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異世界メモリアル【2周目 第34話】


「ゆうべはおたのしみでしたね」


言うと思った!

もちろん、宿屋の店主のセリフである。

もちろん、特におたのしみなことはしていない。

一つのベッドで4人で眠る、なんてこともなかった。普通に別の部屋だった。


朝食を食べるため食堂でみんなと合流する。

俺はスープをすすりつつ、今日の予定を聞いた。


「今日の昼飯は?」

「ダンジョンの中だって」とてんせーちゃんが教えてくれた。


「なんか冒険の目的が昼食と宿なのロマンないな」

「確かにねー」

「ダンジョンってなんかエロい気がするんだが!?」

「ははは、来斗さんは変わらないなあ」

「ですねえ」


3人で笑っていると、冷たい目で睨む人が1人。


「楽しそうだな、お前らな」


やばい、ニコの機嫌が悪いままだ。

昨日ニコ以外の3人で対策会議をしたのだが、結局くっちゃべってるだけで何も思いつかなかったのだ。


「私だけ、のけものにして……一晩中笑い声を聞かせるだけ聞かせて……」


口を尖らせるニコのセリフは小声すぎて聞き取れなかった。

なんという恨みがましい目で見てくるのか……。


「ほら、やっぱり怒ってるって」

「ほんとですね」

「こわE」


来斗さん、てんせーちゃんとひそひそと耳打ちをする。

ニコは乱暴にパンを噛みちぎって、舌打ちをした。


俺たちは朝食をとった後、ダンジョンへ向かった。

昨日一撃で倒れてしまったニコは最後尾にして、先頭を歩く俺。

ニコの機嫌は治らないが、これ以上悪くするわけには。

ダンジョンへ向かう細道に入ると、前方から物凄い速さでモンスターがぶつかってきた。


カバみたいな顔のなウマがあらわれた!


ロトの攻撃! 2のダメージを与えた。


「んあー」


モンスターを倒すのはだいぶ慣れた。

こんぼうで撲殺するのが楽しくなってきたぜ、ふふふ。


来斗の攻撃! 32のダメージを与えた!

てんせーはセクシービームを放った! 35のダメージを与えた!

ニコは火の魔法を放った! 40のダメージを与えた!

カバみたいな顔のなウマを倒した。


……あれ?

俺って役立たずじゃね?

ダメージの量が違いすぎない?


カバみたいな顔のなウマは宝箱を持っていた。


お、武器だといいなあ……。そう思いつつ、


ロトは宝箱を開けた。

なんと、ビームサーベルが入ってた。

ロトはビームサーベルを手に入れた。


「ってなんでビームサーベルだよ!? はがねのつるぎとかじゃねーの!?」

「かっこいいじゃ~ん」


困惑する俺だが、てんせーちゃんは目を輝かせていた。


「装備してみてよ」

「こうか」


ビュワン!


(E)(カッコイイ)! いいなー!」

「そ、そう?」


ポーズをとるたびに称賛してくれるてんせーちゃんに気を良くして、振り回す俺。


「わ、わたしを攻撃してみてくださいよ」

「なんでだよ!?」


そんなアホなことを言うのはもちろん来斗さんだ。


「その熱くて太い棒で私を攻めたてればいいじゃないか!」

「うるせーよ!」


ぎゃいぎゃいと騒いでいると、ぼそりとした冷たい声が俺の耳に届く。


「役立たずが卒業できるといいなー?」


トゲのある言い方のニコだった。

もうずっと不機嫌なままだ……。なんでだろう。どうすればいいのだろう。

今夜も3人で作戦会議したほうがいいかな。


そんな悩みをかかえつつもビームサーベルの攻撃力は凄まじく、そこからは快進撃が続いた。

やがて、ダンジョンに到着した。


「暗いなあ、怖いなあ、襲われそうだなあ」

「そんなに嬉しそうにしないでくださいよ、来斗さん」

「迷子にならないようにしなくっちゃ、ぎゅっぎゅっ」

「ちょ、腕におっぱい当たってるよ、てんせーちゃん」

「あ・て・て・ん・の・よ」

「そういうのはいいですから」

「私は当てないからな、自分からちゃんと無理やり襲ってきなよ」

「襲いませんよ」


ダンジョンの入口でわちゃわちゃしていると、ニコが切れた。


「ああ―! もう! お前らばっかり仲良くしやがって! いじめか! いじめなのか! いじめかっこ悪い!」


ダンジョンの中に響く、怒りの絶叫。

駄々っ子のように地団駄を踏む。

ご立腹モードもここに極まれり。


「こーらー! ダンジョンで大声出すな―! 寝てるモンスターが起きるだろー?」


先生の声が聞こえてきた。

つか先生も大声出しちゃってませんかね。


「……我の眠りを妨げるのは誰だ」


いかにもおどろおどろしいモンスターの声。

普段と異なる音楽が流れる。

うわぁ、これ中ボスだろ。ちょっと見た目ドラゴンっぽいし。デカイし。

攻撃対象が、左腕、右腕、本体の3つになっている。間違いない、ボスだ。

大声あげたこときっかけで出てくるとかどんなボスだよ。


ダンジョンの主があらわれた。


てんせーはダンジョンの主を誘惑しようとした。ミス。


「そりゃそうだろ」と思わずつぶやく。ボスにそんなの効くかよ。


来斗は死の呪文を唱えた! ダンジョンの主には効果がなかった。


「だから、そういうのは効かないっての!」と思わず叫ぶ。4の神官か、お前らは! 


ニコはすくみあがっている。


「わ、わたしのせいだ」


ニコは自分が声を出したせいだと自分を攻めているせいかスタンしていた。

なんてこった、ボス相手の最初のターンで何も出来ないとは。


右腕はニコを掴んだ!


ああ、ニコが掴まれてしまった、おそらく数ターンの間攻撃を封じられるやつだ。

蘇生するだろうけど、右腕を集中攻撃して解放させるしかないだろう。

俺はビームサーベルを構えた。


「ニコを放せええええ!」


ロトの攻撃。

かいしんのいちげき!

右腕を倒した。

落ちてきたニコを両手でキャッチ。

いわゆるお姫様抱っこというやつだが、11歳程度の身体だ、軽い軽い。

ニコはなぜかぼ~っとしていた。なんだ、まだ気にしているのか。

彼女を立たせて、またビームサーベルを構える。


てんせーは派手にずっこけた! 

来斗はずっこけたてんせーのスカートの中に突っ込んだ!

左腕はニコを掴んだ!


ああ、もう!

ニコの呪文に頼らざるを得ない状況でやってくれるぜ、このボスめ!


「だから、ニコを放せというんだ!」


ロトの攻撃。

かいしんのいちげき!

左腕を倒した。

なんだか運がいい。

やはり、落ちてきたニコを両手でキャッチ。

そしてやはりニコはぼ~っとしていた。熱でもあるのか?

この状況で頼りになるのは攻撃呪文なんだが……


「ニコ、お前は俺が守るから。お前しかいないんだ」

「……ほんと?」


うろんな瞳で俺を見るニコ。

疑う余地があるか?

どうみてもお前しかいないだろ。

俺は強く頷くと、ニコの表情は一変した。

頬は紅潮し、希望に満ちた瞳。

何か吹っ切れたように、凛々しい表情で。


「喰らえ、腕無し」


ニコは自爆の呪文を唱えた。

光輝き、爆ぜるように肉体が消え去ると同時に、敵の内部から凄まじい爆発が生まれた。

ボスだったが、両腕がない状態だと攻撃が効きやすいのだろうか。


ニコはダンジョンの主を倒した。

ニコは倒れた。


……ニコのやつ、もともと棺桶になったから不機嫌が始まったってのに。

自爆かよ。

助かった、助かったけど、バカだ。

来斗さんはまだ蘇生呪文を覚えてないってのに。

とはいえ、来斗さんとてんせーちゃんの役立たずっぷりと俺の攻撃力のなさを考えれば妥当かもしれなかった。

反省したのか、てんせーちゃんも来斗さんも何も言わず真面目な顔でダンジョンを歩いた。

俺も無言で歩く。

引きずる棺桶は、重く感じた。


運良く、ダンジョンの奥、昼食をとる場所には神父がいた。

ニコは昼食前に蘇生することが出来た。


また、ニコに睨まれながら食事をするのか……そう覚悟していたのだが。

その後、ニコはずっと機嫌が良かった。

なにが功を奏したのか全くわからない。

逆に心配になってくるので、「大丈夫か」「平気か」などと声をかけるのだが、そのたびに機嫌が良くなるのだ。

理解に苦しみながら、顔色を伺うのだが、やたら笑顔を向けてくる。

う~ん、なんなんだ……。


宿に向かう道中は、ダンジョンで入手したアイテムで遊び人だったてんせーちゃんが賢者になったこともあり、順風満帆。

城下町の宿屋で、すでに飽き始めているパンとスープ中心のこちらの世界のディナーを食べた。

夕食後も3人で作戦会議する必要はないから、4人でカードゲームをして過ごした。

てんせーちゃんは眠くなったため途中で離脱、来斗さんは女なんだから普通に入ればいいのに女湯を覗くと言って途中で居なくなった。


二人きりで部屋にいるのも気まずいと思った俺はニコを誘って、宿の屋上から月を眺めた。

明日で修学旅行も終わり、という状況。

多少センチメンタルでロマンティックだと俺は思っていたのだが、彼女のセリフは驚くべきものだった。


「ロト、ぱふぱふ、されたい?」

「はあ!?」


確かに、確かにこの修学旅行先においてはそれは、相応しいものかもしれなかったが。


「いや、出来ないでしょ!?」


ぱふぱふは、貧乳、いや無乳でできるものではない。


「出来ないことはないぞ」

「いや、無理でしょ」

「出来るってー」


ぷう、と頬を膨らませて抗議するニコ。

やはり機嫌がいい。本気で怒っていない。むしろ可愛い。

あまり出来ないと言うと、また不機嫌になってしまうかもしれない。

よし、そこまで言うなら、や、やってもらおうじゃないの。


「じゃあ、よろしくお願いします」

「素直でよろしい。じゃあ目を閉じて」


目を閉じさせるのもそれっぽいなあ。

不可能とわかっていても緊張するぜ。


ごくり。


つばを飲んだのは俺ではなく、ニコだ。

緊張しているのだろうか。


「そ~れ、ぱふぱふぱふ……」


うわあ、顔にふわふわしたものが。

気持ちいい~、ってこれが思ってたのと違うのも王道なんだよな。

とはいえ流石に太ったおじさんの胸だとか、モンスターがやってるってことはないだろう。

しかしこの頬を打つ感覚は、一体なんだろう。

これが本物だったらいいのに……。

スライムを両手に持って挟んでるとかじゃないといいなあ……。


うっすらと目を開けると眼の前には肌色の双丘。

少し上を見ると、大人びたニコの顔があった。目を閉じて顔を赤くしている。


ど、どういうことだ!?


つまり、これは、これは、マジのぱふぱふ!?

この頬を挟んでくる大きくて柔らかいものは、お、おっぱいなのか!?


「ど、どう? 薬を飲んだんだけど」


さっきのごくりは、薬を飲んだ音だったのか。


「これがニコの、なのか? いくらなんでも、お、大きすぎないか?」


今までも大人のニコは見たことがあるが、まるで違う。てんせーちゃんよりも巨乳だった。


「まあね……人生で一番大きいときだからね。出産した後の24歳だからね」

「しゅ、出産後!? そんな状態になれんのかよ!?」

「天才だからね」


出産後、つまり、母乳が出る状態ってことだ。

そりゃ、おっぱいもでかくなろう。


「はい、おしまい」


そう言って、胸元をしまう。

俺は何も考えることができず、熱に浮かされたように頬の感触を反芻していた。


「来斗さんやてんせーちゃんほどじゃないだろうけど、私も魅力的でしょう?」


見た目24歳のニコは、柔らかく微笑んだ。

お前が一番魅力的だ、なんて。

ぱふぱふの直後に言えるはずもなかった。

ただ頷くだけしかできない俺だったが、ニコは十分満足したようで、しばらく月を眺めていた。


段々と身体が小さくなっていくニコの横顔を見ながら、俺は気づいた。


丸くても欠けていても、月がいつも綺麗なように。

大きくても小さくても、ニコがとても魅力的だということが。




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