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異世界メモリアル【第34話】


「お兄ちゃん、入るよ」

「待ってたよ」


ゴールデンウィーク明けの暖かな夜。

恒例のステータス確認タイムだ。


妹はピンク色の甚平を来ていた。

お風呂上がりの香りが鼻をくすぐる。

もう1年以上この習慣をやっているけど、可憐過ぎて慣れない。


「いつものやつです」


舞衣は慣れてしまったのか、こんな感じだった。


【ステータス】

―――――――――――――――――――――――――――――

文系学力 176(+25)

理系学力 167(+30)

運動能力 188(+37)

容姿   180(+25)

芸術   110(+1)

料理   182(+1)

―――――――――――――――――――――――――――――


「うわ~、頑張ってるね~」

「毎日、眠たくてしょうがないよ」

「23時間55分起きてるんだもんね」


アイテムのおかげで、起きたときはそりゃスッキリしてるよ?

でも23時間も起きてたら眠くて仕方ない。

それを延々と繰り返して勉強する日々。

正直、頑張ってるよね俺。

転生した直後は文字も読めなかったが、もはや第一外国語の本も読める。


「身体もムッキムキだもんね」

「おうよ」


プロレス同好会のトレーニングはガチである。

しかも俺はアイテムで重力を強めているのだ。

1年前は階段もろくに登れなかったが、今や完全にアスリートの身体だ。

俺は両腕の筋肉を見せつけるべく、いわゆるフロントダブルバイセップスのポーズをとる。


「触ってみてもいい?」

「いいぜ」


口調も男らしくなる俺。

妹は右腕の上腕二頭筋を両手で触り始めた。


「うわぁ~、固ぁい。カッチカチになってるよ?」

「お、おう」

「男の人のって、こんなに太く、大きくなるの?」

「ま、まあな」

「へぇ~、すっごーい」


純粋な瞳で筋肉をためつすがめつする舞衣。

小さく開けた口から漏れる吐息がかかる。

すべすべとした絹のような滑らかな指先が腕を這う。

そして、力こぶをぺたぺたと優しく包み込むように両手で包んだ。


「あ、びくびくってなった」

「さ、触られたから」

「ふぅ~ん」

「あ、そこはくすぐったい」

「ここが弱いんだ? えいえい」

「や、やめろ、うわっ、ダメだって」

「ふふっ、なんか可愛い」


あああああ!?

なんかスイッチが入ってしまいそうだあああ!?


なぜだか全くわからないが、無性に興奮してきた!

落ち着け、落ち着くんだ。


これは妹。

眼の前にいるのは妹だ。


ああああああ!!

なおさら興奮するううううう!?


別のことを考えるんだ。

え~っと、あいちゃん。


う~ん、あの人工知能さんは、全く、困ったやつだ。

ふ~。

落ち着いてきた。


って普通逆じゃね!?

普通は、こういうとき、肉親を思い浮かべて冷静になるんじゃないか?

なんで妹で興奮して、恋する相手で落ち着くの!?


やっぱり俺はどうしようもないシスコンクソ野郎なのかよおおお!?


「どうしたの、お兄ちゃん、久しぶりに悶絶してるけど」


そうだね、前はよく悶絶してたね。

それもこれもお前が可愛すぎるからだけどな!


「わかった、あいちゃんのこと考えてるんでしょ?」

「ん? まぁ、そう……かな……」

「ひゅーひゅー! 恋してるねえ、お兄ちゃん」


あいちゃんのことを考えたのは、お前への興奮を抑えるためなんだけどね……。

本当に俺はあいつに恋してんのかな?

我ながら、疑問ですよ。


「はいはい、じゃあ、あいちゃんがお兄ちゃんのことどう思ってるか確認しましょうね~?」


完全に恋するお兄ちゃんを応援する妹モード発動してるわ。

兄の心、妹知らずだな。

いや、知らないほうがいいんだけど。


【親密度】

―――――――――――――――――――――――――――――

実羽じつわ 映子えいこ [チューリップの花くらい好き]

望比都沙羅もうひと さら [なんかムカつく存在]

次孔じあな 律動りずむ [そんなに人工知能がいいのか!?]

寅野とらの 真姫まき [まじ仕方ない]

江井えい あい  [先輩を好きになる確率3%]

―――――――――――――――――――――――――――――


「あいちゃん、ちょっとだけアップしてるよ、お兄ちゃん!」


って、1%しかアップしてねえだと!?

あんだけラブラブデートをして!?

これだけステータスが上昇して!?


「よかったねえ、お兄ちゃん。このこの」


ひじで俺の胸を2回小突いた。

なんか仕草が古くない?

おっさんみたい。 可愛いけど。


しかし、これで良かったと言えるんか?

デートが失敗してるならわかるけど、大成功としか思えない。

それでこの結果では……。

どれだけ理想が高いんだ、あの人工知能さんは。

しかし、もう偉そうに、どこの赤髪ロングメインヒロインだコラァとは思わない。


「舞衣、もっと好かれるにはどうしたらいいだろう」

「かぁ~、お兄ちゃん、アツいね~、ラブだね~」


妹は親指を立てて、片目をつぶった。

やたら嬉しそうだが、少女漫画を読んでいるような感覚なのかねえ。


「やっぱり、まずはじっくり膝と膝を突き合わせてじっくりと話すんだよ、お酒を飲みながらさ」

「ええー!? なにそれ! うまくいってない新入社員と上司みたいじゃん!?」


どういうこと!?

高校生カップルがすることじゃねえ。


「ほ、法律は?」

「出た! お兄ちゃんって、やたら法律を気にするよね」


舞衣はなぜか気にしないよね。


「まず人工知能さんは問題ありません。人じゃないですし」

「あ、ああ。そういえばお酒を飲める機能があるって言ってたしな」


機能があるんだし、飲めるんだろう。

そして年齢という概念がないから年齢制限もないのだろう。


「お兄ちゃんは、アルコール6%未満のお酒が飲めます」

「へぇ~、なんかそれっぽい」


世界的にはお酒はアルコール度数によって徐々に解禁されていく国も多い。

日本人は20歳になった途端に、それまで飲んだこと無い酒を大量に飲み始めるから死んだりするんだろうな。

俺は飲めるようになる前に死んだけど。


「デートで初めてお酒を飲んで恥をかいたら大変だから、まずは私と練習しましょう」

「舞衣も飲めるの!?」

「飲めるようになる! 明日!」

「それって、ひょっとして?」

「明日が私の誕生日だよ」


なーにー!?


「お祝いしないと!」

「ん~、じゃあ、明日のディナーがプレゼントってことで。お店は予約しておくから」


初めての飲酒が、妹とのバースデーデートとは……。


マジ最高だぜ!


この世界に連れてきてくれた神様、今こそ感謝します!

俺はこちらに来てから、初めて祈った。



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