異世界メモリアル【12周目 第18話】
「なんてところに住んでやがるんだ、金持ちのくせに……」
俺は途方もない山奥にやってきていた。
こんなけもの道を……いや、だからこそそれっぽいな……。
「どうせ苦労しないといけないに決まってるもんなあ……」
ああ、尻が痛い。太ももはパンパンだし、そろそろ水も探さないと。
俺がなぜ、登山の準備をして、馬を借りて、10日もかけてキャンプしながらの旅をしているかというと。
「まってろよ婚約者……」
のえみちゃんの攻略。
その可能性が出てきた。
実羽さんと星乃さんが言うには、彼女を攻略できないのはモブだからではなく婚約中だからではないかと。
舞衣はそうだとは教えてくれないが、攻略対象が一人もいなくなったというのに、特に慌てた様子もない。誰も攻略できないという事実上のゲームオーバーにしては、どうも落ち着きすぎていた。
婚約を破棄させる。それが攻略可能となる条件。
きっと。おそらく。いや、絶対に。
のえみちゃんの婚約者に会って、婚約を破棄させるんだ……!
「今日は無理か」
ようやく屋敷は見えているのだが、もうすぐ日が暮れる。
夜分に伺うのが失礼、ということもあるが、暗いところで馬に乗るのは危ない。
川の近くを選んで、キャンプを張る。
火をおこして、水を沸かす。
適当に食材を入れて、ちょっとした鍋料理をつくる。毎回こればかりだ。
料理のステータスが存在しない世界のアウトドアなんて、細長い米を炊いて食うだけ。
馬にも餌をやる。ドッグフードみたいな馬用の餌だ。なんかいろいろ配合されており、馬のほうがいいものを食ってるまである。
「馬術、必須だったな」
馬に乗れなかったら、行くすべがない。
料理はいらんが、馬術は必要。ステータスは、世界にあわせてできている。
つまり、馬術以外のステータスも重要であるということだろう。
翌朝。
午前中に屋敷へと到着した。
重厚な扉をノック。
「ごめんください」
馬を降りて、スーツに着替えて。
帽子を取りながら、きちんと挨拶。
俺は強奪しにきたわけじゃないからな。
礼節は大事だ。そう、礼儀作法である。
執事が扉を開けた。門を通った時点から、俺をチェックしていた。礼儀知らずであれば、追い返されたと思われる。
「……どうぞ」
上から下まで、ジロジロと見られる。ルックスのチェックだろう。
この世界においてルックスとは、顔立ちだけではない。服のサイズが似合っているか。襟が汚れていないか。シャツがヨレヨレなど論外。靴もピカピカでなければならない。ここに到達する時点での要求としてはなかなかのもんですよ。
案内してくれるかと思ったら、執事はエントランスで立ち止まる。
「旦那様は、一番高価な壺が飾ってある扉の部屋におります」
うへえ……RPGの地味なイベントみたいだな。
しかし必要なステータスは、教養とセンスだな。どういう壺は高価であるかという知識と、芸術性の目利きが試される。
「なるほど……こっちとこっちじゃ明らかにこっちの方が貴重……右側が使用人たちの部屋だな。左か……」
壺はいっぱいあるし、全部高級っぽいが、このようにして選択を続け、二つまでは絞り込む。
「ううーん」
どっちも高級そうだし、センスもよく見える……。
待てよ、そういえば……のえみちゃんは「瑠璃は貴重」と言ってたな。壺が同等であっても、釉薬の値段が反映されるはず。
俺は瑠璃色の花が描かれた壺の扉へ。
「失礼いたします」
「入り給え」
あってたー!
中は、まるで校長室のような感じ。
どでかい机に、どかっと座ってる。ピシッとしたフォーマルな服装、オールバックの短い髪。がっしりしていて太っていない。ヒゲは丁寧に剃られていて、清潔感がある。
まー、紳士的なイケメンだけども、30歳前半といったところだ。いかにも政略結婚だな。
「なんのようかな」
「婚約を破棄してほしい」
「突然なんだ。失礼だな、君は」
「入室する前に、失礼いたしますと言いましたが」
「ふっ……確かに」
意外にもウケた!?
ちょっといいやつかも……と思ってしまう。
「しかし、そのような願いを叶えるわけがないだろう」
「……どうしても?」
「そうだな……君がそこで裸踊りでもしたら気が変わるかもな」
なるほどなるほど。
ここでダンスのステータスが活きてくるわけか。
よっしゃ、ここは一つ、俺の本気の裸踊りをみせて、婚約を破棄させてやるぜ!
「なわけないだろ! 裸踊りが上手だからって理由で婚約を破棄するやつがどこにいんだよ!」
「そうか? 我々にとって一番大事なのはプライドだ。それを捨てて願うということは本気ということだと判断するが」
「えっ? じゃあ、本当に?」
「もちろん冗談だ」
「ちっくしょー!?」
弄びやがって!
やつは「くくく」などと失笑してやがる。
「なかなかおもしろいな君は」
「そりゃどうも……俺はロト」
「名乗られて答えぬは恥。私はアンセ家のフィーだ。アンセ様でいい」
「わかった。フィーと呼ばせてもらう」
「ふっ……それで? イーナとはどういう関係だ」
「ふっ……えっ? イーナっていうの? フィーの婚約者の彼女?」
「ズッケ家のイーナだが……なんだ、名前も知らないのか?」
「のえみちゃんっていうあだ名で呼んでたんでな……」
「なんだそれは……ふふ……」
またしても堪えきれずに笑うアンセ家の男。こんだけ笑わせたんだから、婚約を破棄してくれてもよかろうに。
「それで? 君……ロト。ロトがイーナと結婚したいと、そういうことでいいのか?」
「そ、それは……」
攻略したい、というのはそういうことではあるのだが……。
まだ攻略対象にもなっていない。親密度も見えていない。
そんな状態では……
「なんだ。その覚悟もなしにここまで来たのか」
「くっ……」
「そもそも、こちらから婚約を破棄することはできない。この婚約は相手のご両親から頼まれたものだからな」
……え?




