異世界メモリアル【2周目 第38話】
4月2日はニコ・ラテスラの誕生日である。
18歳になるというが……見た目は11歳のままだ。
これも親の人体実験のせいと思うと胸クソ悪いが、ニコは悲哀を感じさせない。
彼女へのバースデープレゼントは今回も妹の提示した3択。
1.モルモット
2.着る毛布
3.サーモンちゃんのぬいぐるみ
簡単だー!
実験大好きだからモルモットが欲しかったの~、なんてなるかよ!?
ニコは理系女子しかもしれねえが、別にマッドサイエンティストじゃないんですよ。
それにしても誕生日プレゼントに気軽に生き物をあげちゃうなんて、妹に提示して欲しくない。
んで、去年のクマのぬいぐるみは、クマが大嫌いだったっていう話だけどサーモンはまあ普通って感じなんじゃない?
サーモンちゃんって何なのかわからないし、舞衣に聞いても知らないって言うけど、多分普通に嬉しいの結果になるやつじゃない?
これは絶対、2の着る毛布で間違いなし!
義朝から情報収集しててよかった、ニコは暖かいものが大好き!
もう春だけど、夜はまだ肌寒いし、暖房を付けないから活躍しそうだ。
春休みだが、ニコは実験のため学校に来ていると義朝から教えてもらった。
やつのことは心底気持ち悪いが、仕方なく感謝する。
理科室を訪問し、着る毛布をプレゼントした。
予想通り、大喜びの反応を獲得。
そして……来た……来たよついに。
ゲームだと好意を持たれているとグラフィックでまるわかりの状態になるんだが、現実にそれがやってきたよ!
3年生の1学期がスタート。
学校で会ったニコは俺を見るなり頬を染め、瞳を潤ませ、上目遣いで顔を覗いてくる。
どこからどう見ても、俺に惚れている! そうにしか見えない!
これで必須イベントなどのフラグを間違えなければ、攻略できるはずだ。
それはさておき、この状態でデートしないわけがない。
あのゲームで一番楽しいとき、それはデレデレの女の子とイチャイチャするデートなわけよ!
それが現実になるわけだ!
転生してよかった!
神様ありがとう!
放課後、顔のにやけを隠せぬ状態で理科室へ。
「ニコ、デートしよう」
「うん。ロトの誘いなら、いつでもどこでも行くよ」
そう言って、身体をくねらせつつ、はにかんで俯くニコ。
う、うをおおおお!?
もはや誰だよってレベルで可愛らしいよ!
この状態までくるとそんなこと言うんだ?
これが世に言うデレってやつなのか!?
「じゃ、じゃあ中央公園でお花見しようか」
「うん。楽しみ」
俺の提案に答えると、にっこりと微笑んだ。
なんなんだこの天使は……。
どんだけ俺のこと好きなんだよ……って考えると恥ずかしいな。
「何歳がいい?」
上目遣いで質問される。
この世界で唯一、ニコが俺だけにしてくれる選択肢。
デートのときに好きな年齢の肉体で会ってもらえるというニコだけの特典だ。
これがゲームだったら、イラストレーターがなんでこいつばっかりこんなに描かないといけないんだと泣いてしまうかもしれない設定だ。幅広く年齢のビジュアルが用意されているのはプリンセスを目指す娘くらいのものだろう。
有り難い問いに、俺はとっくに決めていた回答を伝える。
「18歳」
「そう、本当の私を選んでくれるのね。わかった」
18歳になったから18歳を選んだ、と思われて感謝されてしまった。
単純に好みなんだ! 18歳が! 一番! ごめんね!
初めて彼女が成長する薬を飲んだときに一目惚れした、それが18歳だったのだ。
デート当日、午前10時半。
待ち合わせの時刻より30分前に到着したが、ニコ@18歳は中央公園ですでに待っていた。
散り始めた桜の花びらの中で、ピンクのワンピースに身を包んだ彼女は春の妖精のようだった。
こんな可愛い女の子とデートできるという奇跡に感謝する。
そして、彼女が俺に好意を抱いているという確信に安堵する。
普通の恋愛であれば、お互いの好意は探り合いであろう。
俺は妹から親密度という形で知ることができるから、怖くない。
そう、怖くないのだ。
現実の世界で彼女が出来なかったのは怖かったから。
告白して断れるかもしれない、気持ち悪いと思われるかもしれない、嫌いだと言われるかもしれない。
そんな恐怖があるから、ちょっと好意を持った女性に話しかけることすら出来ない。
勇気を出して彼女を作った男を見ながら、俺にはもっとやるべきことがあるなどと変な言い訳をするような人生だった。
そう考えると恋愛シミュレーションゲームとはなんと優しいシステムなのだろう。
美少女に出会った上に、その子と付き合える可能性があるとわかっているのだ。
どんなに努力しようが何をしようが絶対付き合えない、というつらい現実が発生しない。
俺が転生したこの世界はなんと嬉しい世界なのだろう。
散々クソゲー呼ばわりしていたが、違ったんだ。
これは少しだけ恋愛をするのに優しい現実の世界なんだ。
そして今、俺に好意を持っている美少女とデートをしている。
桜の咲く公園で、レジャーシートに二人で座っている。
「うまぁ~い!」
ニコが用意してくれたサンドイッチ(この世界のサンドイッチは、はんぺんみたいだが)を食べてつい叫んでしまう。
味は普通だ。
あまりにも幸福すぎて、嬉しさが口から漏れたのだ。
「大げさだなー。絶対、ロトが作ったほうが美味しいのに」
叫んで思わず後ろ向きに倒れた俺を覗き込むニコ。
「いや、世界で一番うまいよ。感動してる」
紛れもない本音だった。
「褒めすぎ! 逆に不愉快だよ」
ぷうと頬を膨らませて不機嫌のポーズを見せるが、ただ可愛いだけだった。
どうみても本当は怒っていない。
「ははは、でも本当だぜ」
「んも~、そんなこと言っても何も出ないからねーっ」
あはは、うふふ、と桜に囲まれて笑い合う俺たち。
なんだこの甘々なやりとりは。
なんだこの嬉し恥ずかしのコミニュケーションは。
他人が聞いても何も面白くない。
他人が観てても何が楽しいのか、という会話が続く。
しかし、今。
俺は世界一幸せな男だと胸を張って言えた。
二人だけが楽しいだけの、他愛もないデートは日が傾くまで続いた。
ニコとのデートをどれくらいのボリュームで書いたらいいのか悩みます。さっさと時間を進めた方が良いのでしょうか。それとももっとイチャコラしたほうが良いのでしょうか。ご意見大募集。




