異世界メモリアル【3周目 第10話】
新聞部とゴルフ部の両方に所属することとなった俺は、部活コマンドばかりを連打するような生活になった。
特にこの2学期に関しては、文化祭での新聞部としての展示があるし、ゴルフは秋がベストシーズンということもあって、土日も部活で埋まっている。
これは、この世界を全クリすることを最優先として考えた場合は愚策といえる。
部活よりもバイトを行ってお金を貯め、アイテムを購入して次のプレイに持ち越す方がいいからだ。
わかっちゃいるんだけどなあ……。
普通のゲームとギャルゲーの違い、そしてゲームと現実の違いが立ちはだかる。
合理的な、正しい攻略よりも、優先すべきものがある。
それは、巨大な敵を倒すことよりも、ハイスコアを出すことよりも、世界を救うことよりも自分の心を動かしてしまう。
それは――
目の前にいる可愛い女の子に好かれたい。
という本能である。
「あぁ、ロトさん。今日も来ていただいたのですね。このとおり感謝いたします」
大仰に礼をする鞠さん。
「何言ってるんだよ、自分が所属している部活に参加しているだけでそこまで感謝されても困るよ」
「いいえ、心から嬉しいのです」
あまりにも気高く美しいお姫様のような鞠さんにこのように感謝されると国を救ってるような気持ちになる。
まさにロトって感じがするが、やってることは天然ボケへのツッコミである。
ゴルフ部の翌日は文芸部へ。
校内新聞の人気連載記事の原稿を受け取るためだ。
「来斗さん、パンチラスポットは掲載しないから渡してくれなくていいんだけど」
「ロトさんが喜ぶと思って」
例によって抑揚のない無感情なセリフでとんでもないことを言う。
……これはどう捉えればいいんだろう。
俺が喜ぶようなことをしてくれてありがとう、なのか。
それとも俺は変態じゃないですよ! と言うべきなのか。
いっそ、本当に見たいぱんつは君のだけだよ、と口説くべきなのだろうか。
真面目な顔で思案していると、来斗さんはふふ、と微笑んだ。
……からかわれていたのか。
なんにせよ、返事をしなくてよかった。
「じゃあ、いつものとおりレイプしやすいとかの情報を抜いて掲載させてもらうよ」
俺のセリフに来斗さんは無言で首肯。
玉稿を預かって文芸部を後にする。
次は新聞部に戻って、編集。
さらに文化祭の準備だ。
ああ、忙しい、忙しい。
部活で小忙しい生活を送ること2ヶ月、いつもの夜の妹との蜜月が始まる。
「……そんなに甘い感じじゃないけどね」
「蜜月って言葉は口に出してないけどな」
【ステータス】
―――――――――――――――――――――――――――――
文系学力 72(+13)
理系学力 98(+5)
運動能力 55(+8)
容姿 21(+21)
芸術 31(+21)
料理 105(+0) 装備+100
―――――――――――――――――――――――――――――
「ちょっと待ってくれ、部活しまくってるのにろくにステータス上がってないぞ」
「なんだっけ、漫才のツッコミ部だっけ」
「……否定は出来ねえな……」
「ツッコミで何のステータスが上がると思う?」
「……芸術かな? あと新聞部だってやってるし」
「上がってるみたいだよ、芸術」
「ちょっとだけだよな」
「そりゃ、そうでしょ。わかるでしょ」
――なんてこった。
普通、部活コマンドにそこまで差なんて出ないだろ。
違うな、俺がおかしいんだ。
普通のギャルゲーだと思ってたら大間違いなんだ。
忙しく頑張ってれば報われるなんて、世の中はそんなに甘くないんだ。
学校に通っていても授業を聞いていないなら意味がないように。
間違ったトレーニングでは筋肉がつかないように。
運動系部活に参加したとしても、運動してなかったら運動能力が上がるわけがない。
そんな当たり前にも程があることを理解出来てないとは。
3周目のプレイでこれじゃゲーマーとは呼べないだろ、俺。
猛省しつつ、親密度を確認する。
【親密度】
―――――――――――――――――――――――――――――
星乃煌 [サウナの後の水風呂くらい愛している]
実羽映子 [好き]
次孔律動 [キャディ部!?]
来斗述 [クラスメイトA]
庵斗和音鞠 [このままの関係でいいじゃない]
―――――――――――――――――――――――――――――
「なんとも低いなあ」
「そりゃそうでしょ。わかるでしょ」
みんなと毎日仲良くやってるものだから、男子校出身の俺としてはそれだけで順風満帆。
リア充ライフを満喫している気がしてしまったが、それが勘違い。
好かれたいと思って部活ばかりしていたのに、この体たらく。
この世界ではステータスが低ければ、好かれるわけもなかった。
部活で活躍しているわけでもなく、スポーツも別に出来ないし、容姿が低い。
なんてこった。
しかし部活に出ないわけにもいかない。
どうすればいいのだ。
俺の青ざめた顔を見ながら、妹はベッドから腰をあげる。
ピンクのパジャマ姿で、俺の鼻先に人差し指を突きつけた。
「お兄ちゃん、どうするの? どうしたいの?」
「……モテたいです」
「よろしい、ならば特訓だ」
久しぶりに見る舞衣の鬼軍曹モード。
えげつないノルマが書かれたノートを嬉しそうに振りながら、にんまりと笑っている。
やっぱりこうなってしまうのか……。
4周目はもっと効率的にプレイするぞ、と心に誓った。




