表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

62/364

異世界メモリアル【2周目 第19話】


どうしたものかな。

会長が実羽さんや俺と同じ転生者ならば。

もっと聞きたいことが山程あるのだが。


しかし、現在の俺は美術部に参加している。

もうすぐ文化祭のため部活動参加が義務付けられており、生徒会には行けないのだ。


「ちょ!? それってまさか会長!?」

「お? おう!?」


俺は無意識のうちに会長を描いていた。

昔のテレビゲームのような、四角だけで描くドット絵だが、我ながら特徴を捉えている。

まさにアイコンみたいだ。


「なかなかやりますなあ、副会長様は」


そう言って肘で俺を小突いてくるのは勿論、てんせーちゃんだ。

副会長なんて呼んでくるが、生徒会に入れたのはお前のおかげだとは、口がひん曲がっても言うことはないだろう。

妄想の設定で、勝手に俺を男色家にしやがって。

未だに俺から逃げようとする男がいるんだぞ。

義朝からも距離を置かれているが、おれもあいつとは少し距離を置きたいので丁度いい。


「実は私も会長を描いていたり」

「ほう?」


てんせーちゃんが女性を描くとは珍しい。

ひょいっと、彼女が向き合っていたキャンバスを見やる。


うん……確かに、会長に似ている。

似ているが。


「なんか男っぽくね?」

「そりゃ男性化させてますから」

「なんで!?」

「愚問ですねえ、副会長とラブラブするためですよ」

「なんで!?」

「え? 会長×副会長なんて王道じゃないですか」

「会長を男にする必要ある!?」


俺がそう言うと、きょとんとした顔になる。

俺は変なことを言った覚えは一つもないのだが。


「副会長を女にしてほしいってことですか?」

「ちっげーよ!?」


なんなの? 同性愛以外は認めないの?

ギャルゲーのヒロインとしては致命的だよ?


「いや、しかし、ふむ。その発想はなかったですね」


そう言いながら、俺を至近距離で舐め回すように、観察し始める。


「言われてみれば肌も綺麗ですし」


そりゃ、毎日たっぷり半身浴した後に化粧水してるしな。


「手足も長いし」


ヨガとピラティスで鍛えているからな。


ふむふむと、顎をさすりながら、くるくると俺の周りを歩く。

至近距離でじろじろと見られて、流石に恥ずかしい。

赤面する俺の前で、満面の笑みで思わせぶりに立ち止まる。

そして、てんせーちゃんは、ぴ、と人差し指を立てて俺の目鼻の先に出して言う。


「よし、女体化しましょう」

「だから、なんで!?」


俺が容姿パラメータを頑張って上げているのは、そんなことのためじゃない!


「いよ~し、やってやんよ~」


舌をぺろりと端から出し、腕を捲りあげてやる気満々のてんせーちゃんを見て俺は嘆息する。

何を言っても無駄だろう。

てんせーちゃんの事は放っておくことにして、部活動に精を出すことにする。

2時間ほどかけて、無意識に描いていた会長のドット絵を仕上げた。

ふぅ、と一息ついて、てんせーちゃんの様子を伺うことにした。


「え……?」


そこには、バックに白い百合の花を背負い、手に手を取って熱っぽい表情で見つめ合う美少女が二人。

一人は紛れもなく、星乃会長だ。似ているし、美しい。

この、もうひとりの美少女は……まさか?


「あ、どう? これ、ロト子さんだけど」


えっ!? やだ、私って美人すぎ……!?


「どうやら満更でもないみたいだねえ~?」


両手で口を抑えて目を見開いている俺を見て、てんせーちゃんは満足そうに頷く。

顔は俺にちゃんと似ているにもかかわらず、きっちり女の子になっている。

髪型もほとんど変わらず、ショートカット美少女だ。

これが俺だというなら。

もしメイクやファッションでこうなれるというなら。

女装に目覚めてしまいそうだ。


「おや、ひょっとして女装したくなっちゃった?」

「い、いやいやいや、そ、そんなわけないだろう」

「くっくっく、動揺しすぎですぞ、ロト美ちゃん」


心底楽しそうに笑う、てんせーちゃん。

悔しいが、ここまで見事に図星を指されると同様せざるを得ない。


「男の娘を一人生んでしまったか……さすがてんせーちゃん、罪深い女」


なにやら天を仰いで悦に入っているが、男の娘になるつもりなんてないからね。


「仕方ない、私の服を貸してあげませう」


そんなことを言いつつ、カバンからワンピースを渡してくる。

ぱっちーんとウインクしながら、


「着ていいよん」


と。

てんせーちゃんに似合いそうなオレンジ色のふわっとしたワンピースを両手に持つ。

着ていいと言うことは……。


「嗅いでいいとは言ってないんだけど!?」


意外にも真っ赤な顔で猛抗議してくる、てんせーちゃん。

着ていいのに、嗅いで駄目なんてことはないだろう。

それにしても良い匂いだ――。


「うっとりと目を閉じるなぁ!?」


馬鹿だなあ、てんせーちゃんは。

視覚を塞ぐことで、より嗅覚に集中できるだろうが。

普段からてんせーちゃんは距離が近いから、匂いはよく嗅いでいた。

薔薇のようなフラワーの要素と、フレッシュな柑橘を思わせる要素を併せ持った香り。

もともと良い匂いだと思っていたが、存分に嗅げる機会が来るとは。

フレグランスや入浴剤として発売してくれないだろうか。

――む。

特にこの辺りは、匂いが強く感じるな。


「ああっ!? 駄目だって言ってるのに胸の部分を集中してクンカクンカですと!? この変態!」


目を><(バッテン)にして抗議してくるが、てんせーちゃんだけには変態と呼ばれたくないぞ。

俺は変態なんかじゃない、むしろ香りのソムリエです。


「もう、返してよ~!」


俺からワンピースを無理やり奪おうとして、顔とワンピースの間に身体を滑り込ませようとしてくる。

全力でクンカクンカしている俺の鼻先に、彼女のうなじがやってきた。

こ、これは――

ワンピースの何倍もの香りの渦が、鼻から脳に洪水のように押し寄せる。

髪から漂うシャンプーのピーチの匂いと、背中の肌から感じるミルキーな匂いと。

衣服の残り香とは比べ物にならない複数の香りが混ざった、濃い香り。

やっぱり生は最高だ。


「ちょ、私を直接嗅いでって意味じゃないから~!?」


ああ、とても良い匂いの人が、美術室から逃げ出していってしまった。


しかし、女の俺は可愛いなあ。

てんせーちゃんの描いた俺と会長の絵を眺める。

彼女が椅子に置き忘れていったハンカチを嗅ぎながら。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ