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異世界メモリアル【2周目 第12話】


「週末、飲みに行かないか? 今、ビアガーデンやってるんだ」


俺は小学生のような少女に、おっさんのような台詞をかましていた。


「ビアガーデンって、あの外でビールを飲むっていうアレのことかー!?」

「そのアレのことだ」

「くっ、興味ある」

「なんで悔しそうなんだよ」

「変態の誘いなのは癪だが、付き合ってやろう」

「俺は変態じゃないけどな」


よし、デートの約束を取り付けたぞ。

シーズナルデート、つまり季節感のあるデートの方が誘いやすいので、俺は新聞をしっかりチェックしていた。

中央公園では3月下旬から4月上旬の1ヶ月間は桜が咲いている。あのゲームと同じだな。

この世界の中央公園は7月から9月の間はビアガーデンになるらしい。全年齢版のゲームにはない設定だな。


ニコ・ラテスラがお酒大好きっ子だということは頼朝に聞いていた。

好きな場所だとデートの約束のOKが貰えやすいのも、あのゲームと一緒だ。

まぁそれはゲームに限った話でもないのかもしれないが。

それにしても江井愛や舞衣、そしてニコ。

なぜか酒を飲ませる絵が危険な幼い見た目のやつほど酒を好むという傾向があるな……。


デート当日。

待ち合わせは中央公園入り口で、18時。

日が落ちるのが早くなり始めた9月中旬のマジックアワー。

夕焼けとやってくる闇が混じり合う、天然のグラデーションが周囲を覆っていた。

そんな神秘的で美しい情景の中に、白いエプロンドレスと麦わら帽子という出で立ちで彼女は現れた。

なんという美少女っぷりだ。

清涼飲料水のコマーシャルのような爽やかさだった。


「来てやったぞ―! ニコ様に感謝しろー!」


腕を組んでそう言いながら、膨らみのない胸を反らす。

喋った途端に爽やかさが消えて、駄菓子のコマーシャルになってしまった。


「ニコ様、こちらへどうぞ」


ガキンチョ相手に俺は執事のようにうやうやしく案内する。

こうするのが一番扱いやすいのだ。

手を引こうとすると、手慣れたように指を出してきた。

小さい、ものすごく小さい手だ。

エスコートというより、子供と手を繋いで歩いているみたいになってしまう。

白磁のような肌に、シルバーブロンドの長い髪。

黙っていれば本当にどこかのお姫様のようだと思った。


「「かんぱーい!」」


ビアガーデンの中に入り、ジョッキを持ったらイメージが全部崩れた。

夏休みの小学生がビール飲んでるみたいで、炎上間違いなしのSNS投稿画像のようだ。

そのビールジョッキの代わりに、ひまわりの花束を持たせれば完全無欠のフォトグラフになるだろうに。


ごくごくと喉を鳴らして飲むかと思いきやビールを喉に叩き込むのが下手くそなのか、一旦口に含んでから飲むので、頬がぱんぱんに膨らむ。

どんぐりを頬張るリスのようだ。

その辺にも幼女らしさが現れていて、可愛いんだが、ビールジョッキとのギャップがヤバイ。


「ぷっは―! こりゃたまんねえなー!」


白い泡ヒゲをつけたニコは豪快に笑った。

ホットミルクのヒゲなら可愛かったのにねえ。

そう思いながら、冷たいビールを流し込む。


「こうやって外で飲むっていうのも、乙なもんだねえ」


乙なもんって。

そうだねえ、粋だねえ、なんて思うかよ、おっさんか?


「お前本当に10歳なのか?」

「私は16歳だ! お姉さんだぞ!」


16歳だとしてもおっさん臭すぎるのは間違いないけどな。


定番のおつまみだというMS-1をつまむ。

緑色で四角く小さいが、いい香りがする。

結構固めの枝豆みたいな感じだな。

ビールと枝豆は美味しいと聞いたことがあるが、確かに悪くない。


そよそよと夜になりはじめの風が吹き、ニコの長く伸ばした銀色の髪をなびかせた。

チカチカと付き始めた街灯が、ニコの髪を光らせる。

お酒が入って上機嫌になったのか、力の抜けた笑顔で。

少し酔い始めたのか、頬を少しだけ赤らめて。

うーん、あまりにも美少女なんだが、ビアガーデンが場違いすぎる。

物憂げに浜辺で夕日でも眺めていれば絵になるだろうに。

いや、この場所には俺が誘ったんだけどさ。


ニコは両肘をテーブルにつけて、両手で台をつくって顎を乗せた。


「ビールは好き?」


小首をかしげながら、素朴な問いを投げかけるニコ。

どきり、とした。

少し大人びた表情を見て、以前に薬で一瞬だけ成長したニコの姿がオーバーラップしたのだ。

あのときのニコは、正直なところ美少女だらけのこの世界でも一番可愛いと思った。

一目惚れといっても過言じゃなかった。


「好きになったよ」

「それはよかった」


頬を緩める仕草は、お姉さんのようだった。

見た目は完全に小学生だけど、俺は少し大きくなったときの姿を想像してしまう。


「ビールは美味しいし、風は涼しいし、最高だね? ロト?」

「あ、ああ」


なんだ?

なんかキャラが違くないか?

口調も台詞もさっきまでと大分異なる。

酔うとキャラが変わるっていうのは現実でもあることかもしれないが。

まるで恋愛ドラマのヒロインみたいだぞ。

見た目が10歳で中身が24歳くらいになってる気がする。


「あたしさ~」


あたし?!

女子高生でも言わない一人称のあたし?


「なんか最近、ちょっと疲れちゃって」


OLか!?

完全にOLの愚痴じゃねーか。


「あ、お姉さ~ん、おかわりとMK-2くださーい」


ニコは片手をあげて、通りがかった店員を呼び止めた。

何頼んでるか全然わかんねえけど、注文の仕方が自然すぎるのが見た目とあわなくて不自然だ。

俺は愚痴を聞くため、黙っておく。

こういうときは聞くことにに徹するのが大事だ。


「研究は嫌いじゃないけど、成果がなかなか出ないしね~」

「そうなのか」

「そうなんだ~」


子供のような見た目だが、悩みはマジで大人だった。

天才には天才の悩みがあるのだろう。


「だからついつい毎日お酒飲んじゃうんだけど、ふふ、今日は楽しいお酒だな」

「それはよかった」


本当に良かった。


運ばれてきたMK-2は、子供向けのように甘くて、大人向けのように辛くて。

ニコのような味だと思った。

おかわりのビールを飲み干してうっとりとしたような表情を浮かべた少女は、頬杖を付きながら俺に言った。


「また飲みに誘ってよ?」


友達レベルの親密度を目指していたら、どうやら飲み友達が出来たようだ。



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