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異世界メモリアル【2周目 第15話】


「次孔さん、俺と競馬場に行きませんか」


これほどデートの誘いに自信があったことはない。


「ええっ!? ロトっち競馬好きなのっ!?」


当然の如く、物凄い食いつきだ。

俺の襟を両手で握り込んで、ぐいぐいと押され、いかにも殴りかかってきそうなほどに気合が入っている。

しかし当たり前だが、目は期待で星空のようにランランと輝き、小さな口は満面の笑みによって大きく開いている。

間近で見下ろす次孔さんは、やっぱり可愛かった。

ただ、やっぱり1周目の記憶はないんだな、と少し寂しい気持ちになった。


あっという間にデートの約束はなされた。

第一レースのパドックから見るということなので、朝が早い早い。


今回は現地で待ち合わせ。

入場口前で、耳に赤鉛筆を乗せて、唇を尖らせながら競馬新聞を睨んでいた。

どこのチームだかわからない野球帽といい、何かのキャンペーンで貰っただろうパーカーといい完全に周囲の中年に溶け込んでいる。

こんな愛らしいおっさんは見たこと無いが。


「よう、お嬢ちゃんどうだい、来そうな大穴あるかい」

「いや~、難しいねえ~」


おじさんと会話している……。


「お待たせ、次孔さん」

「あ、ロトっち待ってたよ」

「ごめんごめん」


入場口に向かう。

今日のような特別大きなレースがない日は入場料は不要だ。


「さっきのおじさん知り合い?」

「あー、知らないけど、たまに見かけるかな」


溶け込みすぎだろ……。

しばらく歩いて、俺たちはパドックに陣取った。

横断幕に見知った競走馬の名前がある。

リセットされている、というのは本当のようだ。

料理の概念などが変わっていても、走る競走馬は同じ、ということか。

これって、かなり有利なんじゃないのか?


「どう? 次孔さん、これだって馬いる?」

「あの子、(`・ω・´)シャキーンとしてるねえ」


ふむ。

ワクワクしながら言ってるところ悪いけど、残念ながらその子は走らないだろう。

調教時のタイムが悪いし、騎手も実力不足だし、あれは気合が入ってるんじゃなくて気性が荒いのだ。

1周目のときに活躍した馬の名前があったのでそれを買う。


――ああ、勝ったな。


「すご~い、ロトっちの予想ズバリじゃん!」


あ、駄目だコレ。

全然嬉しくない。

なんなら、罪悪感すらあって気持ち悪い。

外れた次孔さんの方が断然楽しんでる。

競馬っていうのはギャンブルだけど、つまりゲームだ。

俺はゲームは楽しんだもの勝ちだと思っている。

これはボロ負けだ。

ハメ技で格闘ゲームに勝つようなものだ。

勝っても何も面白くない。

ちょっと凹んだ俺は、つい話を変えたくなって、次孔さんに質問した。


「次孔さんは、どうしてそんなに競馬が好きなの?」


それは気軽な質問のつもりだった。


「競馬はお父さんとの思い出なんだ」


!?

父親の話題になった、だと。

俺は顔面が蒼白になっていくことを感じた。

唇が震え、冷や汗が垂れる。

望比戸さんも、真姫ちゃんも、来斗さんも。

みんな父親は俺が許せない奴らばかりだった。

やはり、やはり次孔さんも……?


「ウチは幼い頃に離婚しててね、お父さんに会えるのは1月に1回だけでさ」


――声が明るい。

これは、父親のことを好ましいと思っているということか?


「動物園に連れてってやるぞーって言うんだけど、ふふふ、いっつもお馬さんしかいないんだもん。お父さんと会う時はいっつも競馬場」


競馬場しか連れてって貰えてないじゃないか!?

月イチの娘と会うのにギャンブルしかしないとかやっぱりロクでもねえ。

と思いつつも次孔さんの顔を伺うと、なんて清々しい笑顔なんだ。

良かった、父親に酷いことをされてなくて。

競馬場だろうとなんだろうと本人が楽しかったんだったら、別に構わない。

俺は胸を撫で下ろす。


「でも、お父さんは本当に楽しそうでね。それが羨ましくて。それと――競馬場に来ていたらまたお父さんに会えるかもって」

「えっ」

「あっ、誤解させたらごめんね、死んだりしてないよ。多分」


多分って――。


「引っ越しちゃったんだよ、私が。今の……お母さんの男の家に」


再度、冷や汗が流れる。


「お母さんは、男の人がいないと駄目な人でさ。私のことはほったらかしでいっつも誰か男の人に夢中なんだよね」


あぁ、母親の方だったか……。

さすがにぶん殴ってやりたいとは思わないが、やはり苦虫を噛み潰したような気持ちだ。


「まぁそれはいいんだ。別に私に被害があるわけでもないし。それに私には競馬があるし、ラジオもあるしね。お父さんがラジオ聞いてくれるかもって思いながらいつもやってるんだー」


あっけらかんと、口笛でも吹きそうなお気楽な表情で言ってのけた。

ラジオのギャラは全部競馬で消えちゃうんだけどね、などと言いながらぴかぴかの笑顔。

くっ。

なんて健気な人なんだ。

そして本当に明るくて元気で、強い。

俺は涙腺が緩み、競馬新聞で顔を隠した。


「さ、次のパドックに行こうか」

「お、おう」


俺は1周目で活躍した覚えのある馬が出ているレースのときは賭けず、純粋に競馬を楽しんだ。

次孔さんは相変わらず全然当たらないが、ずっと楽しそうだった。


最後にお土産屋さんに寄って、俺は最初に裏技で儲けた金を使ってぬいぐるみを買い、次孔さんにプレゼントした。

そのぬいぐるみは1周目に次孔さんが好きだと言っていた競走馬のもの。

なんで私の好きな馬がわかったの、と驚かれる。

これも裏技と言われれば、そうかもしれない。


だが、1周目の知識で次孔さんを笑顔に出来ることは、ズルではない。

少しも嫌な気持ちがしない。

ギャルゲーの正しい2周目のプレイだと、胸を張って言えた。



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