異世界メモリアル【12周目 第11話】
「さて、お兄様。現状を確認いたしますわ」
このセリフは言うまでもなく、舞衣である。決してメジロなんとかではない。
この貴族学園編では、令嬢モードなので俺をお兄様と呼ぶが、役割も可愛さも変わっていない。
しかし今回、親密度をまだ教えてくれない。
「親密度は……」
「あ、お兄様、親密度を知りたいのですね」
「そうなんだよ」
「わかりましたわ」
わかってくれるんですね。言ってみるものです。
「まずはステータスだね」
「そうですわ」
【ステータス】
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教養 24(+19)
礼儀作法 42(+33)
ダンス 75(+73)
ルックス 20(+11)
センス 88(+80)
乗馬 133(+113)
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よしよし。
ほぼほぼ思った通りだ。
ステータスの内容が変わっても、学校に行くだけではうまく行かなくても、俺は順調にステータスを向上させている。
「よく頑張ってるな俺」
「はい、さすがですわお兄様」
舞衣は本気で俺を称賛してくれている。さすが舞衣、よくわかっている。
それに比べて……よくもまあ文句が言えるよな。あいつら。
俺が生きてるだけでも、文句があるに違いない。
思い出すだけで腹が立つ。
それに比べて、のえみさんは……。
出てくれ、のえみさん!
攻略させてくれ、のえみさん!
【親密度】
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実羽映子 [会えただけで幸せになれるくらい好き]
星乃 煌 [毎晩寝る前に想うくらい愛している]
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やっぱり出て来ないのか……?
「のえみさんは?」
「え? 誰?」
「この前説明したじゃん、あのキレイでおしとやかで優しくて可愛くて最高の女の子」
「や。だって、そんな名前じゃないよね。じゃない、名前ではないですわ」
キャラ忘れちゃうくらい動転してるよ。
というかやっぱりこのキャラは演じてるんですね。
落ち着いて。舞衣のことは愛してるよ。
「まあ、俺もね。攻略できないということはわかってるのよ。諦めてるのよ。だからのえみなんだよ」
攻略できないが魅力的なキャラクターというのは、昔からいるものです。
「あだ名ってことですの?」
「そうね。だって名前わかんないだもん。名前つけるしかないでしょ」
そして、それはのえみしかない。
妹じゃないけどのえみです。
「いくらカワイイからって名前わからない人にあだ名つけてまで……」
軽く呆れる舞衣。
それくらいで呆れられては困る。
「いや、俺は馬の世話してるおじさんにも名前つけてるけど」
もちろん、冴島さんのことだ。
あの人も冴島さんとしかいいようがない。
「えーっ!? そんなことしてるんですの、お兄様」
「そうだよ。見直した?」
俺のことはなぜか知ってることの多い舞衣だが、これは知らなかった様子。
まあ今回は一緒に住んでないし、俺も攻略を助けて欲しい態度じゃないしな。
舞衣を見ると、見直したとは程遠い表情だった。
「いえ、この親密度を見てお二人以外の話しかしないので、正直ドン引きですわ……親密度を知りたいって言ってたのに」
はあ。
だってあいつらが俺のこと好きなのは別にわかってるし。
好きと言ったって、歪んだ好意だし。
やつらは俺の幸せを願っていない。
俺の不幸を愛している。
女性とワインを飲む俺に、泥水を啜れと迫る。
楽しく踊る俺に、醜く這いずり回れと言う。
それって恋として正しいんですか?
それって本当の愛なんですか?
「お、お兄様?」
俺はのえみちゃんに、笑顔で居て欲しい。
俺はのえみちゃんに、幸せになって欲しい。
一緒においしいものを食べたい。
一緒にいるだけで嬉しい。
こっちの方がまっとうな恋愛じゃないんですか?
いや、むしろこれこそが純愛だね。
攻略できるからする?
好きでもないのに、攻略する?
攻略できないから、好きにならない?
好きだけど、攻略できないから、諦める?
その方がよっぽどおかしいだろ!
打算的だ!
計算ずくだ!
偽りの愛だ!
いままで攻略してきたヒロインたちのことを思い出す。
俺は当初、彼女たちには好かれてなかった。けれど、俺が好きになっていった。
俺のことを散々ボロクソに言ってた沙羅さんとか、次孔さんとか、あいちゃんとか。
決して好かれてなかった。親密度を見るのがつらかった。それでも俺は、本当に好きになっていったんだ。
あれは嘘じゃない。
でも、今は。
星乃さんにも、実羽さんにもその思いは無い。
「俺はね。舞衣……」
なんとかこの思いを伝えようとする。
なんと言えば、伝わるのだろう。
「ど、どうしましたの、お兄様。なんか革命でも起こしそうな雰囲気ですけど」
革命!?
「それだ!」
「それだ!? どれですの!?」
そうだよ革命だよ。
敷かれたレールを走るだけの俺はもう終わりです。
考えてみればね、星乃さんと実羽さんは攻略する必要ないもん。
今まで俺が攻略してきたのは、愛を知らないことで成仏できなかった女の子たちですよ。
そんな女の子たちに、俺を好きになってもらって。恋愛を経験して。それで成仏してもらうという崇高な目的があったわけ。
ところがどっこい、この二人は違うんですよ。
罪滅ぼしのためにボランティアをやってる、乙女ゲーム好きの元ヤンと。
なんでもかんでも完璧にこなせるけど、ちょっとデートしたらチョロく落ちちゃったスーパーヒロインだよ。
別にいいじゃない?
攻略しなくても。
そうだよ、あいつらなんてどうでもいいんだよ。
そんなことより、のえみだね。
「俺は、トゥルーラブというものをついに理解したよ。ときめきとか、センチメンタルとか、そういうんじゃあないんだよ」
そう。
真実の愛とは、攻略不可にあるというわけ。のえみと、ウィズ・ユー。これこそ本当の愛。
攻略できない。
どうしても攻略できない。
それなのに、一番好きだと。愛していると。
決して報われない恋だと知っててもなお。俺は好きだと。
これが恋愛じゃなくて、なんだというんだ!
「攻略できない人を愛する、それが本当の愛なんだよ!」
「ええ、お兄様、ついに私を!?」
舞衣がなにか言ってるが、俺はもうのえみのことしか頭になかった。




