異世界メモリアル【2周目 第33話】
チャンスはいくらでもある、とか言ったが……。
夏休みの間、俺はなんの成果も得られませんでしたーっ!
バイトで資金を溜めたり、ステータスは向上したが、ニコの親密度はさっぱり向上せず。
そんな状態で1周目ではプレイしていない、2年の2学期に突入した。
そしてあった、親密度アップの絶好のチャンス。
修学旅行である。
行き先は3択だ。
京都か、沖縄、または北海道……と思いきや。
ここは異世界だった。
1.竜退治の世界
2.クリスタルの世界
3.ゲットだぜの世界
すげえなこの世界、修学旅行で別のゲームの世界行けるんだ……。
ゲーマーの俺としては正直どれも行きたくて仕方がないぜ。
1周目で寸前に死んだことが悔やまれる。
よくある希望の番号を書いて箱に入れるシステム。
どれも興味あるけど、やっぱり1かな、と1に投票。俺、ロトだしね。
そしてゲーム世界ならではの都合の良さがここで発動。
修学旅行の行き先は、ドラゴンを探し求める世界に決まった。
当日、観光バスに乗って高速道路を8時間ほど。
なんとマジであの世界に着いた。
そして、夜が明けた――。
ぺれぺっ ぺれぺっ ぺれぺっぺぺーぺー♪
「起きなさい、私のかわいい勇者」
なんと、旅館の女将が俺を起こしに来た!
物見遊山かと思ってたが、どうやら俺が勇者をやるみたいですよ!?
「これを持っていきなさい」
なべのふたと、こんぼうを手に入れた!
リアルで持たされると改めて思うけど、こんぼうはまだ解るが、なべのふたはないよな。
旅館の女将に何を言っても仕方がないが。
旅館の外に出ようとすると、3人の少女が玄関で待ち構えていた。
「ようロト、同じパーティーみたいだぞ。よろしくなー」
ニコだ。まどうしのローブを身にまとってわかりやすく魔法使いって感じだ。
デートではなく学校行事なので通常通り11歳くらいの見た目である。
俺はなべのふたを装備しているというのに、彼女はいかにも立派な両手杖を装備している。
「いやー楽しみですねぇ~」
てんせーちゃんだ。ただのバニーガールであり、攻撃力とか魔力とか役に立つ気がしない。
しかし遊び人の格好をしているのが似合いすぎるし、エロ過ぎる。
「私が女僧侶なんて、もうレイプされるのは決定ですね……」
目を閉じて、やたら嬉しそうに身体をもじもじさせているのはもちろん、来斗さんだった。
確かに僧侶服は彼女のスレンダーな身体を魅力的にしているが、銀色に輝く重そうなメイスを片手で軽々と持っており、どうみても一番強いし、レイプされそうにない。
されるとしたら、あからさまにエロいてんせーちゃんの方だ。
この3人と冒険に出かけることになった。
どうやら親密度ベスト3の女の子とパーティになるシステムっぽいな。
冒険の目的や行き先などを理解しているのは、王様から説明されたからではなく、修学旅行のしおりに書いてあるからだ。
昼食は旅館から見える塔の頂上で食べるとのこと。
推奨レベルは5……って攻略本かよ。
とりあえずレベル上げをしたほうが良いみたいなので、旅館から出たところでくるくると回る。
が、エンカウントしない。
黙って後ろをついてくるてんせーちゃんが後頭部に疑問を投げかけてきた。
「ロト、なにくるくるしてんの? あそこに敵が見えてるんだけど?」
……モンスターが見えるタイプだったのか……。恥ずかしい……。
ほら、3っぽい感じだったからさ……って言っても誰も共感してくれないだろう。
「すまんすまん」と軽く謝り、弱そうな敵に向かって歩き出す。
モンスターがあらわれた!
エンカウントはわかりやすかった! 音楽が変わる! どこから音が流れているのは不明。
タラララララー、ッタタタラー♪
気持ち悪い顔のインコがあらわれた。
スライムとかじゃないんだな。
モンスターについてはちょっと違うようだ。
コマンド入力ではないので、普通に自らの肉体で攻撃を開始するぞ。
ロトはこんぼうで殴りかかった。
あっさり躱された。
てんせーはえっちな踊りを踊った!
来斗が興奮して、てんせーを襲った!
ロトの目は釘付けになった!
「お前ら……役に立たねーなー?」
ニコは呆れ返っている!
気持ち悪い顔のインコは、ロトを睨みつけた!
ロトは驚きにすくみあがっている!
来斗はてんせーを襲っている!
てんせーは逃げ出した!
ニコは呆れ返っている!
やべえ! このパーティ、超弱え!
俺が愕然としていると、てんせーちゃんがいなくなった来斗さんは正気に戻ったのか、それとも狂気に目覚めたのか、モンスターを睨みつけながら獲物のメイスを舐めた。
来斗はメイスで気持ち悪い顔のインコを撲殺した!
ロトたちは1の経験値と2ゴールドを手に入れた。
逃げ出したてんせーがこっちを見ている!
はぁ、と。
涙目でこちらを見やるてんせーちゃんを見て俺はため息を付いた。
「来斗さんの手は縛るから戻ってこい」
「「ほんと!?」」
「ほんとだ。あと、なんで来斗さんは喜んでいるんだ」
「はやく縛ってくれ」
ほれほれと、手を差し出す来斗さんに3人がジト目で睨む。
正直なところ、唯一の戦力を無効化するのはツライのだが……。
パーティがパーティとして成立しないので仕方がない。
来斗さんの手を後ろ手に縛った。
その後は来斗さんが役立たずになった代わりに、ニコが攻撃魔法を使ってザコ相手は楽勝。
サクサクとレベルアップして、なんとか昼前に昼食場所の塔の頂上へ。
昼食は不思議なダンジョンに出てきそうな"おおきなパン"と"ほねつきにく"だった。
普段は化学的な要素たっぷりのSFチックな食事に明け暮れている俺達にはごちそうだ。
「足で食べるのは難しいな」
「すまん、手を縛ったままだったな」
両足でパンを挟んでかぶりついてた哀れな来斗さんの両手を自由にした。
すぐにてんせーちゃんにかぶりつこうとしたので、グーで殴った。
「これ以上襲うと、てんせーちゃんにダサい服着せますよ」
「ぐぬぬ」
歯ぎしりして悔しがる来斗さんと、ほっと胸を撫で下ろすてんせーちゃんと、ため息をつくニコ。
てんせーちゃんと来斗さんは相性が良いんだか悪いんだか。
どちらも普段と違う表情を見せる。
来斗さんのおかげでエロいてんせーちゃんが見れたのは嬉しいのだが、ニヤニヤと見とれているだけで明らかにニコの親密度が下がっていくのだ。全く理不尽極まりない。
昼食場所に集まってきた他のパーティは戦士や武闘家が多いようで順調そうだった。
星乃会長とか真姫ちゃんがパーティにいたら楽勝だろうなと思う。
このパーティ、知的なパラメータ高めのはずなのに頼もしさが皆無なんだよな。
「さーて今日の宿は次の町だぞー。推奨レベルは10だ」
修学旅行のしおりを読みながらニコが冷静に告げる。
不安なのは俺だけなのか。
「ところで、俺はあそこから塔を飛び降りるなんて怖くて無理なんだが」
俺は親指で後方を指差した。
塔の頂上からぴゅーんと降りていくパーティ達だ。
俺もゲームならそうするんだが、ゲームじゃないのでガチで高い。怖すぎる。
「わかった、先頭は変わってやるぞー」
ニコが無い胸を叩いて任せろというポーズをとるが、そういうことじゃねえ。
パーティのメンバーは問答無用で先頭の後をついていくのだ、怖い、怖すぎる。
「じゃ、行くぞー」
「ぎゃー!」
マンションの10階から飛び降り自殺でもしているかのような体験だった。
来斗さんもてんせーちゃんも何故か平気らしい。なんで?
実際、地面にはシュタッと無傷で着地できるのだが。なんで?
そのまま次の町に向かうとモンスターに遭遇。
ラブリーなワラビーが現れた。
あ、やべえ。
先頭がニコじゃん。
ラブリーなワラビーはニコを攻撃!
つうこんのいちげき!
ニコは倒れた。
ああああ!?
俺は僧侶の方を向くが、ムリムリと手を振られる。レベル5だしな……。
てんせーはセクシービームを放った!
ラブリーなワラビーを倒した。
つ、強い……。
なんでコレで倒せるのかよくわからんが、強い。
しかし困ったな、ニコをどうしよう。
一旦最初の町に戻るか?
そんな時間ないよなあ……。
俺たちは棺桶を引きずりながら、5時間後に次の町についた。
教会でニコを蘇生させる。
「よ、よう」
「いてて……あれ? なんかもう暗くない?」
「夜飯の時間だ、宿へ行こう」
「私はお昼ご飯食べたばっかだよっ! わーん!」
ニコはご機嫌を損ねた!
宿に到着し、夕食が運び込まれてもニコはむっつりとしたままだった。
夜ご飯を指でつついているニコを見ながら、俺と来斗さんとてんせーちゃんは顔を見合わせる。
なんか機嫌がよくなるようなことを言ってくれ、と俺は目配せした。
来斗さんがよし、任せろ、と握りこぶしを見せる。頼むぞ。
「そういえば、さっきモンスターがドロップした"あぶないみずぎ"っていうアイテム、ニコさんにも似合いそうですよねー? 明日着ませんか?」
「……にも?」
「私とてんせーちゃんはもう着たんです」
「ほほう……」
ニコがギロリと俺を睨む。
慌てて釈明を試みる俺。
「いや、だって棺桶開けて着せるわけにもいかないだろ?」
「アホかー!? そういう意味じゃねーわ!」
ニコはますます機嫌を損ねた。
来斗さんがフォローしようとする。
「大丈夫ですよ、私があぶないみずぎを着ても、ロトさんはレイプしてきませんでしたから」
「その心配もしてねー! 来斗さんは普通に心配!」
ニコは両手を上げて不満を爆発させている。
頼む、てんせーちゃん!
らじゃー、と敬礼のポーズのてんせーちゃんに期待するぜ。
「あぶないみずぎは胸が小さくてもちゃんとフィットする魔法のアイテムだからニコちゃんでも大丈夫!」
「うるせー! お前ら嫌い!」
俺たち3人共が親密度ダウンしてしまった。
「参ったな、どうしよう」
「3人でニコさんの機嫌を治そう作戦会議しましょう」
「そうしませう」
俺たちがわいわいと作戦を立てているのを見やるニコは、ますます不機嫌だった。
修学旅行後編に続く




