異世界メモリアル【2周目 第20話】
「どうです、会長。美しいですよね、私達」
文化祭当日。
俺はご満悦で、会長を迎えていた。
美術部の展示を見ながら、俺の台詞を聞いた星乃会長はなぜか口をヒクつかせている。
「これは君ではなく、てんせーちゃんが描いたんだな?!」
「勿論です、会長」
「この美少女が私なのか?!」
「勿論です、会長」
「こっちは君ということなのか?」
「勿論です、会長」
「なんで君が女の子になってるのだ!?」
全くわからないと言わんばかりに、かぶりを振る会長。
おかしいな、聡明な星乃会長がこんな簡単なこともわからないとは。
「まず男性の俺よりも、女性の俺のほうが美しい。ここまではいいですよね?」
「いいかと聞かれると非常に困るのだが、理解は可能だ!」
眉根を寄せた状態でも、ハキハキとした物言いをするお人だった。
「美しいものと美しいものが合わさると、美しさは飛躍的に上昇する。こちらも良いでしょうか」
「ん、まぁわからんではない!」
多少困惑していても、理解を示す器の大きい星乃会長。
「そして女性同士の恋愛ほど美しいものはない。そういうことです」
「それは全くわからないぞ!?」
腕を組んで頷きながら言う俺に、正気を疑うように問い詰める星乃会長。
おかしいな、聡明な星乃会長がこんな簡単なこともわからないとは。(二度目)
「あんちゃん、どきな。そんなんじゃ伝わらないよ」
「て、てんせーちゃん」
俺の力不足を見かねたのか、てんせーちゃんが俺の肩を押して星乃会長の前に出る。
「いいですか、会長。この世で一番美しいものは愛です。この世で一番醜いものが欲です。男女の恋愛というのは性欲と切っても切れない関係。それゆえに愛があっても、不純物が混じるのですよ。親子愛ですら、種の保存という欲から来るものなのです。ところが、同性愛というのはそういった欲とは無関係! ただただ、愛し合っているだけ。これほど尊いことがあるでしょうかっ!? 否、無い!」
すらすらと語るてんせーちゃんが、言い切って握りこぶしを捧げたところで、俺は全力で拍手を贈った。
「さすが、てんせーちゃんですわ! 素晴らしいですわ~!」
「ふふふ、ともよちゃん有難う」
がっちりと握手を交わす俺たちを会長は、なんとも言えない表情で見つめていた。
この名演説が響かないだと?
馬鹿な、会長は愛の人だったはず。
「星乃会長、会長は一年生全員を愛しているのではなかったのですか!?」
「あ、愛しているとも!」
「であれば、女性化した私のことも愛してくれるのではないのですか!?」
「ふ、副会長、自分が何を言っているのか、理解しているのか!?」
「お慕いしておりますっ!」
会長の手を取り、上目遣いに見つめる俺。
「見える、見えるぞっ! ロト君は今、見た目は男だが心は乙女! 会長を慕う女副会長に成り切っているッ!」
目を輝かせるてんせーちゃんと、目から輝きが消える星乃会長。
「まさか、この学校を女子校に変えるとか言い出さないよな!?」
「何を言ってるんですか、会長! そうしたら俺がいられないじゃないですか」
「突然まともなことを言い出すなよ!?」
「俺はずっとまともですよ!?」
俺の手を振りほどき、ハアーッととても大きなため息をついた星乃会長は、腰に両手を当てる。
「君がプレイしているのはいつから百合ゲーになったのだ。ギャルゲーじゃなかったのかっ!?」
ガァ――――――――――ン!
そうだったァ――――――――!
って、ちょっと待て。
なぜ会長はそんなことを知っているんだ。
てんせーちゃんは星乃会長の叫びに困惑し、頭からクエスチョンマークを出している。
俺は会長に小声で話しかける。
「会長、会長は一体どこまでご存知なんです?」
「おっと、つい口を滑らせた!」
とんだドジっ子だった。
つい口を滑らせたにしては、廊下にまで聞こえる声量だったぞ。
俺は会長の耳に口を寄せる。
「この話は、ここではマズいです」
「わかった、一緒に文化祭を回りながら話そう!」
俺はてんせーちゃんに美術部の展示を任せて、会長と二人、文化祭に繰り出した。
「正直なところ、君が会長になるまでは秘密のつもりだったのだが!」
メイド喫茶に入り、運ばれてきたクリームソーダのアイスを長いスプーンでつっ突きながら会長が話を始めた。
俺は”メイドさんが踏んで作ったうどん”を啜る。
メイドさんの体重が軽いからか、コシがあまり無い。
彼女は口から垂れた白と緑の混ざった液体を、ぺろりと舐めて、
「私が知る限りのこの世界のことを話してやろう!」
と。
実羽さん以来となる、この世界の情報を得ることに成功した。
星乃会長はやはり転生者で、何度もこのゲームのような世界をプレイしているらしい。
生前は幼稚園ですでに神童と呼ばれ、末は指揮者か、金メダリストか、大統領かと。
将来を期待されていたが、私立の名門小学校を受験する際に遅刻しそうになって急いでいた自動車が事故を起こして亡くなったと。
両親は子供の将来の可能性を潰してしまったことと、才能ではなく子供に純粋な愛を注げなかったことを悔やんだ。
その願いを聞きながら息を引き取った星乃煌は転生し、無限の可能性を試すゲームが始まった。
サポートキャラは無数に存在する人生経験の何を体験したか、そして誰を愛し、愛されているかを知らせてくれるという。
星乃会長は何度も人生をやり直しており、たくさんの転生者に会っている。
そしてわかったことが、この世界は死に際の願いが、叶えられるようになっているのだと。
病気や怪我で亡くなっている転生者は、アクションゲーム。
野球選手に憧れて亡くなった転生者は、野球ゲーム。
そして、悪いことばっかりして善人に憧れた実羽さんは、善行を積むゲーム。
「おそらく、君はゲーム中に交通事故にあった後、恋を知らずに死んだことを残念に思ったのだろう!?」
さくらんぼの種を吐き出して、こともなげにそう言った。
そうだ、そうだった。
星乃会長は、メイドに手を挙げてチェックを要求する。
これは視察だから生徒会の予算で払うと、俺が財布を出すのを止めた。
「次は、体育館に付き合ってくれ!」
俺は黙って首肯した。




