異世界メモリアル【第33話】
「外見的にヒトと異なる場所なんてありませんよっ! せいぜい首から下の体毛が一切ないことくらいですっ」
ハァハァ……。
ハァハァ……。
違うぞ、これは、変態的な意味じゃないぞ。
決して彼女に毛が生えていないことを想像して興奮しているわけじゃない。
逃げ出した自立式人工知能は、普通の女の子より足が早かった。
追いつくために頑張って走ったから、息が上がってるんだ。
今はあいちゃんになんとか追いついて、話をしているところだ。
「そっか、すまなかった」
「ちゃんと普通の女の子として見てくださいよね? 普通の女子のおしっこを飲みたいとは思いませんよね?」
「…………」
「なんで無言なんですっ!?」
「ごめんごめん、まだ息が苦しくて」
「んもう、完全な変態さんかと思いましたよ」
尿じゃなくてそのまま出てくるんだから、その比較はおかしいだろ。
普通の女子のおしっこは飲みたくないけど、お前のは飲みたいよっ!
って思ったけど、それを言うのはなんとか我慢した。
どちらにしろ変態さん決定だからだ。
あぶねー。
「よし、気を取り直して普通のデートをしよう」
「しょうがないから、名誉挽回のチャンスをあげますよ」
一応許してくれたらしく、微笑みを見せてくれた。
俺は定番のルートを案内する。
まずはメリーゴーランドに乗る。
「きゃー」
コーヒーカップに乗る。
「きゃー」
ジェットコースターに乗る。
「きゃー」
歩きながら、次はどこに行くかという質問をしてきたあいちゃんに俺は言った。
「ひょっとして、全然楽しくないのでは?」
「ええっ!? そ、そんなわけないじゃないですか」
「アトラクションのリアクションが全部棒読みなんだが?」
「うう……だって1秒後の自分がどうなるか全部予測できちゃうんですモン……」
次の自分の状態が計算できちゃって、そのとおりになるだけだから驚きがないと。
物理法則に則ってる以上はスリルを感じないってことか。
普通の女子じゃねぇ。
だが、そこを気にしてるみたいだし、他に楽しめるものを選ぼう。
「お化け屋敷は、なかなか本格的みたいだぞ」
「そうなんですね、お化けは怖いですよっ?」
なんて嬉しそうな声で言うんだ。
これほど怖がることに対してポジティブな人がいるだろうか。
お化け屋敷は日本風でも洋風でもなかった。
異世界風だ。
「ぐぎょらぱ!」
突如出てくる異界のモンスター!
だけど、うーん、なんだろ。
俺から見たら、ゆるキャラのきぐるみみたいな感じ。
怖いとか怖くないとかじゃなくて、なにこれ? って思うだけ。
「きゃあああ!」
あいちゃんが怖がってる。
全然共感できない。
「怖いか? これ」
「先輩、こんな理解できないもの、恐怖しかないですよっ」
「そんなもんかね」
「怖いっ、怖いっ」
怖がってるわりに嬉しそうなんだよな。
「むぎょらぽしぶれ!」
「ひゃああああ!」
またしても意味不明な生き物が出てきて怖がるあいちゃん。
背中にしがみついて、シャツを掴んで震えている。
蜘蛛を怖がる幼児のようで、愛らしい気持ちが芽生えた。
「あぎょっぱー!」
「ひえっ、ひええっ」
「ふふふ」
怖がる様の可愛さよ。
お化け屋敷において、気持ちが癒やされていく俺。
遊園地サイドの思惑とは異なるだろうけど、俺は俺でこのアトラクションを楽しめてるから安心してくれ。
「あばばばでべべ~」
「んぎゃあああ」
「ははは」
そんな感じでお化け屋敷は終わった。
「先輩、少しも怖がらないんですね。あ~んなに意味がわからなくて気持ち悪いのに」
少し大股でスニーカーを高く上げて歩きながら、感心したような声をあげる。
意味不明すぎて怖くねえんだよ。
「ちょっと見直しました」
これで見直されるとは、思わなかったぜ。
デート場所の選択に成功したと考えていいだろうな。
少し並んで歩いていると、何かを見つけたのか、彼女が立ち止まった。
「あれ、やりません?」
指差す先を見ると、射的のようなゲームがあった。
縁日のようなショボいやつじゃない。
軍隊で扱うレベルの銃で、ゲームセンターみたいなシューティングをリアルでやる感じ。
これはゲーマーとしては腕が鳴るっ!
「やらないでか!」
「先輩、ノリノリですね! 負けませんよ?」
消音装置のついた銃を構えるあいちゃん。
銃は彼女の顔よりも大きい。
俺も銃を手に取る。
ずっしりとした手応えだ、これ本物なんじゃないの?
[ HOW TO PLAY ]と書かれたルールを読む。
警官を殺すと100点、民間人を殺すと10点、テロリストを殺すと-200点か。
って普通逆だろ!?
なんでテロリスト側なんだよ!?
倫理観が崩壊してんな、この遊園地。
「私からやりますよっ」
バスーン、バスーンと重たい音を立てて放たれる銃声。
サイレンサーって装着してても結構音がするんだな。
発射の反動であいちゃんの肩が動いている。
ガチだ、この銃……。
さすが人工知能、結構ゲームが上手い。
的確に警官と民間人を撃ち殺している。
ほぼヘッドショットで。
ターゲットはイラストではなく実写だ。
ゲームはよく出来ていて、打たれたときのリアクションもリアルだった。
流石に脳漿がぶち撒かれることはないが、割とがっつり血が出て絶命する。
子供には見せられないくらいにはエグいゲームだ。
さっきのお化け屋敷なんかよりは遥かに怖い。
「ああん」
艶めかしい声を出したのは、ミスショットのせいだ。
テロリストを撃ち殺してしまった。
無理もねえ。
人工知能は意外と顔の判別がつかないのか、結局全員殺してしまった。
恐ろしい話だぜ。
「なんか楽しくって、つい撃っちゃうんですよ~」
天真爛漫な笑顔で、物騒なことを言う。
楽しかったなら良かったが。
「んじゃ、俺がやるぜ」
バスーン!
両腕に来る反動が凄い。
これは面白い。
的確に頭を撃ち抜いていく。
別にヘッドショットしても点数変わらないが、負けた気がするからな。
「すごい、テロリストを間違って撃たない」
目を見張るあいちゃん。
感心されたぜ。
俺だって伊達にゲームしすぎて死んでないからな。
――ちっ。
民間人を2人殺し損ねた。
しかし警官は全員撃ち殺して、テロリストへの誤射はゼロ。
「本日のハイスコア更新~! 優秀なテロリストさんにこれをプレゼント~」
遊園地のロゴ入り目出し帽を貰った。
普段使ったら職質されちゃうじゃん。
いらねえ。
変な遊園地だな、ここ。
「いいなぁ~」
なんと、羨ましがる人がいた。
「あげようか?」
「えっ!? いいんですかっ!?」
「ああ、こんなもので良ければ」
「嬉しいですっ、すぐに被りますね?」
「いや、それはやめてくれ」
何故かわからないというように、きょとんとする彼女。
目出し帽を被ったところがイベントCGだったら、嫌過ぎるだろ。
このデートは、ギャルゲーじゃないけどさ。




