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異世界メモリアル【2周目 第39話】


「ニコ、好きだ。愛してる」

「ロト、私もよ」

「好きだ」

「好きよ」

「アイラブユ~」

「アイラブユ~トゥ~」

「ちゅ~」

「むちゅ~」


はぁ~、と俺はため息をつく。


「舞衣、お前それなんの真似だよ」

「お兄ちゃんとニコちゃんの真似に決まってるでしょ!?」

「そんなことしてねえから! 全然似てねえから!?」


妹の舞衣が朝っぱらから俺をおちょくる寸劇を見せてくるせいで、俺の飲むコーヒーは苦い。

ダイニングに差し込む春の日差しは爽やかで清々しいのに、一体何を見せられているんだ俺は。


「なんだ、まだちゅーしてないんだ」


ミルクが多めのカフェオレを飲みながら、ぼそっと舞衣が言った。

安堵したように聞こえたのは、カフェオレの甘みによるリラックス効果だろう。


「超ラブラブだって噂だけど? どうなのよ、そこんところ」

「仮にそうだとして、なぜ妹に言わなければならない」

「うわ~! そうじゃなかったら仮にそうだとしてとか言わないよね~!?」


ああ、めんどくさい。

普段は俺の妹とは思えないくらいの美少女だが、こうなってしまえば母親と変わらない。


「教えてよ~、お兄ちゃんのラブラブ話、き~き~た~い~!」


訂正しよう。

母親はこんなに可愛くないし、無視すればいいが、舞衣はこのままにしておけない。

子供のように駄々をこねる様子が、似合っちゃうところが困っちゃう。


「お前に話しても俺にメリットが無いだろ?」

「んー。じゃあ、パフェ奢ってあげる」


ははは、俺はお子様じゃねえんだ。

そんなことで誰が話すか……って待てよ?

それって、二人でデートするってことじゃね?

舞衣と一緒にパフェを食うとか最高じゃん!


「仕方ないなあ、俺はパフェが大好物だからなあ。仕方ないなあ」

「うんうん。じゃあ話してよ」

「何いってんだ、一緒にパフェを食いながらじゃないと話さないぜ」

「え~。一緒に歩いているところを誰かに見られたら恥ずかしいし」


お前までそれを言うのか!?

サポートキャラのくせに!?


「じゃ、この話はなかったことに……」


そう言ってダイニングを離れようとしたら、袖を掴まれた。

どんだけ聞きたいんだ、こいつは。


からんころんからーん♪


喫茶店というのは異世界でも入ったときの音は変わらないものらしい。

舞衣が注文して運ばれてきたパフェは、幾何学的というか前衛的というか、何故こんなにエキセントリックにしなければならないのか疑うような見た目で異世界感が半端ないが、味は美味しかった。


向かいに座った舞衣は、早く話せと目で訴えかけている。

口はアイスでいっぱいだから、声がでないのだろう。

舞衣は俺の部屋を訪ねてくるとき様々な服装で俺を楽しませてくれるが、今回はオーソドックスな私服なのがかえって新鮮だ。

白のベレー帽に白いシャツ、ピンクのカーディガンと花柄のスカート。

まさに春のお嬢さんといった格好で、デート感満載。

気を良くした俺は、ニコとの赤裸々な思い出を包み隠さず話した。


「この前はゲームセンターでプリントシールのやつを撮ったぞ」

「おお、王道! 見せて見せて」


生徒手帳に貼ってあるシールを見せる。


「うっわ!? ハート多すぎ! 顔が隠れてる!」

「ニコの俺への愛が溢れすぎて、俺の顔すら隠れてしまうんだ」

「顔隠しちゃ駄目でしょ……本当にお兄ちゃんのこと好きなのかな……?」

「こんなにハートがあるのに好きじゃないわけないだろう!?」

「それもそっか」


うんうん、ラブラブだねえ、と腕を組む舞衣。

ほっぺに少しクリームが付いている。

なんか可愛いので指摘することもなく話を続ける。


「カラオケも行ったな」

「ひゅ~! 個室! ひゅ~!」


なんでこんなに嬉しそうなのか皆目わからないが、笑顔が可愛いので良しとする。


「俺が歌うと全力でタンバリンを叩いてくれるんだ」

「それ、歌を聞いてないんじゃ……」

「しっとりとしたバラードを歌っても、マラカスで応援してくれる」

「台無しでしょ……本当にお兄ちゃんのこと好きなのかな……?」

「あんなに応援してくれてるのに好きじゃないわけないだろう!?」

「それもそっか」


うんうん、ラブラブだねえ、と頬杖をつく舞衣。

口の周りをべたべたにしつつ、紙ナフキンを使わず舌で舐めている。

なんかエロいけど指摘することもなく話を続ける。


「漫画喫茶も行った」

「カップルシート!? ひえー! ひょえー!」


なんでこんなに興奮しているのか全く理解できないが、嬉しそうなので微笑ましく見守る。


「俺が漫画読んでると後ろから、その後の展開を教えてくれるんだ」

「ええっ!? ネタバレじゃん! 最悪じゃん!」

「ニコは天才だから、犯人の動機も、野球の試合の結果の点数も覚えている」

「悪魔でしょ……本当にお兄ちゃんのこと好きなのかな……?」

「キャラのモノマネしながらセリフを読んでくれるのに好きじゃないわけないだろう!?」

「そ、そっか。まぁ嬉しいならいいか」


うんうん、ラブラブなんだねえ、と食べ終わったパフェの底を漁る舞衣。

もうほじくっても何も出ないと思うが、一所懸命にスプーンを操っている。

ちゃんと聞いてるのかな、こいつ。


「プラネタリウムも行ったぞ」

「暗いところでイチャイチャか~、いいですねぇ~」


なんかもうエロオヤジみたいになっててどうかと思うが、途中で止めるのも癪なので続きを話す。


「ナレーションより星に詳しいんだ、距離とか明るさとか」

「そういう真面目な話より、ロマンチックな雰囲気を味わうところじゃないのかな」

「間違った情報があるとすぐ指摘するぞ」

「それプラネタリウム楽しめてるのかな……本当にお兄ちゃんのこと好きなのかな……?」

「黙って手を握ったら握り返してくれたんだから好きじゃないわけないだろう!?」

「それ! そういう話を聞きたかったの!」


うんうん、本当にラブラブなんだねえ、と満足した表情の舞衣。

妹にデートを赤裸々に暴露するという意味不明な体験だったが、なにげに楽しかったな。

それにしても、俺達のデートはちょっと普通じゃないのだろうか。

舞衣が終始怪訝な顔をしていたので、少し不安になった。


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