異世界メモリアル【12周目 第20話】
「まず婚約破棄を言い出すって、代わりに結婚するってことになってしまうのですよ?」
「ああ。うん、まあ、そうなるよね」
「そうなるよねって……名前も知らなかった、いいえ、名前も教えなかった女と結婚するというのですか?」
「のえみちゃんがイーナちゃんだったからって、別に何も変わらないよ。好きな女の子と結婚したいって、普通のことだよ」
「普通じゃないですよ! ……もう……」
確かに普通ではないのかもしれない。
ただ、普通の人は、何度も結婚した経験がないからね。
俺はほら、エンディングのほとんどが結婚だからさ。
だから、そんなに顔を紅くする必要はないんだよ。
「こほん。それにですね」
「はい」
とりあえず恥ずかしさを棚に上げるようです。いいですよ。
「うちはとても貧乏なんです」
「あー。はいはい」
「はいはいって。お金がないとかいうレベルではないのです。借金がとんでもないことになっているのです」
「あー。はいはい」
そんなの慣れっこなんですよ。
金をものすごく稼がなきゃいけないとか、あるあるなんですよ。
むしろそういう展開になると思ってて、ならなかったことにちょっとがっかりしてましたよ。
「でも、メイドさんいたけど?」
そこまで金が無いのにメイドを雇ってるのか?
「いませんけど……」
「いや、メイド服着た人が出迎えてくれたよ?」
「……出てくるのに、待たされましたか?」
「ああ。うん。なんか遅かったな」
なんでわかったんだろう。
そう、メイドにしちゃあ、すぐに出てこなかったな。
「それはお母様です」
「ええ!? あー、でも、確かにきれいな人だったもんな……」
「むっ」
「言われてみれば似てるなあ」
「むむ」
眉毛は怒ってて、口は喜んでいるような、微妙な顔だな……ひょっとして嫉妬しつつ喜んでいるのかな。
そう思ってじっと見ていると、こほんと咳払い。気を取り直したらしい。
「メイドがいないからお母様自らメイド服を着るくらい貧乏なんです。ズッケ家はその貧乏っぷりがしれわかっているから、恥ずかしくて偽名を名乗っているほどです」
「あー、そういうこと?」
パリティビット家のお嬢様っていうのは、そういう理由だったのか。
「正直、こちらは恥ずかしくてもいいのですが、アンセ家に恥ずかしい思いをさせてはいけないと」
「あー。実家にいたらバレちゃうから、一人で住んでるのか」
「そうです。アンセ邸にいたらわかってしまうので、婚礼の儀式まではパリティビット家の病弱令嬢という設定でこっそりと生きることになったのです。12歳の誕生日から」
みんな貧乏が悪いんや。
「なんで貧乏なのか聞いてもいい?」
「当然の疑問ですよね……恥ずかしいのですが、お伝えするべきことです」
ふーむ。
恥ずかしい理由なんですねえ。
なんだろうな、ギャンブル狂とかかしら。
「貴族というのは、つまりは領地の税収からお金を得るわけです」
「ふむふむ」
「税収がとても少ないということです」
「ほうほう」
「なぜかということですが……」
言いにくそうだな。
当ててみるか。
「優しすぎて、税を取り立てられないとか?」
「惜しい!」
惜しかった。
マジでクイズになるとは思わなかった。
「えー? じゃあ、なんか貧しい人にあげちゃうとか?」
「そんなにカッコいい理由じゃないっ!」
そっか……そういう理由だったら恥ずかしくないのか。難しいもんですな。
税収……年貢……野望……。
ってことは……イナゴが大発生とか……いやそれなら恥ずかしくないか。しょうがないもんな。
「んー。なんか単純に政治が下手すぎて、領地のみんなが貧乏とか?」
内政を疎かにして、開墾とか治水とかちゃんとやらなかったら年貢が少ないからね。茶器集めに夢中になってちゃ駄目なのよ。
「ではないんですねー」
「ああ、そう……」
人差し指を立ててちっちっちじゃないんですよ。
なんでガチのクイズ番組みたいになってんだ。
もういいよ、答え言ってくれよ。
さっきお伝えするべきことですって言ってましたよね?
「わかるかなー?」
別に当てなくていいのだが。
お伝えするべきことですよ?
「当たったらご褒美のキスです」
「はいはいはいはい!」
ぜってー当てる!
えっと、取り立てられないのが惜しいんだよな。恥ずかしいんだよな。
「領民に完全にナメられてて、誰も税金を納めてくれない」
「大正解でーす!」
うっひょおおおお!
やったぜええええ!
俺はキス待ちのため彼女に顔を寄せる。
頬でもいいけど、お口がいーな。
……。
……?
「キスすると言って、しない。領民がしているのはそういうことなんです」
「うおおおい!? 俺もナメられてるんですねーっ!?」
許さないぞ領民!
俺が取り立てりゃいいんだな?
やったるぞオイ!
「今はアンセ家のおかげで取り立ては成功しています」
「なんだ……」
取り立てのクエストかと思ったのに。
「が、借金はまだまだあります」
「わかったよ。まあ、お金は俺がなんとかしますよ」
そういうミッションってことでしょ?
「しかし問題はそれだけじゃないんです」
「お、そうなの?」
「なんで嬉しそうなんですか。お金だけの問題なら、自分で稼ぐ方法もあります」
「確かに……」
早く手術しないと……みたいなタイムリミットがあるわけじゃないのなら、普通に稼いでもいいかも。俺がホストで稼ぐのもありだし……
「イーナちゃんならちょっと服を脱げば稼げるもんね」
「そういう仕事じゃありません!」
ちょっと怒らせてみたかったので大成功。
イーナちゃんに服を脱がさせるくらいなら、俺が金を掘りに山に入るよ。チャンピオンシップロトランナーするよ。
「いいですか。我が家は貧乏ながらも貴族ではあるのですが、子どもがわたくししか生まれませんでした」
「ふんふん。お姉さんや妹が居たらさぞ可愛かっただろうに。もったいないね」
「そういうことじゃありません!」
怒らせすぎてしまったか?
でも、なんか元気出てきたし、いいか。
「男子がいないから、存続できないということです」
「なるほど? 俺が婿入りしたらいいのかな?」
「貴族じゃない婿が来たら、おしまいです」
おしまいDeathか!?
「ん? つまり?」
「ロトさんではダメということです」
「えっ」
じゃあ、設定上ムリじゃん?
やっぱりクリアできないキャラってことじゃん?
クソゲーすぎじゃね?
「だから……貴族になるしか……」
「貴族になる方法あるの!?」
「あります」
なるほど、こっちが本当のミッションだったか……。
果たしてこの世界が示した貴族になるため条件とは……。




