第10話:最初の晩餐
アラームが鳴り、目が覚める。今は6時50分、設定通りに鳴ってくれたらしい。
「ビビったぜ・・・その音どっから鳴ったんだ?」
中野が戻ってきている。女性陣にも振られただろうから1人だもんね。暇だったろう。
「これにアラーム機能ついてるっぽい、便利だよね」
へえー、と言いながら中野もメニュー画面を開いている。
「んじゃ、そろそろ行こっか」
ベッドから降りてドアへ向かう。中野も動き出した。
「おっしゃ、待ちくたびれたぜ」
「街はどうだった?」
「お? 聞いてくれんのか? それが女子も来てくれなくて暇だったんだよー。4時ぐらいに戻ったけど大村もずっと寝たままだし」
「ごめんごめん、疲れちゃってて」
それでも3時間ぐらいは外にいたのか、何やってたんだ? 面倒だから聞かないけど。
「女子はまず女子同士仲良くするって言ってたから、俺らも男同士仲良くしようぜ?」
そう言いながら肩を組んできた。鬱陶しい。
「わかった、わかったから離れて」
中野を両手で押し返し、2人並んだまま階段を下りていく。ロビーには女性陣がいた。
「あ、来た」
高松さんが声を出して迎える。
「お待たせ」
「結局会えなかったなぁ、千尋ちゃんたちも外に出たのか?」
「うん、出たよ。でも会えなかったみたいね。着替えとかリュックとか買ってたから中野君は来そうにないとこいたかも」
高松さんは体をひねって背中のリュックをこちらに見せる。リュックはともかく、女性陣が着替え買うような所に中野はいないわな。
「あーそういえばこれ服とかどうなってんだ?」
「替えはないみたいよ。ずっと同じの着るなんてやめてよ? 大村君もね。今日はもうしょうがないけど明日は買いに行きなさいよ」
「え? あ、うん、そうだね。でもこのメニュー謎の4次元収納あるけどカバンもいるの?」
「ああ、これ? あたしは気分的に持ってたかったから買ったの。邪魔になるんなら大村君は買わなくていいけど、こういうのは気分が大事なのよ」
「そうですか」
「そうですよ」
そうなんですね。まあ手ぶらだと落ち着かないというのは何となく分かる。でも俺はいいや。手に持つものはこの杖があるし、便利なメニュー画面様もいらっしゃいますので。てか敬語使ったら敬語で返してきたな高松さん。あまり早期に俺の扱い方がバレるのはよろしくないのだが。
「なあそろそろ行こうぜ、腹減っちまった」
「そうね」
女性陣が昼間に見つけたというレストランに向かった。それも探していたとは、さすが。適当にうろついて見つけたとこに行く派の俺とは違いますな。
注文が終わり、水を一口飲んでから話を切り出そうとしたら花巻さんが先に口を開いた。
「次の街には、すぐに行くの? それともしばらくここにいるの?」
自分から切り出さないと、という意志を感じる。高松さんもそれを感じたのか軽く笑みを浮かべている。せっかくだ、試してみよう。
「う~ん、そうだね・・・花巻さんはどうしたらいいと思う?」
「え? えっと・・・う~ん・・・」
花巻さんは視線をテーブルに落として考え込む。5秒ほど沈黙が続くと、
「とりあえずレベル上げてからじゃね?」
こいつーーーー。勝手にしゃべんじゃねえ。花巻さんの考えを聞きたかったのに。
「まあそうだね。狼一匹に苦戦してるようじゃ次の街にも行けないよ。装備整えたり、調べものしたりもしたいし」
「あと、あなたたちは買い物もね」
「あはは・・・」
俺はこめかみの辺りを指で掻きながら苦笑いする。
「明日はみんなで行動しましょ。武器とか見るんならみんな一緒がいいし」
「お、マジで? いいなそれ。明日はみんなで出かけようぜ」
「大村くんもよ? ちゃんと買い物するか見張ってるから」
うわー。今日寝てただけだから明日は単独行動がよかったのに。しょうがない、チームに合わせるのも大事だ。てか見張るぐらいなら高松さん俺の分も勝手に買ってくれないかな。
面倒の見方がオカンレベルだけど、俺そんな言うこと聞かないようにみえる? まあ実際そうだけど、明日はもうしょうがない。
「じゃあ花巻さんも明日一緒だね、それでいい?」
「え? うん、大丈夫だよ。匠探すのを手伝ってくれるのは嬉しいけど、みんなの邪魔はしたくないから」
花巻さんは両手を胸の前で小刻みに振って答える。結局かやの外になってしまったせいか少し元気がなくなったように見える。別に邪魔だとも思ってないのだが、うーん難しい。気にするなと言ってもこの人は気にするだろうからなあ。人に気を使わせないための奥義、”自分自身が気を使わない”を発動しよう。
「じゃあせっかくだし一緒に行こう~」
さらに、右手をグーにして上に上げて、
「明日はみんなでお出かけだね。装備見て、このゲームのことも調べて、街の外にも出て敵と戦ってみよー」
「買い物は?」
「あ、もちろん買い物もするよ? でも面倒だから高松さんに選んで欲しいな~、なんて」
「自分で買いなさい」
怖い口調で高松さんが釘をさしてきた。ちゃんと買うから。ホントこの人オカンみたいだな。でも服選んでくれないのか・・・。
「敵とも戦うのか?」
そこに食いついたのは中野だった。いやお前もレベル上げるって言ってたじゃんか。
「うん、レベル上げもしたいし、どんな敵がいるかも見ておきたいし。1日あればそれくらいの時間はあるでしょ。今日とは違って、やばくなったらすぐ街に戻れるし。狼何匹出るかな」
ぶっちゃけ、あの狼ぐらいならサクッと倒せるようになっといた方がいいだろう。なんせ、魔法使いしかいないんだ。
「よっしゃ、今度はMPちゃんと使っていくぜ」
いや今日もちゃんと使ってたぞ? 一気になくなるほど。
パン、と手を叩く音が聞こえ、音の方を見ると高松さんが手を合わせていた。
「そんじゃ決まりね。細かいことは朝ごはんの時にでも考えましょ」
ちょうどそこへ料理が運ばれてきた。「うめぇなこれ」とか「メニュー画面って便利ね」とか言いながら食事を進めていたが、高松さんがこっちに話を振ってきた。
「ねえ大村君」
「ん?」
俺は箸をくわえたまま高松さんの方を見る。すっごいイタズラっぽい表情をしている。「彼女いるの?」とか聞いてきそうな顔だ。
「大村君って、モテるでしょ」
そうきたか。
「いや千尋ちゃん、こいつが? モテねぇだろ」
俺から見たら中野の方がモテねえよっ。とりあえず高松さんに返事しよう。
「え、なんで?」
「えー? なんとなくだけど。 で、どうなの?」
「いや知らないけど」
「うーん・・・じゃあ女子から話かけられることは?」
「え? あるけど」
それでモテてるとか言わないよね?
「いや千尋ちゃん、それくらいじゃモテるっちゃ言わねぇって」
中野も同じこと考えてたのはショックだよ。でも中野がモテないことはよく分かった。こいつにはきっと話相手ぐらいしかいない。
「どんな時に話しかけられるの?」
「いや知らないけど」
「えーー? ほら、女子に囲まれたりしないの?」
「いやいや千尋ちゃん、こいつにそんなことねえって」
さっきから中野うぜーー。あと”千尋ちゃん”の中野スルーっぷりもすげぇ。
「それは中学に入った直後だけだね」
「ほらモテるじゃん」
いや何年前だと思ってんの。あと中野が「マジかよ」とか呟いてる。
「いや一時期だけだって」
「一時期も年中も一緒よ」
「一緒じゃないでしょ」
「中学じゃモテたのね。で、高校は?」
聞く耳もってねぇこの人。よっぽど俺をモテてたことにしたいのか。
「モテてません」
「男子校なの?」
「いや男女半々ぐらいだけど」
「じゃあモテるじゃん」
「意味が分かりません」
「えーーー? わっかんないかなー。私には見えるよ、時々意味もなく女子に話かけられてよく分からないうちに去って行ったと思ったらまた別の女子に話しかけられる大村君の姿が」
「なんで知ってんの・・・」
「ほらー、やっぱりそうじゃん。それがモテるってことなのよ」
「いやいや千尋ちゃん、それ、からかわれてるだけでしょ」
ようやく”千尋ちゃん”が中野の方を向いた。
「中野君も分かってないわね。モテてるからこそ、からかわれるのよ」
「はぁ? そうなのか?」
知らないけどもう勝手にしてくれ。花巻さんも口に手を当てて笑っていらっしゃる。リラックスしているようで何よりだ。そのためにこんな話を振ってきたんなら、高松さんタダ者じゃないぞ。単純に興味本位に見えるけど。
というわけで、明日から本格的に冒険の準備とレベル上げだ。
今日は最後の最後に気が抜けたけど、気を引き締めていこう。
次回:いざ街の外へ