異世界メモリアル【2周目 第1話】
レビュー、感想、評価いただいた皆様ありがとうございました!
あまりの反響に感謝しかございません。
2周目がんばります!
ここは―――。
背景のない真っ黒な場所に現れた。
闇ではなく、充分な明るさの黒い場所。
どうやら2週目が始まったみたいだな。
しかし次に聞こえてきた声は、俺に衝撃を与えた。
「あなたはロトだね。 前回プレイのアイテムを引き継ぎます」
成る程。
どうやら名前は変えさせてくれないようだ。
なんでだよ!
ほんとクソゲーだな!
「初期ステータスを確認して、ボーナスポイントを振り分けてください」
【ステータス】
―――――――――――――――――――――――――――――
文系学力 12
理系学力 13
運動能力 15
容姿 12
芸術 9
料理 8
ボーナスポイント 30
―――――――――――――――――――――――――――――
思ってたより2周目のボーナスは多いじゃないか!
1周目では10しかなかった。
やっぱりさっさと死ねばよかったんだよ、俺。
そして俺は迷いなくステータスを割り振る。
【ステータス】
―――――――――――――――――――――――――――――
文系学力 12
理系学力 13
運動能力 45
容姿 12
芸術 9
料理 8
―――――――――――――――――――――――――――――
運動能力にボーナスポイントを全部割り振った。
一番大事なのは基礎体力だということは骨身にしみている。
今回は入学式に遅刻しないぜ。
――すると、いきなり風を感じた。
懐かしいなあ、春の香りだ。
ついさっきまで煙硝の匂いを嗅いでいたので、清々しいぜ。
すると目の前に見知った良い奴がいる。
思わず声をかけた。
「よう、何突っ立ってんだ」
最初は俺がこう言われたんだっけ?
「おお、俺たち幼稚園からの腐れ縁だけどよ、また同じ学校だな。この3年間こそぜってー彼女作ろうな」
俺の肩を叩いてニカッと笑う。
どうやら義朝で間違いなさそうだ。
俺は2周目が思ったとおりに進行していくことに安心した。
「さ、行こうぜロト」
……友親が出てこないことに気づいたが、それはいいよな。
だって1周目のときもろくに話してねえもん。
「おっさき~」
そのままタタタタターっと軽快に駆けていく女子生徒。
「待ってよ、実羽さん!」
二重で大きな茶色の目。
細くてキリッとした眉毛。
唇が薄くて、若々しい健康的な肌。
ウェーブのかかったロングの茶髪で、軽やかになびいていた。
脚はとても細い。
間違いない、実羽さんだ。
登っていく階段の途中でくるりと身体をこちらに向ける。
「久しぶりだね、ロトさん」
どうやら、1周目の記憶を保持しているようだ。
よかった。
俺は心から安堵する。
「1年半以上待ってたんだよ」
そう言って、不服そうな顔を見せる実羽さん。
時間軸は異なるみたいだ。
俺が死ぬことでやり直しになったのに対して、彼女は俺が死んだ後も卒業まで進んでから今ここにいるのだろう。
「ごめんごめん、早く2周目を始めたくってさ、今回は最初から相談相手になってよ」
手を合わせてお願いすると、なぜか思いっきりため息をつかれた。
「あ~あ、いきなりそれか。まぁわかってたけどね……」
しょんぼりと地面をにらみつける実羽さん。
どうしたんだろう。
「いいよ、私は善行を積まないといけないから。それを手伝ってくれるならね」
俺は少しも躊躇することなく、首を縦に振った。
――今回は入学式に間に合った。
「一年生の諸君、私が生徒会長の星乃煌だ。 よろしく頼む!」
まじか。
ギャルゲーとかだとよくあるカリスマ生徒会長だ。
なんという美貌。
なんというスター性。
俺はひと目で引き込まれていた。
生徒会長なのに1周目ではなぜか一度も見なかったなあ……。
「生徒会はみんなと共にある! 是非、生徒会に入ることを検討してくれたまえ!」
生徒会か。
ステータス勝ち組パターンなら、そういうルートもあるんだろうな。
俺は他人事のように話を聞いていた。
さて、妹が待っているはずの俺の家に帰る。
「お帰り、お兄ちゃん」
舞衣が玄関を開けたら出迎えてくれた。
よかった、何も変わっていない。
今回もブレザーの制服の上にエプロンをつけて、おたまを持っている。
「今日から両親は海外だから、二人暮らしになるね。今週は私が料理当番だけど来週はお兄ちゃん頑張ってよ」
「2週目は妹ルート開放されてますか!?」
「あはは、お兄ちゃん、相変わらずだね」
よかった。
妹も前回のことを覚えてくれているようだ。
明らかな説明台詞が始まったから、リセットされてるかと思って心配したじゃん。
「2周目だからって妹は妹だからね、お兄ちゃん。ちゃんとガールフレンドと仲良くしなよ」
そう言って温かい目を向けてくる妹の顔を見て、俺はもう泣いていた。
「ちょっと、なんで泣いてるの」
あたふたとする妹が可愛くて仕方がない。
そう、俺はもう、舞衣が妹として可愛いと思えるようになっていた。
「よかった、お前が妹で本当によかった」
「ちょっ、なに言ってるのよ恥ずかしい」
こちとら攻略本があるわけじゃないんだ。
2周目があると信じて、無謀なことをしたけれど。
舞衣は俺と違って1周目の記憶はないという可能性は十分にあった。
むしろサポートキャラが舞衣じゃなくなることだって有り得る話なんだ。
こんなクソゲーの世界でも、実羽さんと舞衣がいるだけで救われる気持ちだ。
舞衣と別れて自分の部屋に向かう。
やっぱり俺の部屋は2階だ。
階段を登るのに苦労などない。
やはり2周目というのは素晴らしい。
生きていくのが楽だ。
そして、部屋にあるものを見ていくとやっぱりいろいろな事に気づく。
本棚を見ると、タイトルが読めない。
1周目と全然文字が違う。
ステータスがリセットされるという意味を噛みしめる。
また文字から勉強し直しか……。
「お兄ちゃーん、ご飯できたよ~」
あぁ、そうだったな。
最初は舞衣が食事当番なんだ。
「今日はご馳走だよ」
自信有りげに腰に両手をあてて、胸を張る舞衣。
……ど、どこの国の料理なんだ?
「F-1と、O-3だよ」
フフン、とドヤ顔する舞衣。
とてもかわいいが、困惑の極みです。
1周目よりも全然意味がわからない。
ヌポンフとバレーレなんて、あの後結構よく食べたもんね。
今の食卓には白くて四角い塊と、緑色の丸い物体が置いてあるだけだった。
なんだこの未来の食料みたいなものは。
SFの世界の科学的な食べ物みたいだ。
そしてやっぱりこれを作るのになぜおたまがいるのか理解できない。
正直舐めてた。
料理のステータスがリセットされるということを。
筋肉と違って記憶が消えるわけじゃなければある程度太刀打ちできると踏んでいた。
ところがもはや料理というものの概念から変えられている。
とりあえず食ってみると味はそこまで違和感がない。
F-1はピラフみたいな味で、O-3は枝豆みたいな感じ。
うまいけど、見た目が食欲をそそらないなあ。
スプーンだけで食べれるのも便利だが、なにか面白くない。
「お風呂も沸いてるからね」
食べたら入りなよ、という舞衣。
風呂は良い。
いつの世も風呂は風呂だ。
風呂から出て、部屋でアイテムを確認していると、ドアがノックされた。
「お兄ちゃん、入るよ」
「待ってたよ」
お風呂上がりで、ほかほかした感じで入ってくる妹。
やっぱり黄色のパジャマで、頭にタオルを巻いていた。
「待ってたんだ?」
「来るのはわかってたからな」
舞衣は「ふーん」と言って、ベッドに腰を下ろした。
2周目だからわかってるよね、みたいな態度は取らないみたいだ。
「さて、お兄ちゃん。現状を確認するね」
【親密度】
―――――――――――――――――――――――――――――
星乃煌 [1年生のことは全員愛している]
―――――――――――――――――――――――――――――
「今はこんな感じだね」
最初から1周目と全然違う展開だ。
あの生徒会長は攻略対象なのか。
またこの人も、気持ちがわかりずらそうだ。
「えっと、いろいろと聞きたいことはあるんだけど、実羽 映子さんは?」
「え? もうお友達ができたの?」
お友達か……。
確かに俺はそういう話しかけ方をした。
2周目のプレイが始まった不安もあって、1周目のことを話せる仲間が欲しかった。
しかし、その結果攻略対象ではなくなったというわけか……。
1周目で実羽さんが攻略対象だったということは触れられないようだ。
基本的にはリセットされているんだもんな。
存在しているだろう女の子だって、まだ知らない状態で進行しないとおかしくなる。
2周目では出会わない、ということも十分に有り得るし。
「さて、お兄ちゃん。今週は何をする? 勉強? スポーツ?」
「勉強する」
「即答だね」
授業についていけないのは勿体無いからな。
基礎学力があれば授業でもステータスは上がる。
1周目と違って体力は45あるので、日常生活には支障ない。
「じゃあ頑張ってね」
何やら紙を渡された。
懐かしいな、今週の勉強カリキュラムが書いてある。
「これを1週間で?」
「そう、頑張ってね」
はははは。
笑けてくるぜ。
「舞衣、こんなの今日中に終わらせるよ」
2周目の俺を甘く見ちゃ困る。
見てろよ、今度は。
2周目は、ハッピーエンドを迎えてみせる。
この異世界は、クソギャルゲーなんかじゃない!




