異世界メモリアル【トゥルーエンド】
――冗談じゃないね。
俺は叫ぶ。
エンディングが全部終わることに、抗うように。
「舞衣は!?」
舞衣がいないじゃないか。
戦国ロトは非常にいい世界だったと思うよ。いや、最高に面白いゲームだった。
二度と会えないと思っていた、攻略ヒロインたちと力を合わせて戦って。
攻略できないと思ってた、モブだと思ってたヒロインと結婚して。
なおかつ、登場人物全員が幸せな結末となるようなベストエンディングだ。
ひとつだけ。問題はひとつだけ。だけど致命的な問題。
それが舞衣がいないこと。
許せねえなあ。許せねえよ。
異世界メモリアルってゲーム、あのクソゲー。好きな女の子を攻略したと思ったら、次から会えなくなる世界。苦労に苦労を重ねて、ようやく好きになってくれた女の子と、もう二度と会えなくなるというとんでもない世界。
それでもくじけずに、ずっとやってこれたのは、決して彼女たちを成仏させられるという大義名分なんかじゃないんだ。
それでも、それでも舞衣はずっと居てくれる。
エンディングが終わって、またゲームが始まったとき。誰に出会えるかわからないけど、それでも舞衣には会える。
それがモチベーションだったに決まってんだろ!
だから、舞衣を攻略できると思ったとき、あえて攻略しなかったんだろ!
舞衣だけは、舞衣だけは二度と会えないなんて耐えられないのだから!
俺にしてみりゃ、このゲームは恋愛シミュレーションゲームなんかじゃない!
このゲームは、この「異世界メモリアル」ってのは。
自分を育成して女の子を攻略をするという目的のために、舞衣というヒロインと一緒に過ごす「妹ゲー」なんだよ!!
音楽が終わる。
エンディングが終わる。
また、異世界メモリアルが始まるのだろうか。
それとも、異世界メモリアル・ガールズサイドが始まるのかな。
「ロト……お兄ちゃん……」
真っ暗な場所に、そこだけ光が指して。
舞衣だけがそこに居た。
「お兄ちゃんのバカ……舞衣のこと、好きすぎだよ……」
泣いていた。
嬉しそうに、泣いていた。
「俺が舞衣のことを大好きなんて、わかりきったことだろ」
「……そうだね」
「それで……これってどういう状況?」
真っ暗で、いつもの新しく一年の一学期が始まる前に似ている。
いつものナレーションじゃなくて、舞衣がいるという違いだけだが……。
舞衣は、涙を拭うと、ぴしっと気をつけのポーズ。
服装は……なんというか、女神? みたいな……。荘厳って感じはしないけど。
「実は、試験をしていました」
「試験?」
「そうです。異世界メモリアル以外の世界もプレイできるのかという」
「ああ」
「あくまでも星乃煌の世界での呼び名ですけど、わかりやすいらしいので」
「うん」
「お兄ちゃんは、星乃煌からいろいろ聞いてると思う」
「うん」
「本当のこともちょっと違うこともあるんだけど、ポイントとしては、お兄ちゃんは異世界メモリアルを全部クリアすると成仏します」
「おー」
なんとなくそんな気もしていたが、やっぱりそうでしたかって感じ。
「お兄ちゃんは恋をしないまま亡くなった。その悔いが残って成仏できなかった。そこで神様からこの世界をプレゼントされたの」
神様……嬉しいよ、クソゲーだったけど。
「愛を知らずに亡くなった女の子たちに、愛を与えて成仏させてあげる。それがこの世界の条件でした」
「うん」
「残ったのは、実羽映子と星乃煌。この二人は攻略対象でありながら、お兄ちゃんと同じでプレイヤーでもあった」
「うんうん」
「二人はどちらが先にお兄ちゃんにクリアされるかというプレイになっていたんだけど……」
「だけど?」
「ふたりとも、いえ、三人とも……いや、四人ともが同じ気持ちになったの。成仏なんてしたくない、このままずっとプレイしたい、ずっと、みんな一緒でいたいって」
四人って誰だよ、なんて野暮なことは言わない。
嬉しくって、ニヤけてしまうのを、我慢する。
「ずっと一緒にいるっていうのは、つまり他のゲームをプレイするってことになる」
「そうなるな」
「だから別のゲーム……異世界メモリアルガールズサイドの世界での様子を見ることにしたんだけど、そこでお兄ちゃんは、思った通り……いいえ、嘘。思ってなかったよ。まさかイーナさんを攻略しようだなんて」
まあ、そうだろうな。
神に逆らってやると思ってたけど、まさか神による試験中だったわけだ。とんでもねえことしちゃったね。
「神様はちょっと驚いたみたい。でも、自分の思ったように行動するっていうところが評価されたの。確か『おーぷんわーるどでもやっていけそうだ』って言ってた」
なるほどな。
明確な目標が決まっていないタイプのゲーム世界でも主体的に楽しんでプレイできるかと。
そんなの当たり前だろ。
甘く見られたもんだぜ。
「とはいえ、ゲームは誰かを成仏させる手段として用意される。悔いの違いがゲームの違いだから、今後やっていけるかどうかは、いろいろなゲームができるかどうかにかかってる」
なるほどな。恋愛が理由で成仏できないから、恋愛シミュレーションゲームの世界だった。
「そこで神様は特別に、誰かを成仏させるわけではない試験用のゲームを創造した」
「それが戦国ロトか」
「そう。お兄ちゃんが作らせたようなものだよ」
なるほどなあ。
「お兄ちゃん、おめでとう。試験は合格」
「ありがとう」
そうかそうか。
ずっといろいろなゲームができるのか。
「この後、ゲームが始まるの? どんな?」
「ふふっ。どんなのがいい?」
「そうだな、舞衣は出てきてほしいな」
「ありがと」
ああ、幸せだ。
舞衣と笑いあえるなんて。
「ゲームは成仏できない理由から作られるんだよね」
「そうそう」
当ててご覧、と言うように微笑む。
楽しい。
教えてもらえるより、楽しいよ、舞衣。
「そうだな。もっと強くなりたかった。それが悔いとなって成仏できない人のための格闘ゲームとか?」
「異世界オブファイターズって言うらしいよ」
あるらしい。
「でも、舞衣とは闘いたくないなあ」
「そうだなあ、ボーナスステージで応援するとか?」
「いいねえ」
ラウンドガールみたいな格好とかね。
「あとは、世界を救いたかったとか? ロープレ?」
「異世界クエストだね」
いいねえ。
やっぱりそういうのやりたいな。
「舞衣はお姫様……いや、やっぱり仲間かな」
「回復系のじゅもんを担当するのかな」
ああ。わかる。いいね、それ。
楽しそうだなあ。
「戦国ロトみたいなゲームもいいな。またみんなに会いたいし。今度は舞衣もいてほしいし」
「ロトの野望っていうのもあるみたいだよ」
「おー。舞衣は軍師だよね」
「どうせニコさんが仲間になるまででしょうけど」
ふふっ。
わざと拗ねちゃって。
「そもそもさ、単純に異世界メモリアル2ってのはないのか?」
「それもあるみたいだよ」
そっか。
それもいいな。なんだかんだ、嫌いじゃないよ。
ゲームとしてはひどいものだったが、キャラクターだけは良かったし。
それに舞衣は、軍師や仲間もいいけど、やっぱり妹が一番だし。
舞衣がいれば、舞衣さえいれば、どんな困難な世界でも。
いや、どんなクソゲーだってプレイしてみせるさ。
「どんなゲームが始まるのかなあ」
「一応聞くけど、どういうのが一番嬉しいの?」
「そうだなあ」
舞衣がいればいいけど。
ジャンルなんて、なんでもいいけど。
いいけども。
「できれば、全年齢じゃなくて、アダルトゲームにしてもらえる?」
~異世界メモリアル 戦国ロト攻略ルート TRUE END~
4年11ヶ月ですか。本当に長いこと書いておりました。
ついに完結です。ここまで続けられるとは思っておりませんでした。
一度でも感想を送ってくれた人、本当にありがとうございました。本当にあなたのおかげです。感想がもらえなかったら、おそらく2周目くらいで心が折れてましたね。
完結したから感想送ろうかな、と思った方は、ぜひお願いいたします!
この作品を書いてる途中で他のものもいっぱい書いていて、完結させたりエタらせたりしているので、まあよくこれはちゃんと終わらせたなあと。
これも、ときメモシリーズのおかげです。5出して。もしくはリメイクして。クラウドファンディングしたら絶対参加するから!
ときメモを知らない人や、ガールズサイドしかやってない女の人も読んでくれていた気がします。ありがたいことです。そんなことは想定しておりませんでしたね。そもそもファミコンネタとかが多すぎて若い人は全然わかんないだろうと思っていました。
感想で好きなキャラクターを教えてもらえるのは本当に嬉しいのですが、おそらく一位は舞衣だと思います。この最終回で喜んで貰えればいいですが。
実羽さんと星乃さんの攻略も見たかったという意見もあるかと思いますが、すみませんとしか。基本的にキャラクターを動かした結果のストーリーなので、このキャラならこうするだろうと思ったものがコレなんです。
そんなノリで書いてたからずっと書けたという感じ。
それでは長い後書きもこれにて終わりです。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。




