異世界メモリアル【12周目 第16話】
それはそれ。これはこれ。
ですのでね、やってみていますよ。
ちゃんと実羽さんをデートに誘いまして。
「やあ、実羽さん。今日の服、似合ってるよ」
「ありがとう……じゃあ、行こうか」
待ち合わせ場所では服を褒めて。
「美味しいね」
「うん」
ランチはオシャレなビストロでパスタ。
「星の光って、何億年も前の光なんだよね」
「すてき……」
プラネタリウムでお約束をし。
「じゃあね、実羽さん」
「うん。デート楽しかった」
「またね」
マニュアルに載せられるレベルの、お手本のようなデートである。
そしてその後、のえみちゃんの家に。
「のえみちゃん。会いたかったよ、のえみちゃん」
「だから、のえみって名前じゃ……んっ……」
「そう言いながら、舌を入れてくるんだもんなあ」
「ん……そういうことは……言わないで」
濃厚。
濃厚な口づけ。
実羽さんとデートをして親密度を上げた後、すぐに攻略できないヒロインの所に行ってキス。
そんな日々を過ごす。
そう、これが俺の革命だーっ!
「駄目だ―っ!」
なんだよ俺。
やべーだろ。
いや、ギャルゲーって結構二股どころか何股もかけることあるけど。
そういうタイプのノベルゲームもあるかもしれんけども。
無理だ。
この生活は無理。
自分で自分にドン引きだ。
どうすりゃいいんだ……困ったときの妹頼み。
自分の頭で考えるなんて無駄なことをしてもしょうがないんだよ。舞衣さまのいうとおりにするんだよ。
そして俺は舞衣が来るまで考えるのをやめた……。
「どうしたんですのお兄様」
待ってました!
なんも考えずに生きてました!
ただデートをして、その後キスをするだけの日々を!
「待ってたよぉ~」
「あらお兄様。いつにもまして情けない顔ですわね」
妹に情けない顔を見せてこそ兄。
そのくらいの強い気持ちで待ってました。きりっ。
「舞衣……舞衣の言うとおり、二股かけることにしたんだよ」
「そうは言っておりませんわよ」
「えっ?」
いや、だって。
「誰が好きかはともかく、攻略は攻略と割り切ってやれって」
「そう言いましたわ」
「じゃあ、二股じゃん」
「違いますわよ」
ぽかーん。
また俺は何も考えるのをやめた……。
舞衣が俺の目の前で手を振っている。
「ごめんごめん。ちょっとわかんなくなっちゃった」
「はあ。そもそも何を今さら言っていますの?」
「へ?」
「お兄様は今までだって、そうやってきたじゃありませんの」
「ほ?」
頭がちっとも働かないぜ……。
あやうくもう一度意識が飛びそうになるが、舞衣がじろりと俺を見る。かわいい。意識が戻った。
落ち着け、落ち着いて考えよう。
俺がずっと二股かけていた?
うーん?
いや、そんなことは……。
舞衣が今言っているのは、この12周目のことではないのだろう。
俺がこの世界……舞衣がいる世界にやってきてからのこと。
そのときから……。
またしても頭がポワポワしてきたな。
「お兄様」
「はい」
人差し指をピンと立てている。
どうやらヒントを出してくれるようだ。
呆れたともいう。
「お兄様は複数の女の子と出会い」
「ふむ」
そうだな。
いろいろな女の子に会った。
実羽さんもだが、ニコやあいちゃん、来斗さん、真姫ちゃん……出会ったなあ。
「基本的にみんなのことを好きになり」
「確かに」
それもそう。
沙羅さんも鞠さんも、次孔さんも……好きになったなあ。
「誰かを攻略すると決め」
「そうだな」
決めてた。
二年の二学期頃にはだいたい。
「全力で攻略する」
「おう」
全力だった。
そりゃもう、全力出してたよ。
「じゃあ、他の女の子は好きじゃなかった? 攻略対象以外は興味なくなった?」
「そんなわけない」
攻略対象を決めることは、ただ攻略すると決めただけ。それはそれだろ。
それはそれ……。
「攻略した後はどうでもいい?」
「そんなわけない」
そうだったらどれだけ楽だったか。
ブロマイドをどれだけ大事にしているか。
「好きな人のことを忘れないで、それでも次の人を好きになって。そうやってきたじゃありませんの」
「そうだ……」
そうだったよ。
そうか、俺は今までずっとそうやってきたんだ。
それはそれ。これはこれ。
大好きな人を愛して、攻略して。
大好きな人がいなくなった世界で、また次の人を好きになって攻略して。
それを何度も何度も繰り返してきたんじゃないか。
今まで攻略した人を嫌いになったのか?
なるわけがない。
誰が一番か?
みんな一番だ。
だけどそれは二股じゃない。
俺は二人を同時に天秤にかけていたわけじゃない。
いつも全力で、好きになっていたんだ。
だから、モヤモヤしなかったんだ……。
のえみちゃんは、モブかもしれない。だからって嫌いになる必要はない。
また会えるかもしれないし、そのときは攻略できるかもしれない。
のえみちゃんのことは好き。それはそれとして。
実羽さんを攻略すると決めたなら、俺は全力で実羽さんに向き合うべきだ。
「それに本当に一番好きな人は攻略できないじゃありませんの……厳密にいえば攻略できるチャンスを逃したじゃありませんの……」
「ん……?」
「攻略できない相手を好きになるのはいいけど、なんであの人ですの」
「んん?」
なんかまたよくわからなくなってしまった。
もう舞衣は何もしてくれず、帰ってしまった。ステータス教えてもらってないのに……。




