異世界メモリアル【12周目 第25話】
「撤退、てったーい!」
俺はそう叫ぶ以外に何もできなかった。
同じゲームとは思えない難易度。
ニコ・ラテスラ軍は、あまりにも強かった。
本当に一瞬で敗北した。戦闘時間は四十秒といったところ。
雲も何も無いところから、正確無比な筒状の稲妻が降り注ぐ。いや、稲妻というよりも、ビームライフルといったほうがわかりやすいだろうか。桃色の熱を持った光線。
大きな音も無く、ピシュっと小さな音が出るだけで、気づいたときにはみんな致命傷。
星乃さんの絢爛豪華の熱光線よりも射程距離が長く、何もさせてもらえなかった。
本当に恐ろしい攻撃力だった。思い出すだけでゾッとする。
実羽さんは左半身が焼き切れ、来斗さんは背中がえぐり取られ、星乃さんも右腕が無くなった。
血は流れ、体の焼け焦げた匂いが漂っていた。
今はなんとか撤退したところ。追撃をされていたらまず全滅していただろう。
あまりにも凄惨な状況。
これが魔法なのか。これが戦争なのか。これが戦国ロトなのか。
リアルで、悲痛な、戦場に絶望しそうになる。
「死ぬことはないとはいえ……」
てんせーちゃんが必死に、実羽さんを回復魔法で治癒している。
この世界、生き返らせることはできないのだが、魔法に守られているため死なない。絶対に。
そして、基本的に怪我は治る。魔法で。
そうでなければ、こんなことはやっていない。
そういう意味では、昔のファイアーエムブレムよりは優しいといえる。いや、高額な修復費も必要ないから、スパロボよりも優しいかもしれない。
しかし、それが油断に繋がった。
気楽に攻め込んでしまった……。今までと同じように、大した準備もせずに、何の戦略もなしに。
ニコが天才だと、わかっていたはずなのに。
「……」
来斗さんは痛いという言葉すら発せず、うつ伏せに倒れている。
背骨がないのだ。想像を絶する。
「くっ……」
星乃さんもさすがに弱々しい。当然だ、肩から先がないのだから。
実羽はもっとひどい状況で、現在治療中。
「もっと早く治せればいいんだけど……」
両手から魔法を出しているてんせーちゃんもつらそうだ。ベホマみたいに一発ですぐに治るというわけではなく、じわじわと回復させることしかできない。三人を全回復させるためには、今晩は寝ることもできないだろう。
「俺の責任だ……」
背中も治るし、腕も治る。
だが、痛みはある。死ぬほどの痛みが。
これがゲームではあっても、遊びではないってやつか……。
異世界メモリアル、だったか。あのギャルゲーの世界は。
いかに平和な世界にやってきていたのかを知る。そうだよな、ロールプレイングゲームなんてヤバイよな。
たかだか極寒の地でバイトするとか、その程度で文句を言っていたのが恥ずかしいよ。
「はあ……」
俺は火を起こし、米を炊く。今できることが、料理しかないのだ。
てんせーちゃんは、夜通し回復魔法を使わなければならないし、みんな満身創痍だ。
おにぎりとお茶を用意するくらいしかできない。
「ロトさぁ~ん……」
「ああ、鞠さん」
「手伝いますぅ」
「ありがとう」
鞠さんが無傷なのはよかった。
焚き火の明かりが、長く美しいブロンドに、映える。
顔は……
「うう……うっ……」
「え!?」
鞠さんは涙をぼろぼろ流していた。
俺が気づいてないだけで、実は怪我していたのか?
「ど、どっか痛いの? 無理しないで」
駆け寄って、背中を触ると、彼女は頭を振った。
「わたしだけ無傷でぇ~……申し訳なくてぇ~……てんせーちゃんみたいに役に立つわけでもないし~……えーん! わーん!」
えずきそうになりながら、弱々しくも、頑張って声を絞り出す鞠さん。一番元気なはずの彼女が、一番悲痛な顔をしている。
「そんなこと……」
確かに鞠さんは回復魔法が使えない。
補助系の魔法が使えるなら大いに役立つが、中距離攻撃魔法という微妙なもの。しかもドジだから命中率が低い。
正直、まだ役に立ったことはない。
「うう……足手まといなのが悔しいぃ……ふぇ~ん」
「いや、鞠さんが無事でよかったよ」
それは本当にそう思っている。
「鞠さんは攻撃されなかったんだね。後方待機してたからかなあ」
来斗さん、星乃さん、実羽さんは、三人は近距離攻撃なんだよな。
だからこそ、遠距離攻撃を持つニコが欲しいということなんだが……。
先に防御魔法を持つ沙羅さんを手に入れるべきだったのだろう。
早く会いたいからとかいう理由でみんなを危険にあわせてしまった……。悔やんでも悔やみきれない。
「いえ、その、攻撃はされています~」
「え?」
あんな正確無比な攻撃をされて無傷……?
「あの~、恥ずかしいんですけど~。つまずいてしまって~」
「あー」
ずっこけたのか。
鞠さんには、よくあること。
つまりニコの攻撃は、正確無比すぎて予想外の動きをした鞠さんには当たらなかったと。
なるほどなー、あははは。
「それだーっ!!」
「ひゃい!? な、なにがですかぁ~」
「ニコに勝つには、鞠さんしかない! 鞠さんだけが勝てると言っても過言じゃない!」
「ええ~?」
翌日。
あえて、俺と鞠さんのみで攻め込んだ。
ニコは鞠さんにレーザービームを打ち込んだが、鞠さんはあっちへフラフラこっちへフラフラで当たらない。
二発も避ければ鞠さんの射程距離に入って、俺が方向を指示。
鞠さんの魔法、天真爛漫な隕石が炸裂し、ニコ軍は沈黙。
俺がニコを捕獲し、勝利となった。




