異世界メモリアル【2周目 第18話】
「よう! 当選おめでとう! これからよろしくな、ロト副会長!」
星乃会長が、バシバシと俺の肩を叩く。
俺は生徒会選挙で役員に選ばれ、最初の生徒会活動で副会長に指名された。
副会長は来年の会長候補なので、1年から選ばれるのが通常ではあるが、まさかの事態に俺は面食らっていた。
星乃会長は、お前がそう望んだからだと言う。
選挙での演説でのこと。
俺はこの学校の人達の中に、自分の力ではどうにもならない、理不尽なことや許せないことがいっぱいあって、それを生徒会に入ってなんとかしたいのだと。世界を変える力を手に入れたいのだと精一杯お願いした。
それを聞いていた星乃会長は、つまり生徒会長になりたいということだなと理解したらしい。
「みんなが好きだから、みんなを喜ばせるために、自分がやりたいように、やる! そういうことだろう?! 私と同じじゃないか!」と。
俺はみんな、つまりこの学校の全員という意味じゃないので、違うと思ったのだが。
会長は悟りきったような表情で、質問してきた。
「じゃあ、君は私が相手だとしてくれないのか?! 特定の誰かだけか!?」
いや、もし星乃会長が親から何かされてたと俺が知ったのなら。
やっぱりどうにかしたいと思うだろう。
俺はそれを伝えると、ならば問題ないと。
会長曰く、それなら同じことらしい。
そう、なのだろうか。
この会長のような崇高な思いがあるとは、俺には思えないのだが。
3年生の現役の副会長からの引き継ぎ事項は何も無かった。
全ては会長が決めるので、副会長として伝えることなどないと。
ただ一言だけ、「太陽が西から昇ると星乃会長が言ったなら、それが真実だ。そう思え」と。
完全に独裁者として扱われていた。
これがカリスマってことか……。
「さて、副会長! 最初の任務を言い渡そう!」
引き継ぎが終わったことを報告すると、会長からそうお達しが。
なんであっても断れないらしいからな、頼むからレイプしろとか言わないで欲しい。
……いや、言うわけがなかった。俺は来斗さんの影響を受けすぎている。
俺は黙って沙汰を待っていた。
会長の口が開き、俺はごくりとツバを飲み込む。
「デートしよう!」
え?
「「ええええええ!?」」
俺を含む会長以外、全員が驚きの声をあげた。
「何を驚くことがある。会長にとって副会長はいわゆる女房役ってやつだ。まずは女房になる相手のことを深く知る必要があるだろう!」
なぜか両腕を腰に当てて、自信満々に言い切る会長。
前副会長が、「私とはデートどころか、ほとんど会話すらしたことないのに」などとつぶやいている。
「ちなみに私はデートというものをしたことがないので、副会長がリードするように!」
「「ええええええ!?」
そういった経緯で、俺は生徒会室で役員たちの見守るなか、デートの約束をする羽目に。
初デートの会長は堂々としたものだが、何度もデートをしてきた俺のほうが周囲の目を気にしておどおどしていた。
その週末。
年上の完全無欠のスーパーヒロインであるところの星乃会長を迎えるにあたり、デート場所をどうするかは非常に悩ましかった。
落語が好きとは聞いているが、いきなり演芸場というのもな。
大体、会話が弾む場所でなければ、お互いのことを深く知るためのデートという今回の意趣から外れる。
そんなわけで今回は繁華街を選んだ。
ウィンドウショッピングとかをすれば趣味嗜好などもわかるのではないかと。
駅前のランドマークで待ち合わせにしていたが、近づいてくと人だかりが出来ている。
そして、その中心からは聞き覚えのある声が。
「ええい、少し離れんか! 私は今から初デートで忙しいのだ!」
間違いない、会長だ。
なにやら囲まれているようだ、目立つ人だからなあ。
急いで、助け出さなければ。
「お前らもしつこいぞ、さっさと諦めろ! かれこれ1時間も……」
「すみません、会長! 結構待ちましたか!?」
「ううん、今来たところ!」
ズコーッ。
周囲に居た人が全員ズッコケた。新喜劇みたいに。
そのおかげで、人混みの中から星乃会長を連れ出すことに成功。
片手を握って、小走りに駆け出す。
「会長、俺のせいですみません、変なやつに絡まれましたか」
「いや! 大丈夫だ!」
会長はなにやら楽しそうに見える。
薔薇のような笑顔が、白い襟の真っ赤なワンピースによく映える。
「そんな目立つ格好するからですよ、とても似合ってますけれど」
「あ、服を褒めてくれた!?」
嬉しそうに親指を立てつつ、「早くも、3つ実績解除とは、いいぞいいぞ……!」と。
ぼそっと会長は独り言のように、そう漏らした。
実績解除?
実績解除というのは、ゲーム用語だ。
そのゲームにおいてどの程度プレイをやりこんだかが分かる指標といったところか。
クリアしても全ての実績を解除しないとそのゲームはコンプリートしたことにはならないといったような。
なぜそんなことを。
俺たちは繁華街で適当にうろつきながら、彼女が興味を持った場所へ入る。
会長は意外というか、デートでは妙に王道、というよりもベタなことを好んだ。
・カラオケでデュエット
・ゲーセンでぬいぐるみを俺が取ってあげる
・試着をした2つの服からどっちがいいか選ぶ
・喫茶店でカップル用ドリンクを二人で飲む(これは俺が恥ずかしかった)
そんな感じで一日を過ごす。
星乃会長は常に、好奇心旺盛で、決断が早く、常に全力で楽しんでいた。
ヘトヘトになるほど疲れるくらい遊んでも、一緒にいると元気になっていく、不思議な人だ。
秋の夕暮れは、シミュレーションゲームの早送りモードのように早く。
あっという間に暗くなっていく。
デートの終わりを告げる前に俺は、質問してみた。
「会長、どうです? 俺のこと何かわかりました?」
「ん? あぁ、そうだったな! 忘れていた!」
笑い飛ばす会長に俺は、がくっと肩を落とす。
「なぁに、問題無い! 今日一日楽しかったのだ、これからもずっと楽しいさ!」
そうか、そうだな。
真夏の太陽のような笑顔を見て、確信した。
俺はどうやら会長の初デートイベントを成功させたらしい。
「私の初デートはかなりのスコアだったぞ!」
そうですか、そうですか、そうだと思いました。
俺は、いいスコアを出せたんですね。
「待ち合わせで今来たところと言う、服を褒められる、手を繋いで走る、デュエットに、服選びに、プライズのぬいぐるみをとってもらう、そしてカップルドリンクと7つも実績解除だ」
あれ、会長が自分でそういうゲーマー感覚でデートイベントをプレイしていた?
それのスコアが良かったという話なの?
……ん?
いや、これ比喩じゃないんじゃないか?
「私のゲームプレイをこれからも手伝ってくれ、副会長!」
ひょっとして、会長も。
会長も転生者なのか?




