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異世界メモリアル【第39話】


その後、俺は沙羅さんにどうやっても会うことが出来なかった。

存在が消えたわけではないのだが、どうしても会えないのだ。


料理部の部室に行けば、今日は来ていない。

教室に行けば、さっきどこかへ行った。

そういうごく自然な流れで俺と会えないことになっているようだった。


心にポッカリと穴が開いてしまったような虚無感。

おそらくこれは失恋ではない。

ただひたすらに寂しいのだ。


――俺は居なくなったら寂しい相手に会いに行くことにした。


口実はあった。


どんどんどん!


「頼もう~」


俺は道場の扉を叩き、中に入る。


「お? ロトじゃん。どした」


出迎えてくれたのは寅野真姫(とらのまき)である。

女武道家として有名だが、俺にとってはボーイッシュ巨乳美少女という認識しかない。

彼女が闘ってるところなど、見たこともなかった。

水着に着替えたときの傷を見て、格闘技なんて辞めてしまえと思ったくらいだ。

しかし、今の俺は彼女の強さに感謝している。

つまり、男の俺が戦いを挑んでもいいくらい強いことに。


「プロレス同好会の俺と交流試合をしないか、トラちゃん」

「ふはは! 私に勝負を挑んでくるか! 面白い。プロレスルールでいいよ」

「後悔するなよ?」

「この私にそこまで言うやつは本当に久しぶりだ」


******


ウォーミングアップを追えた両者が、プロレス同好会のリングに上がる。

俺はプロレスのブーツに黒のタイツ、上半身は裸というバリバリのプロレスラーの格好。

対する真姫ちゃんは、Tシャツと短パンである。

ダイエットのために部屋でトレーニングする女の子くらいにしか見えん。

そしてTシャツに書かれた文字が読めなくなるくらい、胸がでかい。


男プロレスラーVS部屋トレ少女

謎の異種格闘技戦の様相を呈する部室内。

うちの部室は同好会のため、リングがギリギリ入るだけの小さな部屋だ。

着替えのロッカーを他所の部活に借りている身の上だが、部室にはどこから噂を聞きつけたのか、観客によって満員御礼となっていた。

もちろん、新聞部の次孔さんも駆けつけている。


真姫ちゃんは次孔さんにマイクを要求。

どうやらマイクパフォーマンスを始めるようだった。


「おいおいおいおい! 油断するなよ? プロレスはしたことがないがこっちはガチの武道家だからな」


おいおい、ガチの武道家にしちゃマイクパフォーマンス上手いな。

実はこっちは試合したこともないんだが。


「武道家がなんだ! あのなぁ、一番強いのは、プロレスなんだよ!」


そもそも2ヶ月前から筋トレ目的で始めた俺が、プロレスを代表するのはおこがましいのだが。

うちの部長はいつもそう言っている。

多分、ものまねなんだろうが、元ネタは知らない。

それでも観客はウォォと盛り上がった。

真姫ちゃんは本当に無敗の存在らしく、今回の試合は注目を集めているようだ。


「ほざけ! 3カウントなんて取らないでKOしてくれる! いや、ドクターストップにしてやろう」


指を鳴らしながらそう言って、ほくそ笑む真姫ちゃん。

妙にこなれてないか?

本当にプロレスするの初めてなのか?

もしくは、実はプロレスファンなのだろうか?


俺はプロレスのゲームには詳しいが、プロレス自体はよくわからない。

よって、ルールや技は熟知しているが、マイクパフォーマンスとかはあんまりわからない。

序盤は小技で体力を削って、最後は大技で決めるっていうスタイルもゲーム感覚である。


「それでは時間無制限1本勝負を始めます!」


放送部が勝手にリングアナと実況を開始した。

まぁ、有り難い。


カーン!


ゴングが鳴った。

先手必勝だろう。

なんせ真姫ちゃんは超強いのだ。

打撃なんて食らったら超痛いに決まっている。


お互い距離を取りつつ、構える。

ローキックとかされたらどうしようと思うが、いきなり打撃はしてこないようだ。

それならば、俺もプロレスらしい技で攻めてやろうじゃないか。


「おらぁ」


俺は逆水平チョップを打った。

プロレスで打撃と言えば、相手の胸を平手で切り込むように打つコレだろう。

バチーンと言う大きな音が、観客にいかにも痛そうと思わせる。


ぼいーん


うーん、なんという弾力。

俺のチョップは胸板に到達せず、おっぱいによって弾かれた。


ウォォ!


どよめく観客。

そりゃそうだ、Tシャツを着ただけの真姫ちゃんの胸は、ばいんばいんに揺れているのだから。


「効かねえなあ?」


完全にプロレスラーの反応をみせる真姫ちゃん。

おっぱいのことは全く気にしていない。

むしろ少しは気にして欲しい。

俺は未知なる右手の感触に、金縛りにあったように動けなくなっていた。


「スキだらけだぞっ」


後ろに回り込んだ真姫ちゃんは、俺の膝裏に蹴りを入れた。

思わず崩れ落ち、膝をマットに打ち付けた俺に、背後から腕で顔を締め上げる!

フェイスロックだ!


しかし強い格闘家だとしても単純なパワーは所詮女の子だ。

締め上げる力は弱く、それほど痛いわけではなかった。

そして、俺の肩の辺りは物凄く気持ちいい事になっていた。

な、なんという感触なんだ。

彼女ほどの巨乳がする、俗に言う「当ててんのよ」の破壊力は尋常ではなかった。


「あっとー、フェイスロックを外せないかロト選手ー!」


振りほどけなかった。

背中に当たる大きな胸の膨らみは、あまりにも魅惑的すぎて。

このときが永遠に続いて欲しいと思うほどに。


「目がうつろだ、よだれも垂れているー! これはドクターストップかー!?」


気持ちよすぎてそうなってるだけだった。

これで保健室行きになったら……もったいない!


俺はレフェリーに指を振り、平気だというアピールを行う。

すると、真姫ちゃんは技を解除。

すぐに次の技をかけてきた。

後ろから左足を俺の足に絡めて固定。

俺の左腕を左後ろに引っ張りながら、右手で俺の顔を後ろに締め上げて、身体を捻る。

確かこの技はストレッチプラム!


単純な筋肉の攻撃ではなく身体の捻りを使った技のため、フェイスロックよりも痛い。

しかしそんなことより俺の顔にがっつりおっぱいが乗っている!

顔面に、右のおっぱいが!

これももう抗えない気持ちよさだ。

これはプロレスじゃねえ!

おっぱいガマン大会という魅惑のアトラクションだ!


パシャーパシャーパシャ!


これはカメラの音!?

おっぱいを押し付けられてアヘ顔の俺を撮影してる奴がいる!?

目だけを動かして撮影者を探すと、当然だが、それは次孔さんだった。

あんな冷たい目でカメラを構える次孔さんを俺は見たことがなかった。

やべえ! 次孔さんが俺にもう会ってくれなくなったらどうすんだ!?


「おっと、ロト選手ここでストレッチプラムから逃れたー!」


目が覚めたぜ。

目的を見誤るところだった。

どんな大きな志もおっぱいの前では無力だったが、なんとか初心を思い出したぞ。


もう容赦はしねえ。

体重が軽いのは間違いないんだ、投げ技でホールドしてやるよ!


俺は後ろから、肩を組む用に抱きかかえる。

バックドロップをかけるぜ!


と思ったら、頭に強烈な衝撃。

どうやらエルボーを食らったようだ。

ダメージが強すぎて、痛みすら感じない。

意識と記憶が軽く飛ぶ。


朦朧とした視界に映るのは、俺の首に向かって飛んでくる右のハイキックであった。



真姫ちゃんに起こされたことで、負けたことを知る。

いやー、強かった。

わかっていたけど、本当に強いんだな。


だが、これでいい。

こうなることは、わかっていた。


「なかなかだったよロト! だが、まだまだだな!」


ノリノリのマイクパフォーマンスをする真姫ちゃん。

俺はマイクを受け取る。


「強い、本当に強いよ。だが、だがな、次は負けねえ! 首洗って待ってろ!」


そう叫ぶと、彼女は腕を組んでニヤリと笑った。

よし。

これが狙いだ。


次の闘いを約束すれば。

武闘家の真姫ちゃんから、会わなくなるなんてことは無いだろう。


安心した俺は、そのまま首を抑えて気絶した。



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