異世界メモリアル【12周目 第15話】
「おっ、ロト。ついにデートに誘いに来たか!」
「ロトさん、少しはマシになってきたので、いいですよ」
ああーっ!
無理!
全然誘いたくない!!
「約束通り、キスします」
ああーっ!
のえみちゃんからは待ちに待ったキスのOKが出たが無理!
この状況でやったぜチューとなるほど人間できてねえ!
「舞衣の言ったことなんて無視するぜ!」
ああーっ!
それも無理。
とりあえず口に出してみたけど全然無理!
舞衣に嫌われることは一番無理。それだけは無理。
「はあ……」
「ため息しながらのダンスは失礼ですよ」
「ごめん……」
キスもできず、せっかくダンスの練習をさせてもらってもこの体たらく。
こんな様子なので、ステータスの向上もよくない。
なにもかもうまくいかない……。
どうすればいいのか……。
そもそもステータスを上げるのは何のためだったか。
星乃さんも実羽さんも、とっくに俺への親密度がカンストレベルなのに。
のえみちゃんは攻略できない。
攻略できないけど、ルックスを上げたらキスしてもらえるから整形したんだよな。
……はぁ……。
ため息しかでない……。
余計なことを言わなければ、何も考えずにのえみちゃんとキスして幸せだったのに。
なんで舞衣はあんなことを……いや、言っていることはわかるんだ。
気にせずキスして、それはそれとしてデートに誘えばいいだけ。
でもなぁ……うーん……ああ……。
考えても考えても、堂々巡り。
何にも集中できず、何もやる気が出ず。
ただ日々が過ぎていく。
このままではまた舞衣にボロクソに言われてしまう。
やばいやばい、どうしよう。
二人のどちらかを攻略しないといけないと思いつつ、どちらに声をかけていいのかもわからず。
どちらも攻略したいならともかく、どちらもしたくないのだからつらすぎる。
この思いが伝わってしまったのかどうかわからないが、星乃さんに呼び出された。
放課後の校舎裏だ。
誰も通らないし、誰にも見られない。殴られてもおかしくない……ありえる……無視してばかりだし……。
「来たなロト!」
「あ、はい……」
さっさとデートに誘えと、そう言われるのだろうか。
もっとステータスを上げろと、そう言われるのだろうか。
いっそ、死ぬほどつらい思いを繰り返せとかな。その方が楽かもね。
「実は頼みがある!」
「あ、はい……」
笑顔でお願いポーズしてきた。
この雰囲気、殴られたりする感じではない。
本当に頼み事がある様子。
なんだろうね。
自分を攻略しろって言われたら、それに従うのもいいかもな。
って、攻略とか口にしたら、もう攻略対象から外れてしまうんだけどな。
星乃さんはそれを知っているから、そんな頼みごとはしないか。
「攻略してほしい!」
「ええ!?」
言っちゃったよ。
言っちゃ駄目なのに、言っちゃったよ。
駄目だよ、攻略してほしいときに、攻略してほしいって言っちゃったら。
普通に、好きになってくれとか、もっと一緒に居たいとか、そういう風に誘ってくれないと。
星乃さん、意外とおマヌケなのかしら。
「星乃さん、それはどういう……」
「実羽映子を攻略してほしいんだ!」
「な!?」
ま、まさかの申し出だった。
だって、星乃さんは俺のことが好きなはず。
なんで別の人を攻略してほしいなんて……。
「彼女は本当に君のことが好きなんだ!」
それは知ってる。知ってるよ。
そして、星乃さんもそうだってことも。
それがわかってても、俺は……。
「彼女は、自分のことは攻略しなくてもかまわないと思っている!」
まあ、そうだよな。
ずっと記憶を保っているからね。いままでも攻略してないもの。
その代わり強制的にデートさせられたりはしたけれども。
「だから、君が他の女性のことを好きでも、それは構わないんだよ!」
知っている。
知っているが……。
「だが、誰かを攻略している君のことが好きなんだ!」
それも知っている。
だからモブキャラと親しくしていることが気に食わなかったということもだ。
「ずっと君に攻略されたいと思っていたはずなんだ!」
そうだよな……。
実際、彼女の立場になってみたら理解はできる。
ずっとアピールしていて、ずっと仲良くしていて。
今度こそ自分、と思い続けてきて。
それでモブキャラの方が好きだって言われたら、そりゃキツイよな……。
「だから、彼女を攻略してくれ! 頼む!」
頭を下げられた。
正直、この申し出はありがたかった。
そもそも今の会話で、星乃さんを攻略する道はなくなったわけで。
これで選ぶ必要がなくなった。
「わかったよ、星乃さん。俺、実羽さんを攻略するよ」
「おお! そうか! そうか、よかった!」
両手を握って感謝される。
いや、感謝したいのは俺の方だ。
実羽さんを攻略するモチベーションがもらえた。
星乃さんだって、自分を攻略してほしかっただろうに。
この自己犠牲精神。涙が出る。
「よかったよ、そう言ってもらって。どうしようかと思ってたからさ」
「そうか! ちょっと可能性あったのか! 損したか!?」
「ははは」
強いなあ、星乃さんは。
ずっと笑顔で、俺を見送ってくれた。
これで気持ちが固まった。
迷いがなくなった。
その日、おれはのえみちゃんとキスをした。




