第14話:道中のできごと
朝食と、狼での肩慣らしを終えてグリンタウンへの道を進み始めた。
「いよいよかぁ、緊張するなあ」
「うん・・・そうだね」
中野の声に秋津さんが微妙な表情で答える。グリンタウンに着いたらこのモブ3人との旅だ、無理もない。でも戦力にならないあなたたちが悪いから。別れる前に田中に矢ぁ刺していいか?
スライムにMPを使うのはもったいないのでザコは基本的に秋津さんたちが始末する。うんうん、いいよいいよ。使えるうちは使わないとね。この人たちがいなくなったらザコにもMP消耗するのかぁ、それを加味してもこの人たちはいらないけど。
「この間僕たちが来たのはここまでだよ。ここから先は何が出てくるか分からないから気を付けよう」
「「うん」」
秋津さんが立ち止まって言う。返事をしたのは高松さんと中野だけだが、他のメンバーも緊張感が上がっている様子だ。少し歩いたところで敵が出てきた。
――緑のスライムだ。
秋津さんと笠岡(2人とも剣)があっさりと倒す。
「どうやらまだ大丈夫みたいだね」
「じれったいわね、もう。どうせなら早く強い敵出てきてくれないかしら」
「いや、出ないに越したことはないんだけどね・・・」
秋津さんがツッコミを入れる。確かにそうなだけど、なんかこう、身構えて損した気分になるんだよね。また2回、緑スライムが出ては倒すというのを繰り返した。みんな、少しずつ緊張感が緩んできている。でも油断するといきなり出てきたりするんだよな、とか考えていると、
「がぁっ!」
鈍い音が聞こえると同時に、一緒に歩いていた笠岡が声を上げて仰向けに倒れた。その胸には矢が刺さっている。
「な、なんだ!?」
「おい、笠岡、しっかりしろ!」
みんな何かしら声を上げながらキョロキョロしている。秋津さんは笠岡の肩を揺すっているが、
ドンッ。
と、今度は秋津さんの後頭部に矢が刺さり、うつ伏せに倒れた。笠岡が体を起こして自分の手やら胸元やらをキョロキョロ見ている。あれはもうHPゼロだな。秋津さんも即死したようで、立ち上がって茫然と自分の手を見ている。
皆があたふたしだした。これで落ち着くかは分からないけど、
「何かいる! みんな気を付けて、多分前からだよ!」
と呼びかけた。2人に刺さった矢の感じからすると、前の方から飛んできている。道の両脇に岩や木があったりするから、隠れているのか? というか、弓矢ってことは、人か?
前の方を凝視していると、岩陰から何か出てきた。あそこか。
「次、来るよ!」
やはりそこから矢のようなものが飛んできて、
「がっ」
今度は有園寺の脇腹に刺さった。あのスピードじゃ防げない。有園寺はまだHPが残っているようで脇腹を抑えていたが、ふっと痛みが消えたかのように表情がハッとなった。実際に、痛みが消えたのだろう。
「秋津さん、前の方見てきて!」
と言い、土の壁を作ろうとしたら、
「あはははははははっ!」
笑い声と共に岩陰や木陰から4人出てきた。あいつらか、何の真似だ。
「いやぁ、やっぱ初心者狩りは楽しいねえ」
「あたふたしてるところを見るのも、そこを仕留めるのも、快感♪」
「でもあんまり減らさないでくれよ? 俺の楽しみが減る」
「てかもう魔法使いしかいねえじゃん、ちぇっ」
随分と好き勝手言ってくれるな、こいつら。”初心者狩り”と言ったか? そんな奴らがいるとは。
「魔法使いしかいねえからこそ余裕なんだよ、念には念を入れないとね。何せ、いつもの倍いるんだから」
秋津さんチームばかり狙われたのはそのためか。
「でも初心者だぜ? ヨユーだろ」
「ちょっとぐらい骨のある奴はいないもんかね? つっても麻由子のせいでもう魔法使いしかいねえけど」
「ごめんごめん、つい楽しくなっちゃって」
黙ってみているうちに結構近づいてきた。あと5mぐらいか。
「という訳で初心者のみなさん、ここで退場してもらいま~す」
4人がニヤニヤしながらこちらを見ている。気持ちを戦う方に切り替えようとしたら、
「う、うわあああ~~~!」
秋津さんチーム最後の1人、田中が後ろに走って逃げだした。
「お、おい!」
「待て田中!」
中野と秋津さんが呼ぶも田中は止まらない。しかし、
「逃がさないわよん」
「おい、麻由子、お前また」
「しょうがないじゃん、逃げられるよりマシでしょ」
どうすることもできず、矢が放たれる。
「ぐあぁっ!」
俺は後ろをチラ見して、目線を前に戻した。矢は田中の背中に刺さった。背中ならすぐには死なないだろう。横目に、花巻さんの手が動くのが見えた。
「回復? させないわよ」
まずい、俺は杖を振り風を起こした。
「わあっ、風魔法? こんの!」
「待て麻由子! あっちが先だ」
「それもそうね」
回復魔法は届いたようだが矢は背中に刺さったままだ。刺さっているうちはHPは減るのか? いずれにしても、田中は相変わらず苦しそうだ。
「アローズレイン!」
弓矢の女がそう叫ぶと同時に10本ほどの矢が上に放たれる。そして、田中の真上辺りに来たところで急降下した。
「があああああぁぁぁぁああああ!!」
あれはもう、助からない。花巻さんの時と、田中の時で俺の反応が違うのは許してくれ。意識して見捨てた訳じゃない。やはり、本能的に反射に差が出る。それよりも今のは何だ? 武器の機能か、標準魔法みたいな感じでなんか技があるのか。
「そんな・・・俺たちはどうなるんだ・・・?」
秋津さんが自分の体を見渡す。やがて4人とも白く光出した。
「え?」
初心者狩りたちも驚いている。そうか、剣2人と弓が同じパーティに寄ってるとは思ってないか。
「あーーっはっはっは! ゲームオーバーみたいだね」
秋津さんの目に涙が浮かぶ。笠岡と有園寺も顔は見えないが肩を震わせ、田中は倒れたまま両手を一度上げて地面に叩きつけた。HPはゼロ、もう痛みはないらしい。
「みんな・・・せっかく助けてくれたのに、ごめん・・・。頼むから、僕たちの仇を討ってくれ・・・」
そして、光っていた4人の姿が消えた。
「おい・・・マジかよ・・・・・・」
「そんな・・・」
中野と高松さんが落胆する。
そんな暇はないぞ。明日の、いや数分後の我が身だぞ!
「ていうかお前ら・・・」
初心者狩りの4人が腹を抱えて笑いをこらえている。しばらく見ていると、やがて爆発した。
「だーーーはっはっはっはっは! 魔法使いばっか4人とかマジかよ!!」
「超ウケるんですけど! てかよくブルーウルフ倒せたね?」
「どうせ次のグリーンウルフでやられるんだから、その前に俺らが消してやるよ!」
その後も4人は腹を抱えて笑い続けている。こいつら、ナメやがって。
自然と、怒りが立ち込めてくる。秋津さんたちがやられてことに対してか、魔法使いをバカにされたことに対してかは、分からない。いずれにせよ、こいつらをいい気分にさせたままでは、気が済まない。初心者、それも魔法使いばかり4人なら余裕なんだろうけど、隙を見せすぎだ。それと、意図して魔法使いを後回しにしたみたいだけど、それは失敗だったな。
「ぎゃっ!」
弓矢の女が声を上げて叫んだ。その胸には、氷の剣が刺さっている。距離があったけど仕方ない。潰すチャンスだったんだ。
「え、嘘・・・死んだ?」
大爆笑していた4人が静まり返る。次は隣にいた斧の男を狙おうとしたが、氷の剣が折られてしまった。遅かったか。
「てめえ麻由子に何しやがる!」
「お前たちも同じことをやっただろう」
弓矢の女の目に涙が浮かぶ。
「くっそぉ・・・何でアタシを狙ったぁ! 女だからか!? アタシは女だからって甘く見られるのが一番嫌いなんだよ!! ナメやがって・・・!」
「てめえ、タダで済むと思うなよ!」
「ハナから全滅させるつもりだけどなぁ!」
さっきまで笑っていた連中が怒り出す。
「タダでは済まないのは、お前たちの方だ」
「んだとぉ!」
「あと、言っておくけど、狙ったのは女性だったからじゃない。弓矢を持っていたからだ。これから戦うに当たって飛び道具は厄介だから、不意打ちで潰せるチャンスで潰した。甘く見てたんじゃない。むしろ一番厄介だと思ったから狙ったんだ。だからそんなことで怒るな」
「んなもん知るかぁ! 麻由子を殺したことに変わりはねえだろぉ!」
「やっちまえ!」
剣が2人と斧、男3人がそれぞれの武器を構える。
「じゃあ4人殺された俺たちは、お前たちの4倍怒っていいんだな」
「ああいいぜぇ! 初心者の魔法使いが怒ったところで何もできねえだろうけどなあ!」
「魔法使いなら余裕だって言ってたな? 随分と笑い者にしてくれたみたいだけど、お前たちこそ、魔法使いをナメるなよ」
そう言って俺は3歩前に出て、一旦止まって首と目だけ後ろを見た。
「高松さん、中野くん、行くよ」
背後で2人が顔を見合わせる。そして、
「・・・うん」
「・・・おう」
2人の返事が同時に聞こえたのを確認して、俺はゆっくりと前に歩き出した。
次回:"初心者狩り"狩り




