異世界メモリアル【12周目 第4話】
ハードモードとはいえ、このまま行けば楽勝では?
ステータスはジリジリながらも上がっていくし、デートも順調だし、親密度は思いの外高いし。
そう思って2年生になったら様子が変わった。
「なんじゃ俺は……?」
朝、鏡の前に立った俺は驚愕していた。
ガリ勉になってるとか、ヤンキーになってるとかじゃない。
実羽さんと入れ替わってる~!?
とかだったらむしろよかった。
カッコイイ。
なんかカッコよくなってる。
それは問題なさそうに見えるが、これは明らかにヘン。
まず髪が緑。
金髪とかならまだ理解できるが、緑。
しかもロン毛。ひげは全く生えてないのに、眉毛は濃い。鼻も高いか。
カッコイイはカッコイイでも、俺の容姿マックスのときと比べると、だいぶクセの強いルックスだ。なんというかギャルゲー主人公のような、一般的な日本の男って感じがまったくしない。
あとイケボ。異常に声がカッコイイ。
「お、俺は、いったい……」
五本指を額に当てて、首を振るという大げさな動作が似合ってしまう。
しかし、この感じ。どっかで見たような。
「あ、お兄様」
お兄様!?
愛すべきギャルであるはずの妹は、なんか可愛いけど妙に地味な印象に変わっていた。
キャラクターメイキングの初期設定のような髪型と服というか……。
一言で言えばモブキャラのような……。
「今日から聖トゥインクルスターズ学園だね」
「ん!?」
「ほら、新しい制服」
「んん!?」
舞衣が持っているのは、肩にビラビラがついた無駄に派手な服。
学生服というよりは、貴族が戦うときのような……。
「あっ!?」
思い出した。既視感の正体。
実羽さんの周りにいる男たちに似ているんだ。
つまり、女性向けの恋愛シミュレーションゲームに出てくるキャラに。
よく観察してみると違うのは容姿だけじゃない。筋肉もついてるし、難しそうな本もすらすら読める。
2年生になる前とぜんぜん世界が違うじゃないか。
これはあれか、アナザーディメンションみたいなものか?
とりあえず、なんかイタイ名前の学校について聞こう。
「聖トゥインクルスターズ学園って?」
「今日から通う学園です。舞衣は中等部の生徒だから案内しますわ、お兄様」
ギャルの舞衣もいいが、こういう舞衣もいいですね……。
家を出ると、町は大きく変わっていた。
石畳の道路を、馬車が走っている。
単にガールズサイドなのではなく、完全に別世界だ。女性向けのゲームをやったことないから詳しくは知らないが、こういう世界観は理解できる。
「ここですわ」
「はいはい。こういう学校ね」
異常にデカい校舎です。
おそらくこの世界のエリートが全員ここに集まってる的な。
派手な格好の男たちが馬車から降りて、校舎に向かって颯爽と歩いて行く。
道の左右に人だかりがある。とりあえず左の方の様子を伺う。
「おお、麗しき煌嬢、どうかわたくしめとお茶会を」
「いやいや、美しい煌の君。ぜひ自慢の庭をエスコートさせていただきたい」
中心にいるのは星乃さんだった。ドレスみたいな学生服だが、顔は星乃さんで間違いない。
これでもかっていうくらいわかりやすくモテている。
「どけ、お前ら。煌は俺の女なんだよ」
わかりやすく俺様なキャラが登場した。
赤髪のセンター分けで、がっちりした体格だ。
後ろにはハートの目をした女性たちが何人もいる。
「な? 煌」
「……」
困惑している様子。
うーん。
なんだろうなあ。
とりあえずここは放置して、右側の人だかりへ。
俺の予感が正しければ……
「ステキだ、映子さん。お付き合いして欲しい」
「え、映子先輩。じつはボク、ずっと憧れてて……」
やっぱりな。
やっぱり実羽映子がモテまくっていた。
「どきたまえ。彼女が困っている」
オールバックでピシッと決めた長身の男が、四角い眼鏡をくいっと上げながら登場した。さっきのが熱血バカ俺様系イケメンだとしたら、こっちがインテリ優等生系イケメンだな。
「映子さん、さあ、一緒に行きましょう」
「……」
困惑している様子。
それはもうお芝居だとしてもかなり上手に。
なんだろう……すごく茶番なんだけど……。
確信に近いが、ここは妹に相談しておこう。
「舞衣、あの二人は」
「うん、この学園のマドンナの二人だね。この学園の男子の誰もがどちらか、もしくは二人ともを好きだって言う噂だよ」
「そうなんだ」
「さっきの二人の男子が、この学園で一番モテる男子の二人。だからお似合いだって言われているけど、どうもマドンナたちは乗り気じゃないみたい」
「へえ……」
へえとか言ってみたが、なんかもう大体わかりました。
要するに二人は、今の俺がご不満なんだと思われる。死ぬほど頑張るところを見たいという理由でハードモードを指定してみたものの、普通にプレイしてるし。どう考えても二人とも俺のこと好きだし、どっちを攻略しようかなーって余裕だったし。
それは俺の他に男がいないという状況がさせている。
そこでだ。二人ともが高嶺の花で、ライバルに打ち勝たなければならない。そういう世界なら、情熱的に俺の方からアプローチしなければいけなくなる。
星乃さんはこのくらいのことはできるはず。きっと実羽さんと結託して、設定を作りあげたのだろう。
「お兄様も、あの二人が気になる?」
「まあな」
「やっぱりね。お近づきになるなら、まずは同じクラスにならないとね」
「クラスが変えられるの?」
「クラスは基本的には家柄で決まるから、お兄様は一番下のクラスだけど、成績を上げたり、活躍したりすると上のクラスに移動するの」
「わかりやすいなあ」
わかりやすく、俺に頑張らせようとしている。
まったく……。
しかしながら、俺は生粋のゲーマー。
新しいゲームが始まると、ワクワクしてしょうがない。これはちょっと、楽しみかもしれない。




