異世界メモリアル【2周目 第6話】
俺は部活の見学をして回った。
合唱部、演劇部、吹奏楽部を見て、現在は美術部である。
1周目のときはBL漫画家のアシスタントをしていた。
あのバイトは辛い思い出もあるが、絵を描くことは嫌いじゃない。
見学してるときに、なんとなく似ている絵を見つけた。
あのBL漫画家の絵にだ。
なぜか男に妙に艶があるというか。
サインのように☆マークが書いてある。
「その絵がどうかされましたかっ?」
妙に人懐っこい女の子が寄ってきた。
縁無しの大きくて丸い眼鏡と、星の形をした髪留めが印象的な、やはり美少女だった。
大きな目はらんらんと輝いており、俺に何かを期待しているようだ。
これはやはり出会い、なんだろうな。
美術部の壁に貼られた絵と俺の間に割り込むように、顔を近づけてくる。
栗色の髪から、良い匂いがして、戸惑った。
「あぁ、なんというか、よく知ってる漫画家の絵に似ていると思って」
「ほうほう、その漫画家とは?」
それはあまり言いたくないが……。
だって俺がBL漫画家について詳しいって……すなわち、そういうことだろ?
しかしここでお茶を濁すのも難しい。
しぶしぶ先生の名前を伝える。
「おおお! 光栄ですな! まさに私の敬愛する先生ですよっ。そしてフフフ、ご存知なんですね~?」
俺を舌なめずりしながら見てくる。
つい俺はお尻を抑えた。
バイト先の思い出が甦ったのだ。
つまり、彼女はそういうことなのか?
だとしたら、この部活に入るのは……危険!
「どうやら、あなたには才能があるみたいですねえ、是非入部しませう」
身体全体で腕をがっつり掴まれて、抵抗できない。
真姫ちゃんほどではないが、かなり大きい。
この胸に抱きつかれてしまうと、振りほどけない。
「お名前はなんですか~?」
「ロトです」
「はい、ロトさん入部っと」
勝手に入部届にロトと書いた紙を用意されて提出されてしまった。
「私は画領天星と言いまする。てんせーちゃん、って呼んでね?」
ようやく腕が開放された……されてしまった。
こんなガリ勉くんの俺によくここまで人懐っこく出来るなあ。
「んじゃ明日から部活でね~、バハハーイ」
大きく手を振ってさよならしている。
この美術部には問題がある。気がする。
俺はそのまま自分の教室に戻った。
「なぁ、義朝。画領天星さんのことを教えてくれないか」
「てんせーちゃんね、オッケー」
義朝もてんせーちゃんって呼んでるのか。
普段俺が存在を忘れているが、親友という設定の男は丁寧に教えてくれた。
「そんなに知らないんだよな」
言い訳しながらも教えてくれた情報をまとめる。
自分の名前が天星なので、星のマークをモチーフにしたものを集めている。
両親は漫画家らしい。
趣味は不明……らしいが俺はなんとなくわかる。腐ってるんだ、きっと。
好きな食べ物は発酵食品全般。やっぱり腐ってるな。
インドア系の趣味も多いが、結構アクティブな場所を好む、と。
「次は来斗述さんのことを教えてくれないか」
「ああ、いいぜ」
誕生日プレゼントを選ぶ前に本当は聞くべきだったけどな。
来斗さんは文芸部員で、伝奇モノを書いているらしい。
ミステリなどの娯楽小説や、ホラー、アクションモノの映画を好む。
甘ったるい世界観の少女漫画や、詩は嫌い。
料理は激辛マニアで、甘いものは嫌い。
兄妹は姉と妹が1人ずついる、ということだった。
さすがにレイプという単語は出てこなかった。
しかし、ほらね、詩は嫌いなんだよ。
誕生日プレゼントを渡すのに自信がついたぜ。
「ニコ・ラテスラのことも教えてくれ」
「おっ、お前、ニコ様のこと狙ってるのか!? わかるぜ、あんな天使のような美少女いねえもんな……そっか、お前もか……」
義朝の表情がいままでのと全然違う。こいつ、ロリコンだな!?
様で呼んでるし、ヤバイな。
ロリコンが教えてくれた情報をメモる。
ニコが所属しているのは、やはり化学部。
4月2日生まれで、間違いなく16歳ということだ。信じられない。
お酒が好きで最近は毎晩の晩酌を欠かさないらしい。信じられない。
ちなみに、この世界では15歳からアルコール度数の低い酒が飲める。
ラテスラは世界的製薬メーカーで、父がCEOだそうだ。超金持ちじゃん。
別に天才が集まる学校じゃないこの学校に来た留学生だが、やはり天才らしい。
単に母親の故郷がこの辺だから、という事情とのこと。
出身は寒い国なので、温かいものや、暖かい場所が好き。
身長は135cmとか体重は30kgとか血液型はBとか、なにからなにまで全部教えてくれた。
圧倒的にニコだけ保有している情報が桁違いだ。
義朝、マジでこいつヤバイな。
この手のキャラって普通は特定の誰かを特別扱いしないだろ。
「あと、生徒会長のことも頼む」
「会長も!? お前、幅が広いなあ」
うるせーよ、このロリコン。
会長の星乃煌は有名人で、何かと目立つ存在のようだ。
子供の頃からトップをひた走るタイプの。
陸上でもピアノでも、なんでもやれば出来てしまうし、学力も段違い。
だが、興味についてはマニアックらしく、なぜかこの学校に。
やっている趣味も落語、とのこと。そして落語は下手らしい。
変わった人だなあ。
義朝にお礼を言って別れる。
さて、来斗さんに誕生日プレゼントを渡すか。
文芸部は活動日ではなかったので、図書室に入る。
彼女は、いた。
今回は普通に席に座って本を読んでいた。
向かいの席に座る。
ちら、と目をこちらに向けたが、すぐに本に目を戻した。
彼女にとっては没キャラですからね、俺。
俺は小さな声で、誕生日おめでとう、と言ってプレゼントを渡す。
「え? ……開けてもいい?」
「もちろん」
絶対、大喜びだろ。
包装紙を外した彼女は、普通に喜んだ。凄く普通。
まじかよ、やっぱりVRが大正解なのかよ。
図書室でこっそり渡せば大丈夫だったかも……?
「待ち合わせは現地でいい?」
へ?
「一緒に観戦するのでしょう?」
「お、おう」
「楽しみにしておくわ」
無表情のまま、そう言うと彼女はまた本に目を落とした。
こうしてみると、本当に文学少女に見える。
儚げで、深窓の令嬢みたいだ。
あの下着は見間違いだったんじゃないかと思うくらいに。
「その本、面白い?」
「つまらないわ、ヒロインがレイプされると思ったら未遂で終わるのだもの」
俺はこめかみを抑えた。
やっぱり見間違いじゃないなコレ。
軽く手を振って、静かに去った。
思わずデートの約束に成功したが、そのプロレスの大会は8月だ、まだ2ヶ月もある。
新キャラいっぱい出してしまって、すみません。
覚えきれねーよ、ですよね、すみません。
当分はこれ以上新キャラは出ませんので、ご安心を。




