異世界メモリアル【12周目 第28話】
「なるほど、なるほど。勝てる気がしない」
次孔さんの魔法は攻撃でも回復でも防御でもなかった。
余裕綽々の戦況分析という魔法は、敵軍の様子が全部わかるというもの。
これはすごい魔法だ。どのくらいすごいかというと、ファイアーエムブレムでバトルが始める前と同じくらい全部わかる。
敵の配置、敵のレベル、使える技。防御力、攻撃力、体力、移動スピードなどなど。
全然違うよね。わかってると。
江井愛の場所もバッチリ判明。
ようやく戦略が立てられるってもんですよ。
ところがですよ。
「ロボット強すぎじゃない?」
俺は次孔さんに問いかける。
「ショボーン(´・ω・`)って感じだよねー」
次孔律動は、ポニーテールの元気っ子。
背はやや低め。胸は小さめ。目は大きくてキラキラしている。
左のもみあげのところに音符の髪留めをつけているのがポイントだ。
「倒さないっていうのも、無理そうだしねー」
「そうなんだよなあ」
くノ一は回避がすごかったが、攻撃力は大したことがなかった。だから無視するという方法が取れたわけだけど。
ロボットはスピードと回避はないが、攻撃力と防御力が高すぎる。
江井愛の配置もガチガチに守りが固められていて、次孔さんのときみたいな強襲は不可能。ロボットは倒していくしかない。
しかも、ニコより攻撃力が高いというのは、クリーンヒットしたら即死もありえるレベル。
防御力については鞠さんの攻撃じゃ無傷。
一番強い真姫ちゃんのいわゆる、ため攻撃である魔法全身全霊の一撃でも倒せないっぽい。お手上げじゃん。
「やっぱレベル上げ必要では?」
山賊の討伐とかで、なんか能力あげられないの?
もしくは伝説の武器とか手に入れるクエストないの?
「そんなものはない」
「沙羅さん、そんな関羽みたいに言わなくても」
「そんなものはない!」
「星乃さん、言いたくなったから言ってみたとかいいから。結構三国志好きだよね」
それはともかく。
レベル上げイベントはないらしい。じゃあどうしろっていうんだ。
現状のままで勝てるとは思えないぜ。
レベル上げ以外の方法でパワーアップ……。
「あれは? あの、女の子となんか親密になって強くなるやつは?」
あるのよ。
この手のゲームでは結構定番なのよ。
なんか主人公と仲良くなることで能力が開放されるとか、新しい技を覚えるとか。
サクラ大戦みたいに、戦闘の前にデートした方が良くない?
戦闘のときに合体攻撃が出るようになるんじゃない?
「なるほどいいですね」
「うん、ありがとう実羽さん」
実羽さんはとにかく俺といっしょに居たいだけだ。
「ニコはどう思う」
「デートしたいだけだろって思う」
「デートしたいだけじゃないよ、キスもしたいよ」
「あっそう」
つれないなあ。
でもそれがよかったりして。なんだろう、チョロい実羽さんよりこの方が惹かれるんだよな。
「次孔さん、デートしようか」
「ロトっち~、残念ながら非戦闘員なんだよねー」
そうなんだよねー。
くノ一ユニットを三体出せるが、本人は戦場に出ないタイプなのよ。
「ふみゅー。そんなにてんせーちゃんとデートしたいの、ロトにゃんは」
「そ~なんだよぉ~」
「しょうがないにゃあ」
てんせーちゃんは優しいなあ。
「ヒーラーを強くしても意味がないのでは?」
沙羅さんは冷たいなあ。
いや、自分もデートしても意味ないと思って拗ねてるのかもしれないなあ。うんうん。本当はキスするの大好きだもんね。
「あたしが強くなりゃいいのか?」
「おっ? 真姫ちゃん、俺とデートしたい?」
「ん? 強くなるのが目的なんじゃないのか?」
「おお。さすがトラだぜ」
「へへっ。まーな」
真姫ちゃんをトラって呼ぶの、何十年ぶりだ?
思い出すよなあ、あの修行の日々を……背中のおっぱいを……うん……おっぱい。
「じゃあ、おっぱい触りに行くか」
「やっぱやめようかな」
真姫ちゃんには土下座して、普通にデートに行った。
といってもここは占領したばかりの戦場ですので、テーマパークなどではなく海辺を歩くという感じ。
俺からすれば、場所なんてどうでもいい。
もう会えないと思っていた彼女たちと、再びデートができる。こんなに嬉しいことはない。
腕を組んで欲しくて腰に手を当てているが、真姫ちゃんは気づかずにぴょこぴょこ歩いている。
なんとなく立ち止まり、海を見た。
「すごい波だなあ」
「だなー」
サーファーなら喜ぶのかなと思う波。
個人的には日向小次郎がタイガーショットを開発した場所だな。300くらいガッツを消費するけど、ディフェンダーを3人くらい吹っ飛ばして、ゴールネットも破いちゃうやつ。
ろくにサッカーやったことないけど、テクモのキャプテン翼のことには詳しい。それが俺。
タイガーショット……トラ……。
「はっ!?」
マヤわかっちゃった!
「この波に向かって、全身全霊の一撃を打つんだよ!」
「え? なんでだ?」
「この波に打ち勝ったとき、パワーアップするんだよ」
「そうなのか?」
少し疑問はあったようだが、素直に修行を開始する真姫ちゃん。
「はーっ!」
「もう少しだ!」
波を、波を撃ち抜くんだ!
「はあーっ!」
「おお!?」
寅野真姫の必殺魔法がシン・全身全霊の一撃になった!
「なったがなー!」
「なるもんだな」
デートでパワーアップは可能だった。
さあ、デートを始めよう!




