異世界メモリアル【2周目 第36話】
「会長!」
「元会長!」
ビシ、ガシ、ビシ、ガシ、ビシ、ガシ。
手と肘を当てて最後に握手する、俺たちの挨拶は今年も同じだ。
俺が生徒会長になり、星乃会長は元会長になったことを除けば。
生徒会選挙は会長に立候補したのが副会長の俺だけで、あっさりと就任した。
星乃煌のクリスマスパーティーには今年も参加している。
去年手に入れた来斗さんのぱんつは今も引き出しの中に仕舞われたままだ。
あれほどどうしていいかわからないものもない。
「ロトさん、今年も来てたんですね」
来斗さんのぱんつのことを考えていた俺に、話しかけてきてくれたのは実羽さんだった。
「な、なんで水着なんですか」
なぜか赤と白のサンタっぽい配色のビキニを着ていた。
モデル体型の実羽さんがビキニを着ているのはキマっているが、さすがに冬だから浮いている。星乃邸は暖炉が付いてるから寒くはないのかもしれないが。
「ボ、ボランティアでさっきまでこの格好だったのでそのまま……」
どんなボランティアだよ!
けしからん!
「児童養護施設とかですか?」
「老人ホームです」
「おじいちゃん元気すぎません!?」
「好評でした……」
「でしょうね……」
俺と実羽さんは赤面しながら見つめ合う。
「おお~っと、俺の映子をそんな嫌らしい目で見るのはやめてくれるかな」
今年もイケメンが出てきた。
恐ろしいほど爽やかで、キラーンと歯が光っている。
白いタキシードの胸元に赤いバラという格好がちゃんと様になっていた。
実羽さんはいつもイケメンに囲まれているんだなあ。
「映子をその瞳に映していいのは、俺様だけだ」
次に出てきたのは長い髪をさらりと流しながら切れ長の目を伏せながら、やたら大仰な仕草を見せるイケメン。
フッ……とか、やれやれ……とかいちいち言っている。
こういうキャラ、漫画には確かによくいるけど、現実に見たことはなかった。
「ああ……うう……」
二人の護衛の元、俺から隔離されていく実羽さん。
乙女ゲームの世界は楽しそうだなあ。
俺の世界はハーレムエンドがないからなあ。多分。
今年も助けを求めるように俺の方を見ているが、気の所為だろう。
俺は親指を立てて、彼女を見送った。彼女はなぜか肩を落として去っていった。
「私の身体を瞳に写すのは構いませんよ」
ちょ!?
突然目の前に現れた女性に俺は驚愕する。
「なんで実羽さんと同じ格好しているんです、来斗さん!?」
去年はニコと同じ格好だったが、今年は実羽さんと同じ格好で現れた。
実羽さんは綺麗だなあ、という感想だが、来斗さんはエロいなあという感想になる。
モデルとセクシー女優の違いというか……。
なぜこんなにエロいのだろう……水着を着ているだけで。
しかし今回はパンチラもパンモロも起こらないし、ぱんつが俺のポケットに入ることもなさそうだ。
ずびし
「ぎゃああああ!」
痛い!
突然目に激痛が!
目を抑えて地べたにのたうち回る俺。
「おっと、ピースサインをした状態の手が滑った」
「目潰しじゃねえか!?」
声からすると、どうやらニコのようだ。
なんてことをするんだ……。
「せっかくサンタ服を着てきたというのに、褒めるのはあの変態だけだぞ」
どうやら義朝は変態と呼ばれているようだな。
彼の親友としてまったく異論はない。
「お前も褒めたらどうなんだ」
「見れないんだよ!」
「ふーん、私の可憐な姿を見れないっていうの」
「誰のせいだよ!」
ダメージは深刻で、全然目が開けられる気がしない。
「プレゼント交換始まりまーす」
マイクを使った女性の声がするが、目が開けられないし、移動できない。
「ロト、はやく移動しないと」
「出来ねえんだよ!」
「なんで」
「お前のせいだよ!」
「自業自得」
「お前のせいだよ!?」
去年も聞いた、プレゼント交換の音楽が流れる。
「ニコ、行かなくていいのか?」
「さすがに置いていけないでしょ、私のせいだし」
「自業自得じゃなかったのかよ……」
「嫌らしい目で、でれでれしてるのが悪い」
仕方ないだろう……、誰でもそうなるよ、アレは。
しかし、そうか、これは嫉妬か。
色気とはほど遠いニコは、色気むんむんの来斗さんに嫉妬しているわけだ。
「なんだ、嫉妬かよ」
「……悪い?」
意外にもあっさりと認めた。
へえ……。
「かわいいじゃないか」
「……目、開いて無いけど」
「見えなくても、ニコはかわいい」
「……見ろよ……サンタ服だぞ……」
激痛に耐えて、目を開ける。
そこには赤い服を着た、赤い顔の美少女。
「真っ赤じゃん……」
「サンタ服だからな……」
服より顔のほうが赤いけど。
どんだけ嫉妬してるんだ。
ニコはようやく立ち上がった俺に、リボンをつけた箱を押し付けてきた。
「ほら、プレゼント」
「いいのか?」
「プレゼント交換会に参加出来なかったしね」
「悪かったな」
「いいよ、自業自得だもん」
俺もカバンからプレゼントを取り出す。
「いいの?」
まだ痛む目をつむり、首肯する。
むしろニコにあげたいと思って選んだから丁度よかった。
「あ」
「あ」
お互いにプレゼントの箱を開けた俺達は顔を見合わせる。
俺のプレゼントも、ニコのプレゼントも陶器のビアタンブラーだった。
先月、生徒会長就任祝いと称して奢ってもらったとき、ちょっといい店に行ったのだ。
そのときグラスよりも陶器のほうがビールが美味しく感じると、お互い言っていたのである。
「ふふふ」
「ははは」
笑ってしまう。
プレゼント交換の音楽が止んで、遠くからパーティの楽しい声が聞こえてくるが、俺達のほうがよっぽど愉快だった。
「今度、これを一緒に使いたいなー」
「ああ、最近俺、料理してるんだ」
「それは楽しみ」
どうやら、料理のステータスを上げるのは正解だったようだ。
ようやく目のダメージが癒えて見ることが出来たニコのサンタ服はとてつもなく可愛かったが、てんせーちゃんに見つかってしまい、トナカイ姿を褒めさせられているうちにクリスマスパーティーは終了してしまった。




