異世界メモリアル【12周目 第31話】
「ゴギャアアアアアン」
義朝の絶叫が鳴り響く。
東京ゲームショウの会場よりも大きな洞窟に。
っていうか本当にあれは義朝なの?
どうみても人間じゃないんですけど?
俺が知る限りで一番近いビジュアルなのは、エスタークですけど?
次孔さんの余裕綽々の戦況分析には「義朝の左足」と書いてあるから、間違いないんだと思いますけども。
今、その左足を撃破したところだ。
まずはニコと鞠さん、星乃さんが遠距離からダメージを与える。
星乃さんの絢爛豪華の爆熱光線と、鞠さんの魔法、天真爛漫な落下星に、ニコの正確無比な破壊光線という上級遠距離攻撃魔法で。
そこに実羽さんと真姫ちゃんが、近距離攻撃を行う。
いかにもボス戦って感じがするのはとてもよい。
なにげに来斗さんの「俺の強姦がこんなに喜色満面なわけがない」が重要。
なにせ義朝の頭は、1ターンのタメの後で全体攻撃を行ってくるらしく、これが防御できてないユニットは即死する破壊力。
防御していたとしても回復が必要となるため、まともに攻撃ができない。
ところが、義朝の頭を先に攻撃しようとすると、手で防がれてしまう。
手を攻撃しようとすると、足で防がれる。結局順番に倒すしか無いってことのようだ。
よって5ターンも敵の行動を封じる能力はデカい。義朝の頭による攻撃をさせないことが、一番必要と言ってもいいだろう。
「さて次は右足を攻撃するか」
江井愛に目配せする。
義朝は巨大なため、永久機関の巨大機械人形の手のひらに乗って攻撃しているのだ。
直接ロボが戦えばいいのでは? と思わなくもないが、それはできないようです。ゲームというのはそういうものなので特に文句なし。
「ンギャアアアアアオオオオオン!」
よし、右足も撃破。
余裕では?
「次は……右手だ」
右足攻撃したし、ちょっと手を上にあげてくれればいいからね。
……こわっ。
なにこれ、結構高いんですけど。バンジージャンプかなってくらいに。
ラスボスっぽいのはいいが、普通に高いところで手のひらに乗ってるだけって怖いよね。地味に。
そんなこと思ってる場合じゃないか、攻撃を……まずは遠距離から。
「きゃー! レイプされるー!」
誰の悲鳴だ!?
って来斗さんに決まっている。
義朝の右手で捉えられてしまった。
「次孔さん!」
敵の情報を一番理解している彼女に説明を要求。
「右手を攻撃すると、反撃で掴むみたい。掴まれたユニットは体力が半減し、行動は不能になるって」
なるほど。
そこまで強力というわけではない……けど?
「えっ? 来斗さんが捕まったってことは?」
「くっ、義朝の頭が動き始めちゃったよ」
ピンチでしょ。
撤退したいが……来斗さんが捕まってるからそれも出来ない。
「沙羅さん」
「承知しました」
こうなったら、断崖絶壁の盾に籠もるしかない。
「みんな、沙羅さんの後ろに!」
ここは作戦「いのちだいじに」しかない。
とりあえずみんなして防御に徹する以外に道はなし。
全員で隠れるとなると、まぁまぁ窮屈です。全員で体育座りです。
「あっ」
「あっ」
沙羅さんが左手に捕まった。
「次孔さん?」
「左手は攻撃しなくても掴んでくるみたい」
ってことは、左手から攻撃しないと駄目だったようですね。
右足から近いからとかいう、どうでもいい理由で選んじゃ駄目だったようですね。
「……」
全員無言です。
まじでどうしよう。
「どうします、先輩?」
緊張感のない口調なのは、あいちゃんである。
人工知能には、空気を読む機能が搭載されてないようですね。
「逃げる?」
「あ、逃げられないです」
にこにこと答えるあいちゃん。ははは。ムカつく。
なんで逃げられないんだよとも思いますが、ラスボス戦なんて逃げられないのが普通だよね。
そもそも、二人が捕まってる状態で逃げていいとも思えないが。
とはいえ。
頭が強力な攻撃をチャージしている雰囲気の中、どうしていいかとみんなを見る。
体育座りのままの真姫ちゃんが手を上げた。
「いちかばちか、頭を殴ってみるとか」
「なるほど」
確かに、攻撃で技をキャンセルさせるパターン、あるな。
両手は二人を掴んでいるので、今なら防ぐことは出来ない。真姫ちゃん、ナイスアイデア!
「よし、みんな、頭を攻撃だ!」
「「了解!」」
ということで、なんかすごく一体感のある、うまくいく感じのする流れだったが。
うんともすんともなりませんでした。
全攻撃が終わっても、ミュインミュインとパワーを貯めていく義朝の頭。ダブルゼータガンダムのハイメガ粒子砲のように。モンスターすぎる。
「次孔さん、どんな感じ?」
「あと二回同じ攻撃をすれば倒せるかな」
「ということは、この一撃を耐えきれば、なんとかなりそうだな……」
一撃を耐える。
とはいえ、もうみんなは攻撃をしてしまったわけで。
次孔さんは戦況分析しかできないし、あいちゃんはロボットを操作する役割だ。
動けるのは、攻撃に参加していない、てんせーちゃんと……
「俺だ。というか、俺しかいない」
俺はてごめにするを実行し、仲間にしていくのが仕事だったわけで。
この大きすぎる怪獣のような相手に、何も出来はしない。
この場において、唯一の役立たず。それが俺だ。
「俺が犠牲になる。みんな、後はよろしくな」
「えっ?」「ちょっ」「それはさすがに」
一応引き止めてくれる雰囲気だが、他に方法はない。
俺は、義朝の顔を駆け上り、攻撃の入り口に。
「ロト!」「ロトさん!」「イーナさんはどうするの!?」
そうだな。
イーナちゃんのために戦っていたんだ。
それでも俺は、こうするしかないんだ。
義朝の頭がカッと光った瞬間、俺は……




