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異世界メモリアル【第8話】


「夏休みに入ったぜ! やっふー!」


などとリビングで浮かれていた俺は、妹から親指で2階に行けと指図された。

まるで表にでろ、という意味なんじゃないかというようなそぶりである。


先に自分の部屋に入っていると、ノックもなしに舞衣が入ってきた。

いつものラブリーでファンシーでプリティーな服装ではない。

深夜のディスカウントショップにたむろしている人達が着ていそうなジャージだ。


「……わかってるね?」

「状況確認ですよね?」

「そうだけど」


人差し指でぴっ、ぴっと、ソコに座れというように合図される。

断れる雰囲気などなく、フローリングに正座する俺。

俺、叱られてるんですかね。



【ステータス】

―――――――――――――――――――――――――――――

文系学力 58(+30)

理系学力 39(+20)

運動能力 43(+10)

容姿   69()

芸術   13(+2)

料理   70(+4)

―――――――――――――――――――――――――――――


学力上がってるぜ~!

補習してよかったよね。

むしろよかった。

そう思うようにする。

ポジティブにシンキングしないとさ~、ノーグッドじゃない。


「すごくね? 俺すごくね?」

「それはいいとしてさ」


少しおどけて言う俺に、抑揚のない冷めた声で応じる妹。


「はい」


正座をしなおす俺。


問題は学校での女子の評判である。

――そう。

学校中に俺が超絶バカなうえに極度のシスコンであると知れ渡ってしまったのだ。


【親密度】

―――――――――――――――――――――――――――――

実羽じつわ 映子えいこ [私も妹のことは好き]

望比都沙羅もうひと さら [飼っている金魚の糞くらいの存在]

次孔じあな 律動りずむ  [とくダネが掘れば掘るほどでてくるか!?]

寅野とらの 真姫まき  [まじバカ]

―――――――――――――――――――――――――――――


実羽さんの親密度がわかんなくなっちゃったぜ。

俺への感情じゃなくて、同情みたいな感じだぜ。


沙羅さんなんて、ペットの金魚からその糞への降格かよ。

相当やべえじゃん。


そして次孔さんは俺のパパラッチになっちゃって。


真姫ちゃんは、残念というかむしろ当然。


やっちまったな~、俺。


「お兄ちゃんってさぁ」


何か言おうとする妹に、俺は手で抑止する。


「何も言うな、舞衣。俺は後悔などしていない」

「後悔しなよ……」


ハァ、とため息をするマイシスター。


「もう夏休み入っちゃってるし、人の噂も七十五日っていうしさ」


ポジティブな意見を述べる俺。


「七十五日って夏休みより全然長いんだけど」


おでこに手を当ててかぶりを振る舞衣。

完全にどうしようもない部下に困っている上司の仕草である。


「大体、夏休みだってほとんど補習でしょ? 毎日学校でしょ? さっき、やっふー!とか言ってたけどさあ」


確かに全教科赤点なので、怒涛のごとく補習である。

補習がないのは土日だけなので、夏休みとは思えないカレンダーどおりの生活が待っている。


「普通だったら、そろそろ夏祭りとかプールとかでデートする頃でしょ? 何やってんの」

「そうだな! よし舞衣、俺とプールに行こう!」

「行かないから。は~あ、しまったなあ。わたし、少し可愛く生まれすぎてしまったかも」


我が妹は凄いことを言うね。

まるで、自分の可愛さを調整して生まれることができたかのようなセリフである。

そんなわけがないが。


******


学校の教室にて。


「トラちゃんさぁ、明日補習ないし、プールにでも行かない?」


俺は連日の補習を通じて真姫ちゃんとフランクに会話ができるようになっていた。

まだ真姫ちゃんとは呼べないが、トラちゃんと呼べる間柄である。


「もう胸の入る水着がないからムリ」


しれっと言い放つ真姫ちゃん。

あらかたの女子を敵に回し、ほとんどの男子を振り向かせるであろうセリフだろう。

そう言われるとなおさら見たくなるな。


「じゃあ、水着を買いに行くというのはどうだろう」


俺は一緒に水着を買いに行くというシチュエーションに憧れがあった。

もちろん前世においてそんなチャンスは微塵もなかった。


「はぁ? なんでそうなる?」


小馬鹿にしたような顔で言う真姫ちゃん。

実際に小馬鹿、いや大馬鹿だと思ってるだろうけれども。

続けてこう言った。


「そんなにプールに行きたければ妹と行けばいいだろ?」


それはすでに断られているんだ! とは言えない。

正攻法でお願いしてみたらどうだろう。


「そうではなくてですね、デートしてくれませんかと言っているのです」

「な!? お前、あたしとデートしてえのかよ?」


奇異なものを見るかのように矯めつ眇めつしてくる真姫ちゃん。

そんなに意外なのだろうか。

ここまで可愛い女の子が言い寄られたことがないとも思えないが。

勿論だというように頷くと、真姫ちゃんは腕を組んで感慨深げに言った。


「はー、世の中には面白い奴がいたものだな~」


いやー、世の中には凄いおっぱいがあったもんだな~。

真姫ちゃんが腕を組むと胸が腕に乗る。

制服の上からそうなるって半端ないぜ。


「じゃ、明日ショッピングモールな」

「えっ!?」


正直おっぱいのことしか考えてなかったのに、突然デートがオーケーされてびっくりしてしまった。


――翌日。


ショッピングモール前にて待っていると、私服の真姫ちゃん登場。

デニムのショートパンツに黄色と黒のボーダーのTシャツ、青いキャップにスニーカーという少年のような格好だ。

しかし、健康的でハリのある生脚と、Tシャツのボーダーが歪むほど膨らんだ胸がそうは思わせない。


さて、ここで普通は服装を褒めるものだ。

よく似合ってるねとか。

ここまでボーイッシュな場合、どうなんだろう?

少し迷った。


「なに、ぼさっとしてんだ? 行こうぜ?」


時間切れ、という選択になってしまった。

早速ショッピングモールの水着売り場に向かう。


「コレでいっか?」


着いてすぐに水着をチョイスする真姫ちゃん。

カップラーメンも出来ないくらいの時間である。

これはいけません。


「良くないです」

「良くないのか」

「当然です」

「当然なのか」

「まずなぜ黄色と黒の縞にこだわるんです」

「トラっぽいからいつもコレだ」

「却下します」

「だめなのか」


非常に素直である。

この人は本当に少年のようだな。

俺のような唐変木がお母さんのように接してしまうほどに。


「まずですね、水着を買うっていうのはそんなすぐに決めちゃいけません」

「そうなのか」

「どれにしようか悩んで選ぶというのが醍醐味なのです」

「そんなものか」


多分ね。


「3つほどタイプの違うものを候補にあげてみてください」

「押忍」


返事がおとこらしすぎるが、そこはスルーしよう。


「この3つでどうだ?」


フフン、となぜか得意げに持ってきたのは、全部囚人服みたいな水着だった。

明らかにダサい。


「ど、どういうことです?」

「白黒と白青と白赤の3色だ、虎縞じゃないぞ」


開いた口が塞がらないとはこのことだね。

なんという致命的な女子力のなさであろうか。

ぴ、と人差し指を立てて俺は話し始める。


「いいですか、あなたの魅力はどこに有ります?」

「魅力? 強さじゃね?」

「ち~が~う~だろ~! 違うだろ!」


頓珍漢な答えについ、このハゲー! なモードになってしまった。

真姫ちゃんは武道全般が得意らしく、学校では柔道、剣道、弓道で大会に出ているという猛者らしい。


「女の子としての魅力の話でしょ! 特に水着でアピールするポイントの話でしょ!」

「お、女の子としてだと……」


たじろぐ真姫ちゃん。

考えたこともないという顔をしている。


「どこが一番の魅力かって、当然、おっぱいでしょ!?」

「おっ、おっぱ!?」


口をパクパクさせて目をぐるぐるさせている。

誰もが気づいていることだろうが、本人は自らのプロポーションを武力にしか活かしていないようだ。

あまりにも自覚がなさすぎる。


「普通に考えたらこういうのでしょ!?」


俺はピンク色のビキニを見せる。


「ちょ、ピンクじゃないか」


両手をわさわさと交差させ、それはないみたいなアピールする真姫ちゃん。

ピンク色なだけで拒否ってどういうことよ。


「それじゃあコレ。虎柄にするとしたら、コレでしょ!」


ずばり、ラムちゃんみたいな水着である。


「こ、コレは伝説の……」


ごくり、とツバを飲んでいる。

虎縞好きとして伝説のアイテムだったのかもしれない。


「試着してみましょう」

「試着、するのか……」

「当然です」

「当然なのか」


試着室に押し込む俺。

これだよ、俺の選んだ水着を試着するのを待つというイベント。

これが待ち望んだシチュエーションですよ!

溢れる喜びに、ニヤニヤとした顔で握りこぶしを上下に振ってしまう。

女性店員が、露骨に俺の方を見て眉をひそめていたが、気にもならないぜ。


シャッと試着室のカーテンが開く。


「着たぞー」


サバサバとしたセリフではあったが、ラムちゃん水着はすんごい破壊力であった。

胸を張ってスックと立っている堂々たるポーズは、ラムちゃんというよりタイガーマスクだったが。

これで髪がボサボサじゃなければ即グラビアデビューだ。

逆に魅力的すぎて青少年には刺激が強すぎて少年誌のグラビアは飾れないんじゃないかっていうくらいヤバイ。

もうコレだ! これしかない。


「似合ってるなんてレベルじゃないですよ! これにしましょう!」

「んにゃ、これ、高くて買えないわ」


値段だと?

そんな些細なことで諦める選択肢があるわけないぜ。


「俺がプレゼントしますよ」

「マジかよ。そんなにお金もってんのか?」

「フフフ、こんな事もあろうかと!」


俺は金を払うのを来月末にする必殺技を使った。

妹に借りた家計用のクレジットカードである。


「本当にいいのか? 20万もすんぞ?」


20万? 確か4日間の治験バイトで5万だった。

常識で考えたらそれだけの大金、効果のあるアイテムを買うべきだが――。

男はおっぱいの前では無力なのさ。

これが男の性ってやつよ。

ゲーマーである前に俺は男なんだ。


レジにカードを出しながら俺は労働意欲を高めていた。

この水着のためならどんな治験にも耐えられるぜ。

便秘になる薬だろうが下痢になる薬だろうが、どんと来いってもんよ!



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