました>
<水属性魔法(下級):マジックウォーターが使用可能になりました>
<風属性魔法(下級):ウィンドショットが使用可能になりました>
<土属性魔法(下級):フォーリンストーンが使用可能になりました>
<雷属性魔法(下級):リトルサンダーが使用可能になりました>
次から次へとポップアップが出てきた。今の俺の気分とは裏腹に、いいニュースが機械的に伝えられてくる。どうやら、標準魔法が使えるようになったらしい。
「一旦プライマリに戻ろうか。MP消耗しちゃったし、さっきの奴らの話だと、グリーンウルフっていうのが出るらしいよ」
「・・・そうね」
「ああ」
2人が淡々と返事をする。まだ心が落ち着けていないのだろう。俺も、まだ少しヒートアップしたままだ。街に戻りながら冷まそう。そのまま俺たちは道なりに街に戻った。なぜか、スライムは1匹も出なかった。
次回:今度こそグリンタウンへ