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4人の魔法使いの冒険  作者: 藤見倫
第3章:巻き起こせ、労働革命
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第107話:責任の所在

 翌日、8時45分に出社。ずいぶんと人が少ないな。

 結局、9時になっても半分ぐらいしか来なかった。課長さえいない。


「テゴッパさん」


「ん?」


「朝礼、ないんですか?」


「ああ~。あれは工場ぐらいしかやんないよ。うち、見ての通り9時に来ない人多いからさ。フレックスって知ってる? 遅く来てもいいですよってやつ。ホントはちゃんと許可とんなきゃいけないんだけど、その辺はテキトーになってて、毎日10時に来る人とかもいる。

 ホワイトボードに”F何時”って書いてあるのが大体の目安。ぶっちゃけその時間までに来ないことも結構あって困るんだけどね、”働き方改革”もあるから強く言えないんだよ」


 9時までに来ないだけならまだしも(それでもブラッキの人たちからすれば有り得ないだろうが)、何時に来るか分からないとか、参るな。せめて宣言通りに来てくれよ。

 ホワイトボードを見ると確かに、”F9:30”とか”F10”とか書かれていた。出張の人もいる。シュリンさんももちろん・・・、


「・・・・・・」


 シュリンさんの場所には、”有給”と書かれたマグネットが貼ってあった。会社に来れないとは言ってたが、休みかよ! なんなんだよマジで・・・。明日の出張のサンプルを人に作らせといて。

 6時半に帰るのも、休みを取るのも、社員に認められた権利だ。だけどそれは、周りに迷惑を掛けないという前提にあるべきだ。用事があるのは決まってる、出張も決まってる、準備が間に合わない、それで人に頼めばいいとかおかしいだろ。自分のやるべきことをキッチリ済ませてから休みを取るべきだ。まして、1時間そこらでできる作業、何の用事もない日に帰りを1時間遅らせればできるはずだ。というのはパワハラか? いや、だが、シュリンさんがそれをやってなかったばっかりに昨日は俺とカリトさんの帰りが遅くなった。


 これでシュリンさんの方が給料高いとか、やってらんねぇよ。残業40時間超えた分はサービスになるんだぞ? その分がシュリンさんの有給に消えてんじゃんか。マジやってらんねーーーーーーーー。


 明日の出張で使うのか、パソコンは持って帰ってるようだ。今日も、メールチェックぐらいはするかもな。むしろそれぐらいやれ。・・・いかん、俺は絶対に、人の上に立っちゃいけないタイプだ。ほぼ確実にパワハラをする。



 自分のパソコンをつけると、そのシュリンさんからメールが届いていた。宛先は社外の人、CCに俺、カリトさん、マウロさん。でも部長は入ってるのに課長は入ってない。その文章の中には、こんなものがあった。


<本日私は所用にてお休みを頂いているので、ご確認いただいた結果は下記連絡先のカリトまでご連絡のほどよろしくお願いします>


 うわ・・・これ絶対事前にカリトさんに伝えてないだろ。しかもそのカリトさんは今日は”研修”と書かれているから応答できるか分からない。なぜか俺もCCに入っているのだが、背景を全く聞いてないからどうしようもない。このメールを送った相手に対しても、カリトさんに対しても、ここまで不誠実なものはないな。どんな人生を歩めばこんなことができる神経が身に着くんだ?


 その後、ぼちぼちと人が現れ、9時半過ぎには、”F10”と書いた人以外は揃った。ブラッキの人たちもこの実態は知ってる訳で・・・イラついてるだろうな。


 シュリンさんからメールがもう1件来ていた。今日の作業だ。これまた表計算ソフトのデータまとめ。


<マウロさんから聞きました。昨日はありがとうございました。すいませんが、今日と明日不在です。データまとめ途中のがまだあるので、それをお願いしたいと思います>


 メールにはそう書かれていた。マウロさんCCで。仕事を与えられたは良いが、 ”すいません”という言葉、口頭だと気にならないが文章で書かれると結構イラッとくるな。言葉をちゃんと使えてないか、手抜きしてるかのどっちかだからな。”すいません”と”すみません”の差、”m”を打つかどうかだけだ。本当に悪いと思ってるなら、”すいません”という字面にはならないはずだ。シュリンさんという人間が、感謝やお詫びを言ってれば大丈夫な環境で生きてきたことが窺い知れる。


「オームラ君」


 テゴッパさんの声だ。


「はい」


「これから課ぁ全体の打ち合わせだから、行こう」


「あ、はい。ありがとうございます」


 10時ジャスト、最後の1人も現れ、出社予定の人は全員来たようだ。会議室に入り、長方形を作るように配置された机にそれぞれが着く。課長がパソコンを開き、


「えー、今週の課会を始めます。まず、10月の人事が解禁されました」


「おぉ・・・」


 課長の発言を受けて誰かがそう声を漏らした。


「近いところから言うと、まず、カリト君がメタリックアーバンシステムに出向」


「あぁ・・・」

「やっぱりか・・・」


 カリトさん出向の知らせに、何人かが溜め息まじりの独り言。


「この場には居ないが、本人には既に伝えてある」


 そりゃそうか。

 その後も隣の課や他の部などの人事が言われ、最後は「今日の午後には通達に出るから興味ある人は見といて」で締めくくられた。他は大した連絡事項もなく、解散。


「いや~、カリト君きちゃったか~」


 会議室から出ると、テゴッパさんが話し掛けてきた。


「アーバンシステムって、ブラッキにあるんですか?」


「うん、そうだね。いや~、結構出張行ってること多かったからさ~、そろそろ来るんじゃないかとは思ってたんだけどね。シュリンさんの下にオームラ君が入ったと思ったらコレかぁ。入れ替わったみたいじゃん」


「あ、あはは・・・」


 カリトさん、申し訳ないです。もしこの人事が、俺が産シに入る前に決まっていたのなら少しは気が楽になるのだが。


「まあこれも運命だよ。総合職っていうのは引っ越しがあることも前提で給料高いんだから」


 それはそうなんだろうが、シュリンさんも総合職な訳で、職位も給料もシュリンさんが上なんだろ?

 彼はこれから毎日9時出社9時帰りが当たり前の職場で、時には老害に苦しめられながら、大気汚染寸前の街で暮らしていく訳だ。その一方でシュリンさんのような人間が都会でのうのうと生きているのを知っている・・・。


 これは、”やってられない”なんてもんじゃないぞ。でもこのままシュリンさんの召使いとしてここで生きるよりは、マシ、か・・・? いや、どっちがマシかとか関係ない。その2択しかないなんて地獄だ。しかも選択権はなく、この国では人事異動を無視すれば刑務所行き。

 自殺だけは、しないでくれよ、カリトさん。いつか助ける、ぐらいのことしか約束できないけど。


 自席に戻り、シュリンさんに与えられた作業を開始。

 途中、シュリンさんが送っていたメールに社外の人から返信があった。当然のことながら、カリトさんの応答は無かったらしい。研修中だと電話にも出られないだろう。というかシュリンさん電話は? 立ち上がって見ると、机の上に置いてあった・・・。これまでのシュリンさんの言動から、確信犯だと疑いたくなる。

 でもあの人は、"なくすと情報セキュリティ事故になるから"とか言いそうだな。あなたがそのリスクを回避したがために、こっちが迷惑こうむってるんだよ。


「あ、オームラ君」


 俺が立ち上がったことに気付いたマウロさんが声を掛けてきた。


「はい・・・」


 嫌な予感しかしない。とにかく話すために近くまで移動した。


「メール見れてると思うけどさ、これ確認してくれない?」


「え・・・。いや、メールは来てますけど、何のことなのかサッパリなんですけど」


「メールの下スクロールして過去の分も読めば初めてでも分かるから。シュリンさん休みで、カリト君も研修みたいだからさ、君しかいないんだよ」


 マウロさんは? そこまでシュリンさんの為になりたいのなら、あなたが自分ですればいい。


 自席に戻ってメールをスクロールしてみたが、サッパリだった。

 再びシュリンさんの席に向かうと、パーティションの奥からマウロさんが顔を覗かせてきた。


「どうかした?」


「結局分からなかったので、シュリンさんに直接聞きます。ホワイトボードの番号、個人携帯ですよね。既に社外の人を困らせてるんですから、ショートメールを送ります」


 そう言って俺はシュリンさんの社用携帯を取った。


「何言ってんだ。休み取ってるのを邪魔するとか有り得ないだろう」


「シュリンさんの方が既に、有り得ない行動を取ってます。何の説明もなしに人を巻き込んで、自分は休み。カリトさんのスケジュールも確認せずに、”今日は休みなので下記のカリトまで”と無断で社外の人に連絡。しかもメール読んだら、昨日今日辺りでこうなることは予想つく感じでしたよ。それなのに事前に何も手を打たず、人任せにして休んでるのはシュリンさんです。責任は取ってもらいます」


 今の最善策は、この建物のどこかで研修しているカリトさんを呼びに行くことかも知れない。だけど、どうしてもシュリンさんの行動が許せなくて、この発言をしてしまった。それでも俺は、自分が間違ってるとは思ってない。このままシュリンさん抜きで解決したら、あの人はずっと変わらない。


「キミさ、もうちょっとさ、人のために頑張ろうとか思わないわけ? 彼女さ、結構ヘコみやすいからさ、人として助けてあげようよ」


 人のために頑張ろう、俺にもある感情だ。だが、シュリンさんのために頑張ろうとは思えない。俺の行動理念は、その人のためにどこまで頑張れるかにある。力を貸せるのは、自分の力を絞り出して最善を尽くしている人だけだ。初めから”最悪は誰かに頼めばいい”とか考えてるような人に、俺は協力などしない。


「シュリンさん、カリトさんよりも職位が上なんですよね。その分は給料も高いでしょう。僕よりも、カリトさんより上で、そもそも主任相当職なんですから、責任を取る立場にあるんですよ」


 気付いた頃には、周囲は静まり返っていた。だが、後に退く訳にはいかない。カリトさん以外にも、シュリンさんとマウロさんのコンビに苦しめられてきた人はいるはずだ。部長に盾ついたらどうなるか分からないが、今、ここにいる人たちを救うため、何より、俺がこれ以上は耐えられないから、戦う。もし、エコノミアを救うことができなくなったら、申し訳ない。


「いやいや、キミさぁ、シュリンさんに責任しょわせるとかさ、可哀想とか思わないわけ?」


「思いませんね。シュリンさんだって他の主任相当職の人と同じ給料もらってるんですから。むしろカリトさんの方が可哀想ですよ。シュリンさんより給料安いのに召使いにされて」


 職位が上の人間が、下の人間に対して"休むからこれよろしく"とか言って丸投げするのは、そっちの方がパワハラだろ。シュリンさんには主任相当職としての自覚が無さ過ぎる。


「ハンッ。カリト君が可哀想だとか、女性のために頑張るのは男として当然だろ」


 女性社員の負担を減らすために男性社員が頑張らなきゃいけない、その考え方は間違っている。給料は簡単には変えられないだろうから、それぞれの給料に応じて仕事の量や責任の重さを配分するのがマネージャーの仕事だ。


「シュリンさんはそれ以前に、社会人として当然のことができてないんですよ」


「いい加減にしろ!!」


 ついにマウロさんが怒鳴った。爆発したいのはこっちなんだが。


「いいから黙ってこの件に対応しろ! 部長命令だ!!」


「嫌です。シュリンさんに聞きます。出社させないだけマシだと思ってください」


「部長命令を無視するのか? そういうことでいいんだな?」


「構いませんよ。シュリンさんの召使いになるぐらいなら路頭に迷った方がマシです」


「そうかそうか! じゃあお前は明日からスノーウィーンだ! もうここに来なくていい、今すぐに移動を始めろ!」


 ・・・今この人、明日からスノーウィーンに行けと言ったか?


「聞こえなかったか!? お前には明日からスノーウィーン工場に行ってもらうと言ったんだ!」


 どうやら、本当にそうらしい。上等だ。


「・・・分かりました」


「とか言って逃げたりするんじゃないだろうなぁ? トレジャーハンターだからクビになっても大丈夫とか思ってるだろうが、この国には企業活動妨害罪ってのがある。人事異動を無視したら刑務所行きだぞ!」


「逃げたりしませんよ。明日にはちゃんとスノーウィーンの職場に出ます」


「おぉそうかそうか、威勢だけはいいなぁ? 路頭に迷う以上の地獄を味わうことになるぞぉ?」


「望むところですよ」


 結局、見せしめにされて終わってしまった。

 上司に逆らえば転勤、それを無視すれば刑務所行き、それを堂々と、このフロア全体に響く声で言わせてしまった。ここにいる人たちには申し訳ないことをした。だが、後で必ず助ける。

 遂に耐え切れずに揉め事を起こしてしまったが、スノーウィーンに転勤ごときで済んだのは幸いだ。むしろ合法的に向こうに潜入できる。


 もう少し本社での潜入を続けたかったというのも否定できないが、構わない。ここでの調査は十分だ。雪山にどんな地獄があるのか、この目で見てきてやる。


次回:船旅

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