異世界メモリアル【2周目 第11話】
舞衣は直接のヒントはくれなかったが、会話からある程度推測できた。
攻略本があるわけじゃないので、絶対大丈夫ということは言えないが、料理以外のステータスがそれなりにあれば、立候補はできるようだ。
応援演説は、親密度が友人レベルになっていればしてくれる、らしい。
よって目下の目標は知りあいの親密度の向上と、ステータスの平均値アップということになる。
9月中旬の現状は以下の通りだ。
【ステータス】
―――――――――――――――――――――――――――――
文系学力 100(+13)
理系学力 106(+17)
運動能力 69(+6)
容姿 65(+5)
芸術 76(+35)
料理 108(+0) 装備+100
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当分は部活で芸術をアップさせつつ、家では運動と容姿を向上させる、だな。
さて親密度だが。
【親密度】
―――――――――――――――――――――――――――――
星乃煌 [1年生のことは全員愛している]
来斗述 [ゲストキャラ]
ニコ・ラテスラ [うさぎの代わりに実験したい]
画領天星 [ロト×スライム]
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全然わかんねえよ。
友人レベルなのかどうかが。
モブキャラからゲストキャラに昇格してることはわかるよ。
わかるが、ゲストキャラって友人なのか?
うさぎの代わりって言われても……。
スライムと掛け合わされても……。
なんでこう分かりづらいのかね。
会長は応援演説なんてしないから、3名となんとか仲良くしたいところだ。
部活に勤しみながら、てんせーちゃんと親密度をあげるスキを探す。
俺は1周目でBL漫画家のアシスタントをしていた経験を活かして、ラブラブな男子同士を描くとてんせーちゃんが喜ぶとは思ったが、精神的にキツイので止めた。
料理のときもそうだが、やはり前世の記憶をうまく使うのがコツだと思う。
ゲーマーの俺は昔のゲーム、いわゆるレトロゲームも好きだった。
そこで描いたのが、ドット絵だ。
わざと大きめの四角を使って絵を描き、遠くから見たら絵に見える。
この世界にはテレビゲームがないので、珍しがられた。
これで、てんせーちゃんの評価は上がるか……?
そんなことを考えていたら、部室のドアがガラッと開いて、元気な女の子が入ってきた。
「ちわーっす! 新聞部でーす! 噂の絵描きはキミっすか!?」
――次孔さんだ! 次孔さんがやってきたぞ!
相変わらずテンションが高く、快活な笑顔。
背はやや低めで、胸はまだ育っていない。
好奇心に満ち満ちた目をしている。
髪は茶髪のセミロングで、左のもみあげのところに音符の髪留めがついていた。
紛れもなく、次孔さんだ。
部活で活躍すると、新聞に掲載されるので、新聞部の次孔さんがやってくる。
やはりこれが、出会いイベントの条件ということだな。
「私は一年の次孔律動っす。インタビューさせてくんないっすか? えっと、ロト君」
にかっと八重歯を見せて笑った。
ああ、やっぱり可愛いなあ。
「もちろんだよ、次孔さん」
「ありがと。えっと、まずは写真を撮らしてもらっていいっすか?」
やった! 今回は写真を撮ってもらえるくらいまともな容姿だったらしい。
1周目は残念な見た目扱いで写真は無しだったからなー。
次孔さんはカメラを構えてながら、俺にポーズを指示する。
「そうっす、そうっす、そのまま腕組みしたまま、ドヤ顔でお願いします」
なんか新進気鋭のラーメン屋みたいなポーズなんだけど、これでいいのか?
次孔さんは満足気にシャッターを切った。
カメラを下ろしつつ、次孔さんはインタビューを開始した。
「クラスと名前は知ってるので、いきなり本題に入るけど、このアイデアはどうやって思いついたんです?」
あぁ、前世の記憶なんだよねー。
とは今回も言えないな。
どうしよ。
「記憶にございません」
「政治家ですか」
俺の適当すぎる誤魔化しに対して、両手を上にあげて首をすくめる。
冗談だとわかったうえでのリアクションだ。
「新聞部に入って早々に政治家にインタビュー出来るなんて光栄だろ?」
「そうですねー」
次孔さんはペンの蓋の部分で後頭部を掻きながら、冷めた目で俺を見ていた。
ううっ、このままでは親密度の向上は望めないじゃないか。
あっ、そうだ。
「実は俺、リズム天国のリスナーなんだけど」
「おお、リスナーでしたかっ」
「大ファンです」
「大ファンでしたかっ」
「サインください」
「書くぜ~、超書くぜ~」
よっしゃ、大ファンなんです攻撃が成功したぞ!
満面の笑みでサラサラとペンを走らせる次孔さん。
手慣れたもので、完成度の高いサインだった。マジでファンが多いんじゃん。
そして俺もマジでリスナーなので、サインは結構嬉しかった。
「いや~、この前の会長が出てくる放送を聴いて俺も生徒会に入ろうと思ったんだよ」
「えっ、アレで!?」
口から出まかせを言ったところ、引かれてしまった。
まぁあんときの会長、野望が過ぎるからな。
権力を手に入れると気持ちがいいという至極、独裁者なご意見の持ち主だった。
心象を悪くするのはまずい、リカバリーを図るぞ。
「いや~、あのときの会長は天才ラジオパーソナリティーがいなかったら滅茶苦茶だったけどね」
「いや~、そこまで天才じゃないよ~」
顔を赤らめて、手を仰ぐが、まんざらじゃないのは明白だった。
さすが、次孔さん。
褒めておけば、なんとかなるな!
「俺が生徒会に立候補したときは是非、天才ラジオパーソナリティーに応援演説して欲しいなあ~」
「仕方ないにゃぁ~」
よっしゃ、言質取ったぞ!
応援演説、一人目ゲットだぜ!
後日、張り出された新聞には、絵画のイメージはラジオを聴いていたときのインスピレーションってことになっていた。
まぁ、そういうことにしておこう。




