異世界メモリアル【2周目 第25話】
冬休みに入り、年末のヒーローショーバイトは大晦日まで続き、正月を迎えた。
元日は1周目同様に、神社へと向かう。
一緒に初詣に行こうと家まで訪ねてくれるほど親密度の高い女性は、今回も居ないようだった。
全身タイツと違って温かいなあとダウンジャケットに感謝しつつ境内に入ると、早くもエンカウント。
「やあやあ、ことよろ」
一週間前にタイムリープしたのかと思うほど、似たような光景が再現されていた。
「てんせーちゃん、クリスマスパーティーならわかるんだけど、神社できぐるみは変じゃないか?」
顔だけを出した大型のぬいぐるみ姿で挨拶をする彼女は、物凄く目立っていた。
夢の国の住人のように、母親が小さな子供ときぐるみてんせーちゃんとの写真を撮ったりしている。
「いやいや、これ今年の干支だし」
きぐるみ姿でくるりと一回転するてんせーちゃんはラブリーではあるが、どうみてもトナカイ。
「干支にトナカイなんていません」
「鹿ですけど」
「干支に鹿なんていません」
「いや、今年は鹿ですけど」
「え? マジ?」
「マジマジ」
蹄を上下にぶんぶんとさせて、マジだよをアピールしている。
この世界、突然変なところで世界設定が日本と異なるの何なの?
クリスマスとかバレンタインは普通なのに、なんで干支の設定は変えるんだよ。
「そうか、鹿なのか……」
「いやいやいや、嘘だよ~!? 信じるかな普通」
嘘かよ!
異世界転生者を騙すのはやめろ!
嘘を嘘とわからない情弱な存在なんだこっちは!
などと言えるわけもなく、むっと睨む。
てんせーちゃんは、ぺろっと舌を出しつつ、
「単に気に入っただけだよ、画材買うときもコレで行くし」
「気に入りすぎだろ……」
呆れているとてんせーちゃんは、カメラを持った小さな子供のいる家族に呼ばれていった。
うろうろしていると見覚えのあるアクションゲームみたいな光景を見つけた。
去年、というか前回のプレイでやった火渡りだ。
星乃会長がゲームの超絶攻略動画みたいにクリアしている。
……今回は俺はやらなくていいや、真姫ちゃんもいないし。
賽銭箱に近づいていくと、振り袖を着た背の低い外国人……ニコ・ラテスラを発見した。
「ん? なんだロトか。言っとくけど七五三じゃないからな」
彼女の自虐的なジョークは笑えなかった。
確かに赤や橙や金で装飾されてる和装なので、そう見えなくもないかもしれないが、いくら小さいと言っても135cmはあるわけで、流石に7歳には見えない。
日本人離れした白い肌と綺麗な銀色の髪は、派手な和装にマッチしていて、広告に使ったらどうかと思うほどだ。
「そんなこと思ってないよ、可愛いよ」
「げっ!? なんだこいつ気持ち悪ー!」
そこまで言わんでもいいだろうに。
完全に飲み友達扱いで、恋愛フラグがぽっきり折られてるな。
ま、いいか……。正直可愛いとはいっても、子供にしか見えないし。
「ロトさん、ニコさんと仲がいいんですね」
「ん?」
振り返るとそこにはまた和装の美人が。
和装は和装でも……
「あのー、それ花魁ですよね……」
「そうだよ?」
かろうじて肩は隠されているものの鎖骨や胸元は大胆に露出。
真冬だというのに、膝から下も無防備にさらけ出されている。
なぜ神聖な場所で、そんな遊女の格好をするのか。
いや、なぜかは聞く必要がないか……。
「レイプしたくなりましたか?」
そういうことですよねー。
いや、本当にやめたほうがいいぞ、マジで。
「ロト……」
気づいたら、ニコが変質者を見る目で俺を睨んでいた。
まさか、俺が普段から「レイプしたい」って言いまくってると判断したとか?
いかん、確実に通報されてしまう。
「違う違う、これは挨拶みたいなもんなんだって」
「そんな挨拶があるかー! 馬鹿かお前はー!」
「いや、俺も全く同じ意見なんだけどな」
なんと言ったらいいものか。
うまく説明できる気がしない。
「こいつ親からレイプされたいんだってよ」なんて元日から神社で言うわけもない。
いや、時間や場所の問題じゃなく小学生のような見た目の女の子にそんな話はできないけれども……。
そんなやりとりをふふ、と笑いながら余裕の態度で眺める来斗さん。
どうみても微笑ましい会話じゃないと思うんだが。
ニコは来斗さんと全く逆の表情で、余裕無く俺を睨む。
「大体、ロトの目つきがイヤラシすぎ」
「うっ、そうか?」
「そう。私とは全然違う」
そりゃ、そうだろう……。
「そりゃそうだろ、ド貧乳チビが、調子に乗ってんじゃねえぞクソガキって思ったでしょ」
「そこまで思ってねえよ!」
「フン、そこまでってことはちょっとは思ったんじゃんか」
むう。
俺は口をへの字にした。
エロくないとは思ってるだけで、可愛くて好ましい友人だと思ってるってのに。
「ほんとだったら、私だってなー」
少し下を向いて、胸を抑えるニコ。
瞳は少し潤み、頼りなげに、切なさそうに唇を噛みしめていた。
ううっ、そういう表情でそういう顔をされると困る。
これは愛情じゃねえ、同情だ。
どうしても不憫に思わざるを得ない。
どう転んだって、来斗さんほどはエロくならねえよ、とも言いきれない。
実際、一度だけ彼女が実験で少し大きくなったときは、自分でも信じられないほど興奮したのだ。
「わーった、わーったよ。俺が神様にお祈りしてやんよ」
「何を」
「変な薬の影響が無くなって、本来の姿に戻りますようにって」
「へ、へー。そうなったら、嬉しいんだ?」
「あ? ああ、そうだな」
親のビジネスのために子供が酷い目にあうなんて許せないからな。
ニコは何やら機嫌が治ったのか、子供らしい笑顔を浮かべていた。
ったく、おそらくこの世界でも学力向上を願えば本当に上がるであろう貴重な願い事だぞ、感謝しろ。
俺は、神様に本気で祈る。
「その願い、叶えてしんぜよう」という声も聞こえないし、なんだかその気にもなってこないが。
隣にいるご機嫌なちびっ子を見ながら、祈ってよかったと思ったのだった。




