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異世界メモリアル【2周目 第28話】


お、おかしい。


2年生になったのに、彼女が登場する気配がない。


初めて出会った階段で、俺は10分ほど立ち尽くしたが日陰でうずくまる後輩は登場しなかった。

あの出会いイベントのときのやりとり、超楽しかったのに。

もう一度出来たときはもっとうまくやろうと思って画策してたのに。


1周目と違う出会いイベントなのかと思い、1年生の廊下をうろうろするが、ひそひそと後ろ指を指されて撤退。


舞衣に聞いても誰それ?と、本当なのか芝居なのか分からない返事。

「世界はそれを恋と呼ぶんだぜ」とかドヤ顔してた影響もあるんだぞ、と突っ込みたかった。


俺の知る限りでは一番この世界に詳しい、星乃会長もそんな生徒は知らないと一蹴。


――なぜだ。


困ったときは、ボランティア部に相談だ。


「実羽さん、江井愛(えいあい)って覚えてるよね?」

「はい、あの自立式人工知能の後輩さんですよね。ロトさんのタイプの」

「うっ!? 俺のタイプの……?」

「ええ、いっつもイチャイチャイチャイチャしてましたよね」

「あ、そう? そう見えた? 喧嘩してたような気もするけど?」


ギロリ、と俺を見る目が鋭くなった。

声もやたらトゲトゲしい気がするし、実羽さんは今日機嫌が悪いのかもしれない。


「で、あのロボッ娘がどうしたんです? ニコさんじゃなくて彼女を攻略したいんですか? それともハーレムエンド?」


声が低い。

明らかに苛ついている。


あっれー……?

まさか俺に怒ってるのかなー?

胸に手を当ててみるが、心当たりは全く無い。


「いやー、あいつが出てこないのが気になるっつーか、なんつーか」

「ふーん、そうですか。彼女可愛いですしね」

「まあ、そうなんだよ。なんだかんだ言ってもあいつ可愛いんだよな」


目を閉じて思い出される彼女は、いつも俺をからかうような表情だけどいつも笑顔で。

無邪気なのか、邪気そのものなのかわからないけど楽しそうで。

少し思い出すだけでも顔がほころぶ。


チッ


「え? 今舌打ちした?」

「……なんのことでしょう」


こんなに怖い笑顔を俺は見たことがない。

よくわからないが、実羽さんを失ったら俺は孤独になってしまう。

ここはもう謝り倒そう。


「ごめん」

「何がですか」

「俺は実羽さんが本当に良い人だからって甘えすぎてるってわかってるんだ」

「……」

「もともとは実羽さんのことは苦手だったんだよ」

「あー、なんとなくそんな気もしてました」

「うん、俺って本当に綺麗な人相手だと緊張しちゃうタイプだからさ」

「――え?」

「あいちゃんとかてんせーちゃんみたいなタイプは親しみやすいけどさ」

「ほ?」

「だから今は距離が近づいたと思って浮かれてたんだよね、ごめん、親しき仲にも礼儀ありだよね」

「親しい仲?」

「うん、あ、俺はそう思ってるんだけど」

「本当に綺麗な人?」

「あー、ごめん、本当に実羽さん相手だと本音がダダ漏れで恥ずかしいよ」


ほんとごめんと、頭を下げる。

実羽さんは脚を組んで、長い髪を手で払うと、キリッとした目つき。

う~ん、美人だけどちょっと怖いんだよな~。

やっぱ苦手だぜ。


江井愛(えいあい)さんって開発されたばっかりだったわよね」

「え!?」

「なんで出てこないのか、開発元に問い合わせましょう」


実羽さんが、突然頼もしくなった!

誠心誠意謝るということは大事なことなんだね!


「もしもし?」


気づいたらボランティア部のトランシーバーでもう調査をはじめている!?

なんという行動力なんだ! 

こんな頼もしい人、絶対次のプレイでも味方につけるしかない。

俺は心に決めた。


「なるほど、そうなんですね、わかりました、ありがとうございます」


数人と会話を終え、トランシーバーを置いた実羽さんは、すっくと立ち上がる。


「結論から言うとまだAIは開発中だそうです」


そうそう、江井愛はこの学校での呼称で、開発元では単にAIと呼ばれていた。


「ラテスラ社の支援金がもっと多ければ完成していたとか」

「ニコの親の会社が何か関係しているということか……?」

「私が推察するに~」


指を額にとんとんと当てながら、うろうろと歩きつつ話し始める。

サスペンスドラマの探偵役みたいだ。


「登場キャラクターの条件があるのでしょう。私にも同時に出てこないキャラというのが居ます。ヴァンパイアとヴァンパイア・ハンターとか」


顎をさすりつつ、推理を披露する実羽さん。

どうやら天敵のイケメン同士の殺し合いイベントは実装されていないらしい。

クリスマスに見かけたヴァンパイアだったら、俺も退治したいけどな。あいつ嫌い。

「つ、ま、り」と言いながら、立ち止まった彼女は椅子に座る俺の目前に、人差し指を突きつける。


「ニコと江井愛は同時には出ないキャラクターなのかも」

「なるほど! そういうことか」


俺はポンと手と打った。


「ニコがこの学校に来ないと、江井愛を開発する資金がラテスラ社から出るというような因果でしょうか」

「うんうん、そういうことあるよな」


一度クリアしてからじゃないと出ないキャラクターとか。

出会ってるキャラクターが少ないときにしか出ないキャラクターとか。

そういう出会い条件があることは珍しくない。


ということであれば、もう腹は決まった。


明日から理数系の勉強だ!



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