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4人の魔法使いの冒険  作者: 藤見倫
第1章:グリンタウンを救え
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第1話:いざ仮想世界へ

「戦闘タイプはどうなさいますか?」


 "案内人"として俺の向かいに座っている女性が事務的に尋ねてくる。ここは仮想世界で冒険することができるゲーム"リアルアドベンチャー"を運営する会社の建物の中だ。俺は1000倍超の抽選倍率で当選しこのゲームへの挑戦権を得た。指定された日時にここを訪れ、通された部屋で案内人からゲームの説明を受けている。

 今は戦闘タイプを選ぶ場面だ。近接戦士、射撃手、魔法使いの3つがあることがスクリーンに表示されており、案内人が口頭で説明を加える。近接戦士は剣や斧などで戦うタイプ、射撃手は弓や銃などでの遠距離攻撃、魔法使いは文字通り魔法を使える。装備は"装備ランク"というものに縛られ、各装備にA~Fまでのランクが設定されており、例えばここで近接戦士を選ぶと、剣に比べると弓や杖は低いランクのものしか装備できない。それと、レベルアップ時のパラメータ上昇もここで選んだ戦闘タイプに依存するらしい。


 俺の答えは決まっている。


「魔法使いで」


 案内人は少し驚いたような反応を見せた後、口を開く。


「珍しいですね。若い男性は近接戦士を選択することが多いのですが」


「確かに剣で戦うのも楽しそうですが、魔法というものを使ってみたくて」


 現実世界では絶対に魔法は使えない。剣を振る機会もそうそうないが、人生を賭ければ不可能ではない。本気で剣を振ってみたくなったら人生賭けるぐらいのことはするだろう。人の本気は計り知れない。


「ふふ。魔法を使うことができるのもこのゲームの魅力の1つですからね。それで、属性はどうなさいますか?」


 スクリーンに目をやる。元から大体の方針は決めているが、ひとつ気になるのは・・・


「"愛"属性って何ですか?」


 属性は全部で9つ。火、水、風、土、雷、光、闇、音、愛。1つだけよく分からないし特に説明もない。全部説明するのも面倒だし何かあれば聞けということだろう。案内人も、あははと笑い、やっぱり気になりますよね~という態度を隠さずに答える。


「回復やパラメータアップなどの補助がメインの属性です」


 まあそんなところか。となると、


「攻撃はできないんですか?」


「攻撃魔法もゼロではないですが、使えるようになるのは相当先ですし、結構レアなのでアテにしない方が良いかと思います」


 あるんだ、愛の攻撃魔法。それも面白そうだけど・・・


「複数の属性を選ぶこともできますが、2つなら10%、3つなら20%と、属性を1つ増やすごとに魔法攻撃力が10%下がります」


 スクリーンにある通りのことを案内人が言う。初期値も、レベルアップ時の上昇も、全てが下がる。デメリットなければ全属性選ぶだろうから妥当なルールか。


「他に回復の手段は?」


「水属性と光属性には、序盤から使えるものも含めていくつか回復魔法があります。あとは宿屋での回復のみです。アイテムはありません」


 なるほど。アイテムがないのは冒頭の説明であったから回復魔法は外せないと思っていた。でもこれで愛属性にこだわる必要もない。ごめん、愛。アイテムがないのは普通のゲームよりも厳しいが、現実でも食べ物や飲み物で傷が治ることはないし、気にしない。リアルアドベンチャーという名前なだけあってリアリティを追求しているようだ。魔法が使えたりはするんだけど。


「じゃあ、火、水、風、土、雷の5つで。」


 初めから基本属性で固めるつもりだった。愛属性というイレギュラーはあったが、水属性があれば回復はできる。この9つのうちなら、これらだろう。この答えに、案内人は魔法使いを選んだことよりも驚いたようだ。


「5つですか? 魔法攻撃力40%ダウンですよ?」


「構いません。戦闘以外の面で役に立つでしょうし、戦闘でもダメージが低くなるだけで敵の動きは止められるかと。そうすれば他のメンバーがなんとかしてくれますよ。魔法使いが少数派なら、僕1人でこの5属性を揃えておきたいですね。」


「・・・そうですか。ここで決めたら変えられませんよ?」


 案内人は引き下がりつつも念を押してくる。


「構いません」


 軽く息をついて案内人は続ける。


「分かりました。では火、水、風、土、雷の5つですね。ちなみに私の見て来た限りでは、5属性以上はあなたが初めてですよ。4属性までは何名かいるのですが」


「そうですか。30%ダウンと40%ダウンの差がそんなにあるんですかね。

・・・ところで、案内人の人は他にもいるんですか?」


「いえ、私1人です。5年前までは前任の者が、やはり1人で担当していて、今は私が引き継いでいます。以前のことは記録を調べれば分かりますが、5属性以上選んだ方がいたか、気になりますか?」


 さすがにそこまでしなくていいですよね、といった表情で聞いてくる。実際、そこまでしなくていい。


「いえ、わざわざ調べるほどのことじゃないです。既にゲームオーバーになってるなら大した人じゃないでしょうし、クリアしていればあなたが知らないはずがない。まだゲームの中にいて、強い人ならいずれ会うことになるでしょうし。会うことがなければやっぱり大した人じゃないですね」


 案内人が目をパチクリさせている。


「まるで、自分は強くなって仮想世界中の強者と戦うみたいな言い方ですね」


「そのつもりですよ。やるからには誰よりも強くならないと」


「目標が高いのですね」


「目標じゃなくて、計画です」


 案内人はまた目をパチクリさせた。さすがにちょっと強気になり過ぎたか。まあ、発言してしまったというだけで、心の内も発言内容のままだが。


「それは頼もしいですね。ここまで自信がある方も初めてです。頑張ってくださいね」


「はい。次に5属性選ぶ人が出た時に話題にしてもらえるように頑張ります。

・・・って、すみません、結構話が逸れちゃいましたね」


「いえ、お気になさらず。ちょうど先ほどの戦闘タイプの選択が最後でした。全体を通して、何かご質問はございますか? 」


「大丈夫です。あとはやりながら感覚をつかんでいきたいと思います」


「そうですか。それでは奥の部屋にお進みください。リアルアドベンチャーの世界へご案内いたします」


 俺は立ち上がり、案内人が開けたドアの先に進む。しばらく通路を進んだ先で、広い部屋にカプセルのようなものが並んでいた。他の挑戦者たちがこの中に入っているのだろうか。案内人は俺の前に出てしばらく進み、開いているカプセルの前で立ち止まった。


「ではこちらへどうぞ。クリアするかゲームオーバーになるまで戻れませんので」


 クリアかゲームオーバーで現実世界に戻される、というのも冒頭の説明で言っていた。俺はカプセルに入って横になり、目を閉じて答える。


「じゃあ次にお会いする時は、クリアした後ですね」


「ふふふ。楽しみにしていますね」


 目を閉じていても、カプセルが閉まっていくのが分かる。やがて、完全に閉まる音がした。



 ゲームの中で1日経てば現実でも1日経過するらしい。今日は7月31日、夏休みの宿題には手を付けていない。ゲームオーバーでも1ヶ月以内に戻れば何とかなるが、そんなつもりはない。クリアしてこのゲームに挑戦した最大の目的、1億円ゲットだ。高校は中退して親元も離れて遊んで暮らそう。


 クリア条件については戦闘タイプを選ぶ前に説明があった。これを達成すればクリア、というものは決められていないらしい。ここの社長が仮想世界をモニタリングしており、それぞれの出来事に対してクリア認定するかどうか判定しているとのこと。過去には、恐怖の魔王を倒したり、伝説の秘宝を手に入れたりしたパーティーがゲームクリアとなっている。“普通のRPGで主人公たちが成し遂げるようなことをすればクリア認定されると思います”と案内人は言っていた。最終的には社長さんのさじ加減で決まるが。


 ゲームオーバー条件はメンバー全員のHPがゼロになること。殴られたり斬られたりして痛みを伴うと同時にHPが減る。痛みはするが体に影響は出ないらしい。骨折級のダメージでも痛みだけ。ただし演出として傷ができたり血が出たりはする。軽ければ現実同様に痛みは少しずつ薄れていくが、HPは自然回復しない。一方でHPが回復するとその分だけ痛みも一緒に引く。HPがゼロになったら戦闘不能。軽いダメージでも積み重なれば戦闘不能になる。心臓を刺されるなどの即死級のダメージなら文字通り即死、一瞬でHPがゼロになる。戦闘不能になると痛みは完全に引き自由に動けるが、魔法は使えず、敵や他のプレイヤーに攻撃はおろか触れることさえできない。


 大まかなルールはこんなところか。あとはやりながら覚えていこう。しっかし、仮想世界作ってその中に入る挑戦者募って何が起こるかモニタリングするとは。金持ちの道楽というやつだろうか。あまりいい趣味とは思えないが、1億円もらえるなら何でもいい。悪趣味な金持ちって大好き。



 色々と考え事をしているうちに意識が少しずつ遠のいてきた。どんな仕組みかは知らないが、仮想世界に飛ばされるのだ。この先で、共に旅する仲間と顔を合わせる。ランダムに決まるらしいが、メンバーに恵まれることを祈ろう。


次回:4人の魔法使い、集結・・・

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