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異世界メモリアル【2周目 第24話】


無事に期末試験が終了し、今日はクリスマスイブ。

1周目では料理部としてクリスマスパーティーの裏方で参加したが、今回はゲストだ。

招待状を受けて、星乃さんの邸宅にやってきた。

容姿が低くて門前払いということはないし、ドレスコードをチェックする係の男から熱っぽい視線を受けることもなかった。


「よく来てくれた、ロト副会長ー!」

「お招き有難うございます、星乃会長ー!」


ビシ、ガシ、ビシ、ガシ、ビシ、ガシ。


手と肘を当てて最後に握手する、俺たちの挨拶。


攻略対象から外れた星乃会長は、朋友というべき関係になっていた。

尊敬する先輩であり、生徒会の仲間であり、秘密を共有するかけがえのない存在だ。


沙羅さんとかも会場にいるのだが、挨拶をすることはかなわない。

神の見えざる手というのだろうか、出会いイベントをこなしていないとどうしてもコンタクト出来ないのだ。

今回のプレイでは沙羅さんとは出会うことはないんだろうな。

真姫ちゃんもチャイナドレスで参加しているのが遠目にわかる。

髪はお団子にしておりセクシーというよりは、巨乳カンフー娘といった印象だ。

似合ってるし、可愛いけど、その感想は伝えられることはない。

なに、いつか言える日が来るさ。

次のプレイがあるとわかってから俺の考え方は一変している。


「ロトさん、来てたんですね」


ぼーっと考え込んでいた俺に話しかけてくれたのは実羽さんだ。

なんと、いわゆるひとつのサンタ服である。


「ど、どうしたの、サンタコスなんて」

「ああ、ボランティアでカソリック系の児童養護施設に行ったんです、そのときの衣装で」


ええ、児童養護施設でこれは……その……。

刺激が強すぎないか?

赤地に白いファーといういかにもなサンタ服ではあるが、膝まであるロングブーツとタイトなミニスカに挟まれた生脚と、ばっくりと開いた胸元がセクシー過ぎる。

俺の目は胸部と太腿を行ったり来たり、眼球を鍛えるトレーニングでもしているかのように激しく動いていた。

明るいロングの茶髪と相まって、もうかわいいとか綺麗とかいうレベルじゃない。

エロい。

そんな感想を相手に伝える前に。


「おいおい、そろそろ俺様に血を吸わせろよ」


なにやら金髪で犬歯が尖ったイケメンが登場。

吸血鬼なんだろうなあ。

実羽さんの肩を自然に掴んでいる。これがイケメンか。


「フッ……クリスマス・イブを過ごすのは3000年振りか……」


思わせぶりな長い髪のイケメンもやってきた。

腕には包帯を巻き、手には指空きグローブと、中二病っぽさ満載だ。

大体、キリストが生まれる前からクリスマスイブってあったのか?

イタイ感じもなくはないが、そこは圧倒的なビジュアルでなんとかなっている。


二人のイケメンに囲まれて、イケメンだらけの集団の方に連れて行かれる実羽さん。

彼女のプレイしている世界はスゲエなあ、あれが乙女ゲーか。

助けを求めるように俺の方を見ているが、気の所為だろう。

俺は親指を立てて、彼女を見送った。彼女はなぜか肩を落として去っていった。


入れ替わるように、妙な格好の物体が近づいてくる。


「やあやあ、めりくり」


片手、いや蹄をあげて挨拶してきたトナカイは、どうやら画領天星(がりょうてんせい)、すなわちてんせーちゃんのようだ。


「な、なにその格好」

「いやーせっかくのクリスマスパーティーですから、やっぱりトナカイでしょー」


顔以外をすっぽりとつつむヌイグルミスタイルで、せっかくのナイスバディを台無しにしていた。


「まぁ、似合うっちゃ似合うんだが」

「うむうむ、そうだろう、そうだろう」


腕を組もうとするが、腕が短すぎて組めないところも可愛いっちゃ可愛いんだが。

こういう残念な部分が多いところがてんせーちゃんの魅力ではある。

てんせーちゃんは人気者なのか、誰かに呼ばれて去っていった。

すると、聞き覚えのある声が近くから聞こえた。


「なんだよー、シャンパンは飲めないのかよー! じゃあいいよキール・ロワイヤルで」


飲み物を配っているボーイにクダを巻いているチビっ子を発見。

俺達が飲んでいい酒は低アルコールのものだけであり、シャンパンは17歳になるまで飲めない。

キール・ロワイヤルはシャンパンを使ったカクテルで、アルコールを弱めている。


「俺にも同じものをお願いします」

「おっ、来たなロト」


いつの間にか呼び捨てされる仲になっていたようだ。

シャンパングラスを傾け、乾杯の挨拶をする。

シャンパングラスは薄いので、ビールジョッキと違ってぶつけたりはしない。

この世界に来てから酒の知識がついていくな……。

なんせ料理は生前と丸っきり異なるし1周目と2周目でも違うのだが、水と酒だけは普遍なのだ。


キール・ロワイヤルを口につけるニコは、いつもと違いとても大人っぽく……なんてことはない。

肩まで出したシックな黒のパーティードレスにハイヒールという出で立ちでも、セクシーさゼロ。

美少女が大人に憧れてコスプレしている、というのは言い過ぎか。

アカデミー賞の授賞式に子役が出ている、くらいが妥当だろう。


「どうだ、美しすぎて声も出ないか」

「ま、まあな」


彼女の容姿が薬の実験による影響というのを知ってから、軽口が叩けなくなってしまった。


「あぁ~~! 美しすぎるレディー! 私と踊っていただけますぇんか~」


赤いバラの花を一本つまみながら、騒々しく現れたロリコンこと義朝(よしとも)

ビシッとした白のタキシード姿だが、俺には変態にしか見えない。


「よかったな、お前の美貌を理解できる男がやってきたぞ」

「うう……」


露骨に嫌な顔をするニコ。

やっぱりロリコンは気持ちが悪いのだろう。

だが、俺はこの機会を使ってクールに去るぜ。


「あ、来斗さん、……エッ!?」


来斗述(らいとのべる)の服装は肩まで出したシックな黒のパーティードレスにハイヒール……つまりニコとほとんど同じだった。

ところが、印象は何もかも違う。

首と肩、胸元まで開いた乳白色の肌はあまりにも艷やかで、高校生とは思えない色気を放っている。

露出の大きな背中も、ヒールで長く見える脚も。

とにかく、扇情的であった。

絶句して、ツバを飲み、目は魔法で操られているかのようにただひたすらに射抜くように動く。

実羽さんもエロかったが、それは冷静に考えてエロいレベルで、これはもう平常心ではいられないレベルのエロさだ。

来斗さんはサキュバスなんじゃないかと思ってしまうほどにエロかった。


「あっ、ロトさん、あ」


どうしたらそうなるのか、俺の方に向かって近づいてきたはずなのに、スカートの中が俺だけに見えるようにコケた。

わざとだとしてもミラクルすぎて、俺のゲームシステムがToLOVEってるんじゃないかと疑う。

すぐに体勢を整えるが、今の一瞬の光景はもう一生忘れないだろう。

これが漫画の世界だったら、俺は自分の体積を上回るほどの血液を鼻から出して倒れてるね。


「見られちゃいましたね」


彼女は抑揚のない事務的な言い方で、ぱんつを見られた男子に対する女子の恥じらいなど全く無かった。

目にも頬の筋肉からも、表情が読み取れない。

わざとだったのかどうか、尚更わからなくなる。

これがあいちゃんやてんせーちゃんだったら、わかりやすくからかってくるだろうに。


「はい、そろそろプレゼント交換を行いますので、こちらにお集まりください」


マイクを持ったタキシードの男の司会の声に救われた。

俺は今、来斗さんに普通に会話をする自信など無い。


プレゼントは箱の状態で、全員で手渡していき、音楽が止まったときに持っていたものがその人のプレゼントとなる。こんなところまであのゲームと同じなのかと感心を通り越して呆れる。


俺が用意したのはバスローブ。舞衣の3択から選んだものだ。

俺のプレゼントの箱はどうやら、ニコが受け取った模様。

さっそく開けて、羽織ってみるニコ。

よろこんでくれるだろうかと思ってみていたが、残念なことにぶかぶかすぎて、手は袖から出ず、裾は床についていた。

微妙な表情のニコ。

そりゃそうだな……。


「うおー! だぼだぼバスローブきたぁー!」


大興奮の義朝。お前を喜ばすために用意したのではない。

微妙だった顔が、苦渋に変わるニコ。

そりゃそうだな……。

俺は送り主だということを黙っておくことに決めた。


気を取り直して、自分の箱を開けよう。

お、これはハンカチかな?

綺麗なレースがいっぱいでピンクと白の可愛らしくも品のある、光沢があってすべすべとした……ん?

広げて見て、すぐにそれをポケットにしまった。

なぜだ。

これは明らかに、ぱんつ。女性用のぱんつだ。

しかも、ものすごく見覚えのある。

一生忘れることはないもので、ついさっき見たものだから間違えようもない。

鼻の根元の目頭をもみながら、ゆっくりと息を吐く。


なぜ俺のポケットに、来斗さんがさっき履いていたぱんつが入っているんだ――。


極力目を眇めて、目線を誤魔化しつつ、来斗さんを見やると、ばっちり目が合った。

ふ、と笑って、来斗さんは2階へ上がる階段へ。

か、階段!?

今、彼女は絶対にスカートの中を人に見られるわけにはいかない状態なのでは!?

俺はその日、彼女の尻を守る騎士(ナイト)になった。


帰宅して「クリスマスプレゼントなんだった?」と聞いてきた妹に俺は下手くそな口笛を吹いたのだった。


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