異世界メモリアル【第4話】
失敗した、失敗した、失敗した、失敗した、俺は失敗した――。
治験のアルバイト、マジヤバイ。
日に日に体力が削れていく実感が半端ない。
何飲まされてるんだよ……。
運動能力上げるためにどれだけ苦労したと思ってんだ。
くっそ~。
4日間の治験バイトを終えて、俺は帰宅した。
バイト代は5万円。
俺はこの世界の5万円がどの程度のものかがまだわかっていない。
このバイトが良かったのかは、これで何を買えるかによるだろう。
「おかえり、お兄ちゃん。早速確認する?」
早速確認したいのは山々なんだが。
手軽に聞いちゃうとなー。
妹の萌え萌え訪問イベントが1回減ってしまうのではないか?
それは惜しい。
「確認しないで、お買い物行くの?」
ぐっ……それはイカン。
ステータスを把握しないでアイテムを買うのは、ありえん選択肢だ。
俺は泣いて馬謖を斬る思いでステータスを確認することにした。
【ステータス】
―――――――――――――――――――――――――――――
文系学力 10(+4)
理系学力 13(+3)
運動能力 7(-4)
容姿 25(+7)
芸術 7
料理 22(+10)
―――――――――――――――――――――――――――――
やっぱり!
あんだけ筋トレしたってのに、治験のせいで運動能力が減ってやがる!
ん?
でも、容姿が上がってるな。
薬の影響で?
俺は鏡をチェックした。
顔のむくみがとれてシュッとなっている。
あー、一応治験にもメリットはあったんだな。
「親密度もチェックしておこうね」
うーん、ちょっと怖いんだよな、厳しい評価しか見てないし。
【親密度】
―――――――――――――――――――――――――――――
実羽 映子 [カラオケの30%OFFクーポンくらい好き]
望比都沙羅 [割り箸の袋に入ってる爪楊枝くらいの存在]
―――――――――――――――――――――――――――――
ん~、わかりにくい!
でも実羽さんの好感度は上がったな。
よかった、あのとき話しかけて。
WEBで手に入るクーポン程度だけど……。
望比都さんは、前回より上がってんのか下がってんのか分からん。
居ないとなんか寂しいっていう意味かもしれないし。
不用意に開けたときに痛ッってなるくらい、ムカつくって事かもしれない。
「こんな感じだね、それじゃ買い物行く?」
「行く行く!」
なんだかんだ言ってコレってデートじゃん!?
お茶したりするんじゃん?
めっちゃ楽しみにしてたんですよ!
「着いたよ、お兄ちゃん」
「ええ……」
家を出て5分で着いてしまった。
ガッカリだよ。
「どういうアイテムが欲しいの、お兄ちゃん」
そうだなぁ、治験で容姿が上がったし、美顔器を買うのはやめよう。
削られた運動能力をどうにかせねばならんだろう。
「運動能力が上がる装備品か、上昇率が上がるやつあるかな」
「はいはい。そういうのをピックアップしたげるね」
1.大リーグボール養成ギブス 5万円
2.倒れるだけで全身スーパーコア 5万円
3.ドーピング 3万円
またしても、ろくなものがないね。
「舞衣、説明を頼む」
「えっと、1は身につけると運動能力の上昇率が上がるよ。歩くだけでも大変だけど」
「却下だ、却下! 今でも充分しんどいわ!」
冗談じゃねえっつの。
ゲームだったら迷わず買って装備するけどな。
現実はそんな甘いもんじゃない。
「2は毎日運動能力が少しずつ上がるアイテムだね。5分のトレーニングで、誰でもできる簡単なものだよ」
これは良いな。
こういうものは買っても使わなくなってしまいがちだが、今の状況では別だ。
ステータスとして数字で見えるし、その結果女の子にモテることがほぼ明確なのだ。
この世界においては使わなくなることはないだろう。
「3はね、打った瞬間に30ほど運動能力が上がるよ。違法だけど」
「違法なのかよ! 違法薬物を兄に薦めるな!」
「逮捕されるイベントはめったに起きないよ」
「そういう問題じゃねえよ!」
まったく、どういう考えしとるんじゃ、この妹様は。
まぁ、そもそも普通に売ってるけど。
怪しげな店には見えないんだがな。
俺は2の倒れるだけで全身スーパーコアを購入した。
選択肢はあったが、実質これしか選択できないじゃねーか。
ほんとクソゲーだぜ。
家まで5分なので当然お茶などすることもなく、さっさと帰った。
くそう、筋トレ器具を買うだけのデートになってしまったぜ。
******
連休明け、俺は部活で脚光を浴びていた。
妹にオムライスが好評だったので、部活でも作ってみたのである。
こちらの世界は日本とはまるっきり異なる食文化なのだが、似たような食材で再現すると創作料理として扱われるらしく、料理部としては非常に評価が高かった。
「あら、お料理とは思えないほどドギツイ赤ですこと。調理中に鼻血でも出したのかと思いました」
――なぜか望比都さんの評価は高くなかった。
なんでや。
翌日はハンバーグっぽいもの。
その翌日は肉じゃがっぽいものを作ったが、望比都さんの反応はいまいちであった。
そんな感じで再現料理をいくつか作っていると、料理ほぼ未経験から料理部に入って2ヶ月もしないうちに毎日新しい料理を生み出す男として少し話題になった。
そして、料理部に突然の来客が訪れた。
「ちわーっす! 新聞部でーす! 噂の料理人はキミっすか!?」
――またしても超絶美少女がやってきたぞ!
テンションが高く、快活なタイプのようだ。
背はやや低めで152cmくらい、胸はまだ育っていない感じ。
好奇心に満ち満ちた目をしている。
髪は茶髪のセミロングで、左のもみあげのところに音符の髪留めがついていた。
「私は一年の次孔律動っす。インタビューさせてくんないっすか? えっと、ロト君」
にかっと口を開けて笑った。
八重歯が印象的だ。
やべえ、むちゃくちゃ可愛い。
俺は当然インタビューに応えるしかないと思い、首肯する。
「ありがと。 えっと、写真は……やめとくか」
ぐっ……来週からは容姿を上げることに決めた。
「クラスと名前は知ってるので、いきなり本題に入るけど、この新しい料理のアイデアはどこから来るんです?」
……前世の記憶、だなんて言えねえー。
中二病だと思われちまう。
どうやってごまかしたものか。
「うーん、ちょっとそれは秘密なんだよね」
「ええーっ、そこが一番大事なところでしょっ、教えてよっ!」
ぴ、と人差し指を立てて、抗議する次孔さん。
むむ、どうしよう。
「一見さんにはまだ教えられないね。今日のところは俺の料理を食ってまたおいで」
とりあえず時間を稼ぐことにした。
あとで説得力の有る理由を考えよう……。
「むむ~、じゃあ来週また来るからね」
よっしゃ、出会いの回数を増やすことに成功したぞ!
俺は内心ガッツポーズしながら、今日作った料理を次孔さんに提供した。
「へぇ~、これが親子丼ってやつ? 変わった味だけど、甘くて美味しいかも」
こちらの世界には粉末の出汁の素がないから、出汁を作るのが難しくて親子丼はまだまだ課題が多いのだが。
なかなか美味しそうに食べてくれた。
望比都さんにも美味いと言わせたいぜ。
俺もなかなか料理部の、この世界の楽しみ方がわかってきた気がするな。