表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

94/364

異世界メモリアル【3周目 第7話】


騙されたっ……!


いやっ……確かに……言っていないっ……!

上から滑るとは一言も言っていない……!


妹が……舞衣が言ったのは……「寒い雪の山の中を板に乗って滑って移動してちょっとしたお届け物をする」


確かにそのとおりっ……!

滑って移動っ……

普通は、想像するっ……上から滑るとっ……

それが間違い……

自分に都合のいい解釈……それこそが原因っ……

ましてや俺はゲーム脳……

よくあるタイムアタックや旗をターンするミニゲーム……

そういうタイプのバイトだと……ついそう思ってしまう……

馬鹿っ大馬鹿っ……!

何も成長していない……3周目だというのに……


甘くないっ……世の中はそんなにっ……

ましてやこのギャルゲーのような世界はっ……そんなにヌルいゲームじゃない……

知っていたはずっ……!

メイド喫茶なら女装……!

漫画のアシスタントをすればBL漫画……!

そういう世界だと……!


ピラミッド建設だの強制地下施設での労働だのと一緒に出てきた選択肢で、ミニゲーム感覚のレジャー感覚のバイトだと考えるなんて平和ボケにもほどがある……!


むしろスキーだったことは僥倖と言っていいっ……

あり得たっ……ただの木の板という可能性……!

それに比べたらマシっ……

だが、キツイっ……

あまりにもしんどいっ……!

クロスカントリースキーはっ……

すなわち、平地……もしくは登りっ……

スキー板を履いて滑りながら、目的地を目指すオリンピック競技にもなっているスポーツだがっ……

スポーツなのかもしれないがっ……

いきなりやり始めて10時間は酷……!

しかもルートも確保されていないっ……獣道……全て新雪……!

他の競技者がいるほうが絶対楽っ……

踏み固められた道筋がゼロ……皆無……ただ木が切ってあるから道だとわかるだけ……!

持って行かれる……体力が……雪に吸い込まれるように……!

ガリ勉になるような運動能力でこれは厳しすぎるっ……

もう脚がっ……腰がっ……無理だっ……疲労が限界っ……

休憩……せめて……休憩っ……!

温かいココアでも啜りながら、心と身体の休息っ……

ところがどっこい……ここは雪山っ……

吹雪とは言わないが、凍てつく風が吹いているっ……

こんなところで休もうとしたなら……凍死は必然っ……

進むしかないっ……

たどり着くしか無いっ……

届け先にっ……


極寒の地にありながら、汗が止まらない。

10時間に及ぶ雪山での移動は尋常ではないカロリー消費であった。

動いている間は暑いが、立ち止まった瞬間に風が汗とともに体温を奪っていく。

3分も立ち止まったなら、見えてくる。

死神の鎌が。

汗と涙を手で拭いながら、前へ。

進むしか無い、進むしか無いのだ。


スタートから11時間。

ようやく見えてくる建物。


もう、ゴールしてもいいよね。

これを届けたら、ゴールだよねっ……!

この仕事が終わったら俺、一気に山を駆け下りて温泉に入って美味しいごはんを食べるんだ……

そしてたどり着く、家の扉に!


ゴンゴン!


「お届け物でーす! おばあさまからのお届け物でーす!」


がちゃり


「あぁ、ご苦労様。またお婆ちゃんこれ作ったんだ、私これ嫌いなのよね。はい、サイン」


バタン


温かい空気を少しだけ漏らして、重たい扉は閉められた。


ひどいっ、ひどすぎるっ……

ボロ……ボロ……と俺は泣いた。


11時間に及ぶ命をかけた労働の結果がこの始末とは……っ

ただ泣くしかなかった。

泣きながら雪山を降りるしかなかった。

涙を吹き飛ばす向かい風(アゲインスト)はあまりにも冷たく。

待ち望んでいたはずの直滑降なのに目も開けていられないのは涙のせいか、風のせいか。

汗と涙が気化して身体の熱を奪っていく。

寒い、寒すぎる。

体も、心も。

70分ほどひたすらに雪の斜面を滑り降り、まさに命からがらという体で温泉宿に転がり込む。

バイト代は少ないうえ、7連勤という現実は、温泉に入ってもなお癒やしを与えることはなかった。


その後、6日6晩温泉宿に宿泊するが、精神的には凍てついたまま。


バイトが全て終わって、雪国から戻る寝台列車のベッドで寝たとき、初めてホッとすることが出来た。

1周目で死んだときの、要人の護衛のバイトよりキツかった……。

猛吹雪の中を10時間も移動することに比べたら、拳銃を突きつけられる方がまだマシだ。


「……ただいま」

「お兄ちゃんお帰り! よかったね、ガリ勉状態が治って。なんか軍隊にでも入ったかのように精悍な顔つきだよ」


妹を恨んではいけない……

舞衣に悪気なんてこれっぽっちもないんだ……

むしろ言っていたんだ、ちょっとブラックだと。

地下労働よりもブラックだと……!

スキーなんてレジャーじゃんなんて浮かれてた俺が阿呆なのだ。


「お兄ちゃん、唇を噛みすぎて血が出てるけど、大丈夫?」

「なんでもない……ッ」

「そう? 楽しみにして出ていったけど、どうだったアルバイト」

「……」

「なんで泣いてるの……」


とりあえず次からバイト先に雪山は選択肢に入れないというお願いをした。


翌日からまた学校で特ダネ探しを始める。



ジャンルが恋愛なのになにこれ・・・

ざわ・・・

   ざわ・・・

というリアクションですよね。

そうですよね、すみません。

天のドラマとトネガワのアニメが面白いからという理由でどうかひとつ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ