異世界メモリアル【12周目 第6話】
学校もいままでとは違うが、生活もまるで違う。
家ではなく寮に住むことになったし、寮はやたら西洋風。
とはいえ、生きていくのに不都合はなさそうだ。
カーペットにベッド、アンティークな椅子という感じだ。でも室内では靴を脱ぐ。
文明レベルが著しく低下した、というようなこともない。歯ブラシは普通に現代文明のものだし、エアコンなんかも普通にある。ランプも見た目はレトロだが、電気の照明だ。
料理も不満なし。
俺はマッシュポテトばっかりだったら生きていけないが、そういう不安もなさそうだ。味噌汁と納豆は期待できないが。
昔の西洋にあるわけない、オムライスやナポリタンが出てくる。完全に日本料理。
しかし刻み海苔の乗ったたらこスパゲッティは無い。和風すぎるとNGらしい。
水も大丈夫。
ヨーロッパだったらシャワーから出てくるのも硬水なので、髪を洗ったらゴワゴワになるはずだが、日本と同じ軟水。普通に水道から出てきた水が飲めちゃう。
しかしファッションはやたら古風で機能性が低い。そこは譲れないポイントっぽいな。5本指の靴下くらいは許して欲しかった。
ここまで全部含めて、都合よく日本人が考えた中世ヨーロッパという感じだ。
あくまでそういう雰囲気、世界観がいいという話だと。
滅多に風呂に入らないとか、トイレットペーパーがないとか、そういうのは求めてないんだよという感じね。なのでバッチリ整髪料を使った男ばかりです。
日本にある西洋貴族学園風テーマパーク。そう思うのがわかりやすいだろう。
そう考えるとお気楽な感じだが……。
夜。
俺の部屋にノックの音。これは妹のものだ。
寮は男性寮と女性寮に分かれているが、男性寮に女性が入るのは問題なし。逆は即退学というなんとも男女平等な設定だ。
「さて、お兄様。現状を確認いたしますわ」
残念だがパジャマではない。しかしパジャマで男性寮なんかに来てはいけないのでこれでいい。
風呂上がりだが、髪はキレイに乾いている。マイナスイオンドライヤーがあるからね。
さてステータスはどうなっているか……。
【ステータス】
―――――――――――――――――――――――――――――
教養 5
礼儀作法 9
ダンス 2
ルックス 9
センス 8
乗馬 20
―――――――――――――――――――――――――――――
「これが項目か」
初めて知るステータスの内容。
質問するより前に、妹はなぜか俺を褒めた。
「さすがですわ、お兄様」
「どのへんが?」
ヒドイ数値だってことだけはわかるんだが?
「馬を持っていないのに乗馬が20もあるんですもの」
「確かに……乗馬なんてしたことないのにな」
「やったこともないのに? さすがですわ~」
ゲーセンで騎手になるゲームならやったことがあるが。それで20なのか?
だが、なんか俺やっちゃいました、と言うにはショボすぎる。
「ダンスもゲーセンでやってるんだけど?」
騎手のやつよりよっぽどプレイしている。
なんなら一人で二人プレイすら可能ですよ?
200くらいあってもいいのでは?
「それって上手に女性をエスコートできるの?」
「いや、ごめん。悪かった」
ここでいうダンスは全然レボリューションしてないダンスだったわ。そりゃそう。
しかしダンスが2なのは理解できるが、ルックスはどうなってんだ。容姿と何が違うというのか。
「ルックスって……」
「それはこれから頑張ってお兄様」
「お、おう」
容赦なかった。
まあいいよ。ブサイク扱いされるのにも、イケメン扱いされるのにも慣れてるから。あんまりいないですよ、そういう人。
「礼儀作法は本を読めばいいんだよね」
「本には書いてないですよ。礼儀作法は心でするものなので」
「ええ……じゃあどうすんの」
「ひたすら練習あるのみです」
一番キツイやつ。
「教養は本でいいよね」
要するに勉強でしょ。もはや得意ですよ。
「もちろん詩を覚えることも重要ですが、オペラはやはり観劇しないとですわ」
「オペラを観劇」
「ワインも飲んでみないとわからないことも多いですわ」
「ワインを飲む」
体験しないといけないのか。勉強の方が全然楽だわ。
「ワインはセンスも磨かれますし」
「ああ、センスね」
これは芸術みたいなものかと思ったが。
「楽器の音の良さがわからない男とかヤバイですわ」
「格付けされるのかな?」
俺は芸能人じゃないんだが。
「壺がいいものかどうかもわからないといけませんわ」
「あの壺はいいものだってやつか」
確かにあの方はセンスありそうだった。搭乗機もセンスの塊だし。
「センスが悪いと贈り物をしても逆効果なので要注意なのですわ」
「なるほどですわ」
口調が感染ってしまったですわ。
センスは磨かないと駄目らしいですわ。
「ダンスも……練習するしか無いんだよな」
「もちろんですわ。でも女性をダンスにお誘いしてもお兄様のルックスでは無理ですわ」
「……」
舞衣だから怒らないが……。
ステータスを上げていく順番も気をつけないといけなさそうだ。
舞衣は一緒に住んでるわけでもないし、この機会にいろいろ聞いておくしかない。
「オペラを見るとか、ワインを飲むのにお金はかからないの?」
「お金を得る手段はございませんわ」
「えっ、ございませんの?」
「スタッフとして働いて袖口から見るとか、ウェイターの仕事をして余ったワインを飲ませてもらうのですわ」
「えっ、働いてるじゃん」
「お金のために働くなんてとんでもありませんわ。聖トゥインクルスターズ学園では無償で奉仕するのが当然なのですわ」
「そりゃご立派なことですわね」
単に他の奴らは金に困ってないからだろ。
馬だってみんな所有してんだろうさ。
「馬を持っていない場合、乗馬はどうするんだ?」
「馬の世話をしたお礼に乗せてもらえますわ」
要するにほとんどのことは、仕事しないとどうしようもないってことじゃないか。
勉強したり、筋トレしたり、ヨガしたりするだけの方がどれだけ楽だったか……。
しかもバイトできないから、アイテムが手に入らない。
全然ステータスが上がる気がしないぞ……。
「親密度は?」
「ん? なにそれ」
「えっ」
「よくわからないですわー、ごきげんよう」
逃げるように立ち去った。
なるほど、親密度はわからないシステムか……。
まあいいや、まずはステータスを上げるしかないだろう。




